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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
117/188

113 お金と夢

三月はあっという間ですね。

 カールさんからお金の管理の仕方、具体的には家計簿のつけ方について聞いた私とエマは、早速壁にぶつかっていた。


「ドーラお姉ちゃん、これ一体何枚あるの?」


「・・・ごめん、数えたことないから分かんない。」


 私の部屋の床を埋め尽くすほど大量の銀貨。これは私が今持っている銀貨のすべてだ。


 最初にカールさんから「まずは自分の所持金を確認しておくといいですよ」と言われたので、エマと二人で数えてみようということになったのだけれど、あまりにも数が多すぎた。


「お姉ちゃんが銀貨大好きなのは知ってたけど・・・よくこんなに集めたね。」


「うん、すごいでしょう?私、がんばったんだよ!」


 私がそう言うとエマはちょっと困った顔をして足元の銀貨を掬い上げた。しゃらしゃらと銀貨同士がぶつかる素敵な音が響く。ああ、やっぱり銀貨は最高ね!






 この銀貨はこの5年間に、私がいろんな人から仕事の報酬や品物の代金として受け取ったものだ。


 このうちのほとんどはサローマ伯爵から塩や妖精の森の一件でのお礼や、商人のカフマンさんから魔法薬や魔道具の代金としてもらった。その他にも宿屋で給仕を手伝ったり、ギルドにお薬を売りに行ったり、金物を修理したりした分も入っている。


 あとは東ハウル村の酒場『熊と踊り子亭』がすごく忙しい時にお手伝いに行ったり、渡し舟の親方をしているアクナスさんに頼まれて大きな荷物を運んだり、ギルドで厄介者の魔獣の肉を引き取ったり・・・。


 あ!私が獲物として狩った魔獣の魔石をカフマンさんに売った分も入っているんだっけ。あれ一個でものすごい数の銀貨をもらえるんだよね。


 そんなにいらないって言ったのに「これでも少ないくらいですから!」って言って、袋一杯の銀貨をもらったことも度々あった。


 こうやって振り返って考えてみると、いろんなことをして銀貨をもらっていたんだなと驚いてしまう。






「・・・眺めていても、しょうがないから数えてみようか。」


「そうだね、エマ!頑張ろう!」


 こうして数え始めた私たちだったけれど、結局その日一日数え続けてもほんの一部しか数え終わらなかった。


 日が暮れた後もずっと数え続けていたエマが、足元の銀貨の上に倒れこむ。


「もうダメ・・・。目の前がチカチカして数が分かんない・・・。」


「エマ!しっかりして!!」


 数えた銀貨を小分けにして詰めていた袋を持ったまま、エマは気を失ってしまった。私はそっとエマを私の寝台の上に載せ、《安眠》の魔法をかけた。


 確かに私もちょっと疲れちゃった。私は床に広げた銀貨の上に寝転がった。銀貨の上をコロコロと転がってみる。私の周りを銀色の素敵な光が包み込み、銀貨同士がぶつかり合う涼し気な音が私を癒してくれる。


 ああ、素敵だ。こうやってピカピカの銀貨の上で寝転がるのが私の密かな楽しみなのです。






 王国銀貨は形が不ぞろいで、厚さや大きさも一つ一つ違っている。多分溶かした銀を何かの型に流して固めて作ったせいじゃないかな。たしかこれ『鋳造』っていう作り方だったはずだ。


 不ぞろいな形は光を色々な方向に反射させるので、こうやって眺めるにはきれいでいいのだけれど、数えるときにはとても厄介なのだ。


 一枚一枚手に取って、それを袋に小分けにしていかなくてはならず、これが物凄くめんどくさい。ドワーフ銀貨みたいに厚さも形も一定で、完全な真円だったら積み重ねて数えられるんだろうけど、王国銀貨は重ねた端から崩れてしまうのだ。


 一体どうすればいいんだろう。どうにかして簡単に数える方法はないのかな?


 考えてみたけれど、いい方法が思いつかない。そうだ!カールさんに聞いてみよう。お金に詳しい彼なら何かいい方法を知っているかもしれない。


 私は部屋の中の銀貨を《収納》の魔法で片付け、自分の体を魔力で温めてから、エマの寝ている寝台に潜り込んだ。エマの体を冷やすといけないからね。


 秋に取り換えたばかりの寝藁はとても柔らかくていい匂いがする。私はエマの体を包み込むように抱きしめ、エマの寝息と心臓の鼓動を聞きながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。






 翌日、私とエマは再びカールさんの家を訪ねた。私がお金の数え方について相談すると、彼は顎に手を当てて考えてからこう言った。


「普通ならたくさんの文官を使って数えますが、大体でいいなら重さを量ってみるのが一番早いかもしれませんね。」


「重さですか?」


「はい。王国の銀貨は形や厚み、大きさは不ぞろいですが、重さは大体どれも同じなんです。」


 カールさんが言うには、銀貨は世界中の国で『流通』しているそうだ。ただ国によって銀貨のデザインは異なっている。そこで取引をするとき困らないように、どの国の銀貨も大体同じ重さになるように作られているらしい。


「他国の通貨で取引するときは、専用の秤を使って互いの重さを比べることもあるんですよ。」


 私は彼の話にすっかり感心してしまった。ふむふむ、そうやって決めごとをすることでお金のやり取りをしやすくしているのか。やっぱり人間って賢いなー。





 その後、私たちは水を入れた樽と銀貨を詰めた樽の重さを比較することで、大体の銀貨の量を知ることができた。


「水の重さから換算すると銀貨の枚数は・・・おそらく58775枚ですね。」


「それってつまり・・・200万D以上ってこと!?」


 驚きの声を上げるエマにカールさんが言った。


「正確には235万1千Dだね。王都領の税収の約2か月分。中規模領主の資産と同程度かな。」


 それを聞いてエマも私もびっくりしてしまった。


「ドーラお姉ちゃん、そんなにお金持ちだったんだ・・・。」


「うん、私も全然知らなかったよ。でもこれでエマのお金の心配はなくなったよね?」


「それはそうだけど・・・お姉ちゃんはいいの?他に何か使う予定はない?」


 使う予定と言えば、銀貨で寝床を作るくらいしかない。それにまだ金貨やドワーフ銀貨もある。もしエマが必要なら、全部使ってくれても構わない。


 私がそう言うと、エマは「ありがとう。でも使った分は、ちゃんと返すね」と言った。






 カールさんのおかげで所持金の額を知ることができたので、その後何をすればいいのか、聞いてみることにした。


「まずは基本はお金の出し入れを管理することですね。最初は入ってくるお金『収入』と出ていくお金『支出』の記録をしていくといいですよ。」


「ただ金額を書いておけばいいんですか?」


「いいえ、出来ればどんな状況でいくらお金が動いたかを書き加えておくといいです。そうすることで今後の収支を予想することができますから。」


 ふむふむ。つまりいつ、どのくらいのお金が必要になるかを知ることができるようになるってことか。


「エマの場合、入学初年度にかかる費用の大半は国王陛下とガブリエラ様が負担してくださっています。ですが次の年度からは自分でやりくりしていかなくてはならないので、最初の年にどのくらいの収支があったかを記録していくことをお勧めします。」


「分かりました、カールお兄ちゃん!」


 エマが元気よく返事をし、カールさんがエマの頭を優しく撫でた。私はそれを見て、すごく嬉しくなった。


 今まではあまり深く考えることもなく、ただきれいだからと銀貨を集めてきたけれど、そのお陰でエマの将来を切り拓くことができた。


 お金が人の夢を叶え、未来を切り拓く力になるってことを、私はこの時、初めて知った。






「カールさん、私が持っているお金って、エマに使ってもらっても、まだまだ余裕がありますか?」


「はい。十分すぎるほどですね。・・・どうかしましたか?」


 じっくりと考える私を見て、カールさんが心配そうに声をかける。


「私、このお金を使って、皆の夢を叶えてあげたいです。」


「!! それ素敵だね!」


 エマが私の言いたいことに気が付いて、嬉しそうな声を上げた。


 私はお金が大好きだ。でも使い道はない。だから私のお金を必要な人に渡して使ってもらうのだ。そうしてエマみたいにいろんな人に自分の夢を叶えてもらう。


 今にして思えば、カフマンさんもそうやって夢を叶えた一人と言えるかもしれない。私のお金が誰かを幸せにする。それはとても素晴らしいことだと思う。


「必要な人にお金を渡してあげるんです。いい考えだと思いませんか?」






 でも私の話を聞いたカールさんは、すごく困った顔をした。


「ドーラさんの思い付きはとても素晴らしいと思います。でも難しいでしょうね。」


「どうしてですか?」


 私が理由を尋ねると、カールさんはそれに答えず、逆にエマに質問をした。


「エマ、もしドーラさんがハウル村の人に、これからは好きなだけお金を上げますよと言ったとしたら、どうなると思う?」


「?? あっ・・・!!」


 ちょっと考えた後、エマはすぐに声を上げシュンとした。


「どうしたの?なにか分かったのエマ?」


「これはダメだよ、ドーラお姉ちゃん。そのやり方だと逆に皆の夢を壊しちゃう。」


 私はその言葉にすごく衝撃を受けた。皆の夢を叶えるはずのお金が、逆に皆の夢を壊す?






「あのね、必要なだけお金をあげますって言われたら、きっとみんなお仕事しなくなっちゃうと思う。」


「え、そうなの?」


「うん。例えばペンターさんの徒弟さんたちが毎日お仕事を頑張ってるのは知ってるでしょ。」


 私が頷くとエマが説明してくれた。


「徒弟さんたちの給金はすごく安い。でも一人前になって職人として認められれば、給金は増える。だからみんなそれを目指して頑張っているんだと思う。」


「そうだね!皆、ちょっとでもいいものをつくろって頑張ってて偉いよね!」


「じゃああの徒弟さんたちに、何にもしなくても毎日職人さんと同じだけお給金をあげますって言ったら、どうなると思う?」


「あっ!!」


 そこまで言われてやっと分かった。お金を上げることで頑張る気持ちを奪ってしまうことになるのか!





「で、でも人間・・・じゃない、村の人たちはすごく賢いじゃない?お金があっても頑張る人はいるかも・・・。」


「そういう人も、もちろんいるかもね。でもね、お姉ちゃん。私はやっぱり自分で頑張って稼いだお金の方が、頑張れる気がするよ。」


 そう言えばそうだ。私も誰かのために何かしてもらったお金の方が、ずっと嬉しいもの。


 せっかくいいことを思いついたと思ったのに、ダメだった。しょんぼりする私にカールさんが言った。






「ドーラさんの思いつきはとても良いと思います。方法を変えれば、すごくよいと思いますよ。」


「方法ですか?」


「そうですね。例えばお金をただ渡すんじゃなくて期限を決め、安い利子をつけて貸す、とかでしょうか。」


 彼が言うには、人間はそうやってお金の貸し借りをしているそうだ。王都にはこれを専門の仕事にしている『貸金屋』という人もいるという。


 貸したお金を返してもらうときに『利子』というのをつけて、お金を稼ぐ仕事らしい。この利子は王国の法律では一年で1割と決められている。1割というのがよく分からないけれど、銀貨10枚借りたら11枚にして返すということみたい。


 ただこれはあくまで表向きで、実際はもっと短い期間で高い利子を取る『高利貸し』が横行しているそうだ。


「私、別にお金を増やそうなんて思ってませんよ?」


「それは分かります。ただそうすることで、本当に必要な人にお金を届けてあげることができるということです。」


 平民には普通、お金を貸してくれる人がいないので、それだけでも十分に価値があるのだと彼は言った。






「カールお兄ちゃん、お金を貸すのはいいとして、もし返せなかったらどうなっちゃうの?」


「それは契約の内容次第だね。『担保』があればそれをお金の代わりに引き渡すか、なければ自分や家族が奴隷として売られることになるよ。」


 そう言えば私がこの村に来た時、『逃亡奴隷』じゃないかって疑われたんだっけ。


「カールさん、奴隷ってなんですか?」


「街道で時々隊商の荷物運びなどをしている男を見かけることがあるでしょう?彼らが奴隷です。」


 そう言えば街道を通る馬車の脇で荷物を背負って歩いている人たちを見たことがある。でもそんなにハウル村の人たちと違いはないように見えたけれど?






「・・・そう言えばハウル村の村人も、ちょっと前までは似たような見た目でしたね。まあ奴隷は言ってみれば、自由のない働き手です。契約魔法で縛られていて、契約が果たされるまでは逃げられないようになっているんですよ。」


 隊商について徒歩で荷物運びをする人たちは『重荷役夫』という人たちで、その多くが奴隷なのだそうだ。彼らは『借金奴隷』で、借りたお金を返せなかったために奴隷にされてしまった人たちらしい。


 普通5~10年働くと解放されるけれど、その間は給金をもらうことができず、自由民との結婚も出来ない。またお金で売買されることもあるが、その場合は少し『年季』が短縮されるそうだ。


「男女問わず労働に従事させられますが、借金奴隷がひどい扱いを受けることは稀です。奴隷は主人にとっては大切な資産ですから。」


 女性の場合は家事の下働きなどをさせられることが多いそうだ。あと男女問わず見た目の美しい奴隷は『愛玩奴隷』という仕事に就くこともあるらしい。


 他にも『犯罪奴隷』という人たちがいる。罪を犯したために罰として奴隷にされてしまった人たちで、危険な仕事に従事させられるため、すぐに命を落とす人が多いそうだ。






 私は奴隷の話を聞いて、悲しい気持ちになってしまった。お金のためにそんな目に遭う人がいるなんて思っていなかったからだ。しょんぼりする私にカールさんは言った。


「お金は人を救いもしますが、時には傷つけることもあるんです。だからこそ、お金についてしっかりと学ぶ必要があるんですよ。」


「そうすれば、お金で人を助けられるようになるでしょうか?」


「はい。きっとなれます。私も出来る限り力になりますよ。」


 カールさんが私に力強く言ってくれた。エマも「私も手伝うよ、ドーラお姉ちゃん!」と笑った。


 よし、私のお金で困っている人たちを助け、夢を叶えてあげられるように、頑張ろう!


 私はその後、エマと一緒にカールさんからいろいろとお金のことを教わったのでした。






 その日の夜、夕ご飯の時にその話をフランツさんにしてみると、彼は少し考えた後、マリーさんに言った。


「マリー、ゲルラトの奴に、この話してみたらどうだろう。」


「ああ、そうだね!あんた、明日一緒に行ってやったらどうだい。」


 ゲルラトさんというのは、ハウル村で木こりをしている男の人だ。他の木こりさんたちに比べると少し小柄だけれど、刃物の扱いが抜群にうまい。


 秋祭り前に行われる豚の解体では、彼と成人した彼の息子たちが毎年大活躍している。お金にうるさく、ちょっと口が悪いので時々トラブルを起こしているけれど、基本的には気のいいひとだ。


「ゲルラトさんは、お金が必要なんですか?」


「ああ、あいつには昔から『肉屋』になりたいっていう夢があるのさ。若いころからそのために金を貯めてるって聞いたことがある。」






 王国の肉屋さんは専門の資格を持つ職人さんだ。肉の製造・加工・販売をするために、精肉の腕前は勿論のこと、ギルドに加盟する必要がある。


「ゲルラトの実家は王都の肉屋でな。本当は肉屋になりたかったらしいんだ。だけど兄弟が多くてなれなかった。それで親父アルベルトさんや俺の父さんと一緒にこの村の開拓に携わったんだよ。」


 新しい村で肉屋を開業するというのが、ゲルラトさんの夢だったのだそうだ。しかしそれから15年以上経っても、その夢は叶えられていない。


「精肉ギルドに加盟するためには、高い金を払って『店舗株』を買わなきゃならないのさ。」


 その上、開業の資金も必要になる。お金を工面したくても、辺境の開拓村の貧しい木こりにお金を貸してくれる人などいるわけがない。だからゲルラトさんは機会を見つけては、少しずつお金を貯めていたらしい。


「ドーラが金を貸してくれるっていうんなら、あいつきっと、すごく喜ぶと思うぜ。」


 フランツさんの言葉にマリーさんも頷いている。身近なところにお金を必要としている人がいたなんて、全然知らなかった。エマもすごく驚いていた。






 翌日、炭焼きが始まる前にゲルラトさんの家を、私とフランツさんとで尋ねた。


 急に訪ねてきた私たちを不審そうに見ていたゲルラトさんだったけれど、フランツさんが理由わけを説明すると、目の色を変えて話に食いついていた。


「ほ、本当に俺に金を貸してくれるのか?俺には担保になるもんなんて、何にもねえぞ。それでもいいのか?」


「ああ、ドーラはそれでいいって言ってるぜ。そうだな、ドーラ?」


「はい。えっと『お店が軌道に乗るまでは無利子で』でしたよね、フランツさん。」


「そ、そりゃあ、本当か?俺を担いでるんじゃねえだろうな!」


 噛みつかんばかりの勢いで私に詰め寄るゲルラトさんの頭を、彼のおかみさんがすぱーんとひっぱたいた。






「馬鹿だね。ドーラちゃんが怯えるじゃないか。ごめんよドーラちゃん。」


 片手に小さい女の子を抱いたおかみさんが私に謝る。私は「大丈夫です」と言って、小さな女の子に手を振った。女の子は嬉しそうに笑った。


 ゲルラトさんが突然、床の上に崩れ落ちた。フランツさんが慌ててしゃがみ込む。


「お、おいゲルラト。大丈夫か?」


「俺が肉屋に・・・!俺の夢が叶うんだ!やったー!!」


 ゲルラトさんは大柄なフランツさんに抱き着いて、歓声を上げた。日頃見ない父親の様子を見たゲルラトさんの子供たちが目を丸くして驚いていた。






 その次の日、ゲルラトさんとその息子たちは冒険者ギルドで護衛を雇い、王都へと出発した。


 そして半月後、荷馬車いっぱいに肉屋を開業するための道具を積んで、村に戻ってきた。出迎えに来た村人に、ゲルラトさんは大きく手を振った。


 馬車の御者台に座っていた雪まみれの彼は飛び降りるなり、私の所にやってきて自分の外套から、金色に輝くメダルを引っ張り出して見せた。メダルには交差する鉤と包丁が描かれている。


「これが精肉ギルド員のメダルさ。ドーラ、本当にありがとう。」


 彼は手袋を外し、私の手を握ると目に涙を浮かべた。しばらくして手を離した彼は、私とエマに言った。


「この礼は必ずするからな。」


 そうしてハウル村に肉屋さんが出来た。ゲルラトさんの家を改装して作った作業場と家畜の農場は村の西側にあり、そして街道沿いにはおかみさんが切り盛りする肉屋の店舗がある。


 私が魔法で雪を避け、ペンターさんたちが頑張ってくれたおかげで、その月の終わりにはお店の営業を始めることが出来るようになった。


「これ、食ってみてくれ!」


 お店に遊びに行った私とエマに彼が差し出したのは、黄色くて小さいパンのような食べ物だった。油で揚げてあるらしく、外側はカリッとしてすごく熱い。






「!! これ、すごく美味しい!!」


 ふうふうと息を吹きかけながら一口食べたエマが、歓声を上げた。私も食べてみる。さくりとした外側の生地の中に、ほくほくしたジャガイモとひき肉、そして香草が入っている。初めて食べる料理だ。エマが喜ぶのが分かるくらい、ものすごく美味しい。


「美味いだろ?コロッケっていうんだ。俺の親父が店で出してたのさ。他にもいろんな種類があるぞ。」


 ゲルラトさんのお店には加工した肉類の他、すぐに食べられるこういう軽食がたくさん並べられていた。これらの食べ物はすごく人気になり、ゲルラトさんのお店は冬にも関わらず大繁盛するようになった。


 私はエマと一緒にコロッケを齧りながら、私のお金を役立てることができて、本当に良かったと思った。そしてこれからも、お金で多くの人たちを幸せに出来るよう、勉強を続けようと思ったのでした。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:上級錬金術師

   中級建築術師


所持金:2348540D(王国銀貨のみ)


 → ゲルラトへ出資中 10000D


 ← 薬・香草茶の売り上げ 2500D

 ← 金物の修理代 40D

 ← カフマン商会との取引 5000D

読んでくださった方、ありがとうございました。

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