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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
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97 防具

いつものドーラさんのお話です。

 ダンスの練習の翌日は、すごくいいお天気になった。エマは朝からテレサさんたちの冒険者集団『聖女の導き』に参加して、迷宮の場所を探索するため、村を出ていった。


 私はその間に、エマの冒険の手助けが出来ないかと考え、フラミィさんの家を訪ねることにした。ペンターさんとフラミィさんの住んでいる家は西ハウル村の街道から少し離れたところに建っている。


「おはようドーラ、どうしたんだいこんなに朝早くから。」


 訪ねていくとゆったりとした服を着たフラミィさんが出迎えてくれた。その服の裾をぎゅっと握ってフラミィさんの後ろに隠れるように立っている小さな男の子は、今年で2歳になるフラムくん。ペンターさんとフラミィさんの長男だ。


「おはようございます、フラミィさん。フラムくんもおはよう!」


「お、おはよござます・・・。」


 フラムくんは消え入りそうなほど小さな声で挨拶を返した後、すぐにフラミィさんの服の裾に顔を埋めてしまった。フラミィさんがしょうがないねという感じで、フラムくんの頭をポンポンと撫でた。母親譲りの赤い髪をした彼はますます彼女の服をぎゅっと掴んだ。


「この子はどうにも人見知りでね。多分、あの人に似たんだと思うんだけど。」 


 フラミィさんは湧き上がる炎の様に波打つ美しい赤髪を揺らしながら、苦笑交じりにそう言った。仕事中はいつもきっちりと髪をまとめているから、こんな彼女の姿はちょっと新鮮だ。






「フラミィさん、お腹すごく大きくなりましたね。そろそろ生まれるんですか?」


「多分、今月中には生まれるんじゃないかって、テレサ様はおっしゃったけどね。マリーとどっちが早いかねぇ。」


 フラミィさんは大きくなったお腹を手でそっとさすりながら、そう言った。


「マリーさんは来月のはじめくらいだろうって言ってました。無事に生まれるといいですね。」


 フラミィさんは「ありがとうドーラ」と言って笑い、私の前髪にそっと触れながら尋ねた。


「ところで用事はなんだい?あの人ならもう現場に出かけちまってるけど?」


「いえ、今日はフラミィさんに相談したいことがあってきたんです。」


「そうかい、じゃあ中にお入りよ。フラム、あんたは奥で遊んでな。」






 私はフラミィさんに案内されて、家の中に入った。家の中は可愛らしい家具で溢れ、それがきちんと片付いている。几帳面なフラミィさんらしいなと思った。


 私たちが椅子に腰かけると、家の奥から木をカンカンとぶつけるような音がかすかに聞こえた。多分さっき奥に走っていったフラムくんが何かしているのだろう。


「あの人が作った積み木で、鍛冶の真似事をしてるのさ。工房に連れて行ったことなんか、ほとんどないんだけどね。血は争えないってやつかね。」


 フラミィさんは愛おしそうな目を音のする方に向けた。フラミィさんの仕事場である鍛冶工房は、東ハウル村の南の外れにある。


 彼女とペンターさんは今や十数人の徒弟を抱える親方と棟梁だ。フラミィさんの鍛冶術の腕前はかなり高く、冒険者さんたちからの評判も上々。彼女の作ったものを求めて、遠くの村からわざわざ訪ねて来る人もいるほどだ。


 だけど今は出産を控え休業中。鍛冶の熱や騒音、衝撃はものすごいので、赤ちゃんに万が一のことがないようにしているのだそうだ。その間、工房は徒弟の人たちが切り盛りしてくれている。


「この子が乳離れしたら、あたしもすぐに仕事に戻るけどね。」


 彼女はそう言って、大きくなったお腹を撫でた。そして「相談って何だい?」って、私に話を促した。






 私はエマの冒険の助けになるようなものを作りたいと彼女に話した。彼女はちょっと考えた後、私に言った。


「普通に考えたら、武器か防具を作ることかねぇ。」


「私もそう思います!だからフラミィさんに相談しようと思って。」


 冒険者さんたちは皆、防具でしっかりと身を守っている。エマも特注の革の胸当てをつけているけれど、最低限急所を守る効果しかない。だからエマの身を守るためにもっといい防具を作れないかと思ったのだ。


 本当は私の作った竜虹晶の首飾りを着けていてほしいんだけど、「守りの効果が高すぎてエマの修行の邪魔になる」とガブリエラさんが言ったので、エマが自分から外して《収納》にしまっている。


「なるほどね。それで防具を作ろうと思ったんだね。」


「そうなんです。エマの修行の邪魔にならない程度で、エマの身を守るために何か作れないでしょうか?」






 フラミィさんは少し考えた後、「それなら『鎖帷子チェーンメイル』がいいんじゃないかねぇ」と言った。


 彼女によると鎖帷子は細い鎖で編んだ防具で、他の防具の下に着ることができるという。素材にもよるけれど、他の防具に比べて軽く動きやすい割りに高い防御効果が期待できる。


 特に爪や牙による攻撃には効果が高いらしい。ただ刺突や殴打に対してはほとんど効果がないので、他の防具と組み合わせて使うことが多いそうだ。


「ベスト型にして胴体部分を守るだけならほとんど動きの邪魔にもならないし、革の胸当てと併用するならかなり防御が上がると思うよ。」


「それいいじゃないですか!私、鎖帷子作ってみたいです。」


「うーん、でもあれ作るのにかなり手間と時間がかかるからねぇ。」


 鎖帷子を作るには細い金属の輪をそれこそ無数に作らなくてはならないらしい。細く伸ばした金属を少しずつ輪の形になるように切断して編んでいく。そのため一つ仕上げるにも、膨大な時間と手間、そして熟練の技術が必要になるそうだ。


 量産品だと金属板から直接輪っかを打ち抜いて、鎖でつなげるという方法もあるみたいだけど、それでもやはり編む作業は必須になってくる。


 最近やっと紐をちゃんと結べるようになったばかり私には、到底出来そうにない。私は自分の不器用さを呪い、ガッカリと項垂れた。






「元気出しなよドーラ。あたしの出産が終わった後でなら手伝ってあげるからさ。」


 フラミィさんがそう言って私を慰めてくれた。せっかくフラミィさんにいいアイデアを出してもらったのに、私が細かい作業ができないせいで、ダメになってしまった。すごく悔しい。


 こんなことなら器用さを上げるために、もっと真剣に編み物や裁縫を練習しておけばよかった。これまで難しい作業はいつも家妖精のシルキーさんにやってもらっていたからなあ。


 んん、待てよ。編み物?


 編み物ならシルキーさんにお願いできるじゃない?


 ものすごく細く伸ばした金属の糸を使って、それをシルキーさんに編んでもらったらどうだろう。私は自分の思い付きをフラミィさんに話してみた。






「へえ、それは面白いね。金属で作った編み物か。考えたことも無かったよ。でも、編み物出来るくらい薄い金属じゃ、防御力は期待できないんじゃないかい?」


「あ!そうですね・・・。」


 体を守るための防具を作るのに、薄くして防御力が落ちてしまったのでは何にもならない。編めるくらい薄い金属の布では魔獣の攻撃で簡単に破れてしまうだろう。せっかくいい思い付きだと思ったのに。がっかりです。


「いや、待ってドーラ。普通の素材だとうまくいかないと思うけど、魔法銀ミスリルみたいな素材だったらうまくいくかもしれない。あんた、魔術付与も出来るんだろう?」


「錬金術師ですから、一応できますよ。」


「糸みたいに細くした魔法銀ミスリルを使って編み物、いやいっそのこと織物を作っちまえばいいんじゃないか?」


「!! それに私が守りの魔法を付与すれば・・・!」


「並みの鎖帷子どころじゃない。すごい防具ができそうだよ!ああ、いいね!今すぐにでも仕事がしたい!」


 フラミィさんがすごく興奮してそう言った。彼女はモノづくりが大好きなのだ。自分のアイデアを形にしたくて仕方がないのだろう。






「ところで、あんた材料になる魔法銀を持ってるのかい?」


以前まえにこの『おしゃべり腕輪』を作ったときの残りがまだちょっとありますよ。」


 私は腕にはまった魔道具を彼女に見せた。これには《念話》の魔法陣が仕込んであり、距離に関係なく対になる腕輪を持っている人と話すことができる。


 ただ起動にかかる消費魔力が物凄いので使いこなせる人が少ないのが難点だ。だから今のところ持っているのは、私とガブリエラさん、そして王都にいる王様の三人だけ。


 《念話》は無属性魔法なので、精霊魔法の術式も組み込めない。ガブリエラさんも消費魔力を減らせないかと研究しているけど、彼女の専門は錬金術と闇魔法だし、もともとやっていた植物活性化の研究が忙しいので、あまり進んでいないみたいだった。


 まあ、便利だけどどうしても必要という道具ではないから、別に今のままでも構わないと思うんだけどね。


 私は残っている魔法銀を《収納》から取り出して、フラミィさんに見せた。私の手の平に乗るくらいの魔法銀の延べ棒を見て、彼女は言った。






「うーん、これじゃあ防具を作るには足りないね。カフマンに取り寄せてもらうしかなさそうだ。到着するのは早くても、来月くらいになりそうだけど。」


 ため息を吐くフラミィさん。彼女の工房にも魔法銀の在庫はないそうで、申し訳なさそうに私を見た。


「大丈夫です、フラミィさん!私に心当たりがあります。代わりのもので何とかしますから。」


「魔法銀の代わりになるような素材があるのかい?軽くて、丈夫で、魔力の通りがいい素材なんて、他に何があったかねぇ。」


 不思議がる彼女にお礼を言って、私は彼女の家を出た。彼女はあとでカフマンさんに魔法銀を注文しに行くそうだ。さっきのアイデアを試してみたくて仕方がないのだろう。


 私は出来上がったら魔法の服を彼女に見せに行くことを約束して、《転移》で自分の部屋に戻った。






 窓をしっかりと閉め、魔法の明かりの灯った人気のない部屋の中で、私は魔法銀より強く、軽く、魔力をよく通す素材を《収納》から取り出す。


 大人の男の人くらいの大きさがある、楕円形をした乳白色の板は、魔法の明かりを反射してキラキラと虹色に輝いた。これは、私が成長する間に剥がれ落ちた鱗だ。


 以前ねぐらの洞穴にたくさん落ちていたのを拾って《収納》にしまっておいたのだ。今まで使い道がなかったから放っておいたけれど、今回の防具づくりにはぴったりだと思う。


「《領域創造》&《素材形成》」


 取り出した鱗を《領域》の中に入れて魔力を流し、《金属形成》を弄って作った《素材形成》の魔法で髪の毛くらいの細い糸に変えていく。


 何しろ元は自分の体の一部だから、細く伸ばすくらい簡単にできるのだ。あっという間に虹色に輝く糸が大量に出来上がった。


 私は部屋を出て、マリーさんと一緒に家事をしているシルキーさんの所に行った。






「マリーさん、シルキーさんに織物を手伝ってほしいんです。織機を使ってもいいですか?」


「あんたが織物をねえ。使うのはシルキーさんなんだろう?」


「もちろんそうです!」


 私が元気よくそう言うとマリーさんは笑いながら「あたしの部屋にある方を持って行って使ってもいいよ」と言ってくれた。この家には2台の織機がある。一つはグレーテさんの使っていたものだけど、そっちは今、エマが機織りの練習に使っている。


 織物は織機の木枠の中に縦糸をピンと張り、そこに飛びという糸の入った小さな舟みたいなものを何度もくぐらせて布を織っていく。村のおかみさんたちは皆、一人に一つずつ織機を持っていた。


 織機はおかみさんたちの宝物で、とても大事にしている。だけど以前村が襲われたときに、家を一緒に織機もすべて焼けてしまった。だから今ある織機は、ペンターさんたちが新しく作ってくれたものだ。


 私はマリーさんの織機を自分の部屋に持ち込んで、シルキーさんに出来上がった糸を手渡した。彼女は何でも器用にこなすが、こと家事に関しては物凄く仕事が早い。


 それから3日ほどで乳白色に輝く美しい布が出来上がった。出来上がった布は柔らかくてすべすべなのにものすごく丈夫で、刃物も通らないし、火を近づけても焼け焦げ一つ付かなかった。






「シルキーさん、これを使ってエマが服の下に着る服を仕立ててください。」


「あ、あのご主人様。この布は刃物も針も通らないので仕立てられません。」


 シルキーさんが彼女にしては珍しく、すごく申し訳なさそうに言った。言われてみればその通り。仕方がないので、仕立てる刃物と針も作ることにする。


 私は《収納》の中にしまってある、固まった自分のふんを取り出した。私が洞穴に閉じ込められていた間ずっと魔力で超圧縮し続けた糞は、キラキラ輝く水晶のような石になっている。あまり気が進まないけれど、これで刃物を作ると、切れ味が格段に良くなるんだよね。


「《素材強化》&《素材形成》」


 魔法で異物を除去した後、布を仕立てるための短刀と針を作った。魔力を込められるように私の涙の粒、竜虹晶もくっつけておく。


 魔力を込めた短刀と針を使って、シルキーさんに服を仕立ててもらった。なんかいつもよりすごくシルキーさんの動きがいい。あまりの速度で手が残像になっている。


「どんどん力が湧き上がってくるみたいです。」


 彼女は私の作った魔法生物だから、私の魔力の影響を受けているのだろう。彼女は頬を赤らめながら、ものすごい勢いで作業を続け、あっという間に服を作り上げてくれた。


 出来上がったのは上下一体になった下着だ。物凄く軽いから、これならエマの負担にもならないはず。私とシルキーさんは互いに両手を打ち合わせて、完成を喜びあった。






 シルキーさんにお礼を言って、私が作った刃物と針をあげたらすごく喜んでくれた。糞から作ったものなのでちょっと複雑な気持ちだけど、喜んでくれたからまあいいかな。


 彼女にはマリーさんの手伝いに行ってもらい、私は早速出来上がった下着に魔法を付与して行くことにした。


 この作業は魔法のインクで魔法陣を書き込んでから、《魔法陣構築》の魔法で定着させればいいだけだから、とっても簡単だ。魔法陣は《自動書記》の魔法で書けばいいしね!


「あんまり防御力を上げると、ガブリエラさんに怒られちゃいそうだから、守りの魔法以外のものを書けばいいかな。」


 私はどんな魔法をかけたらいいか考えた。探索をしたことがないからよく分からないけれど、とにかくエマが困らないようにすればいいのだ。


「とりあえず生活魔法でいいかな。急な雨が降ってもいいように《雨避け》を入れてみよう。」


 私は小さく魔方陣を書き込んだ。まだだいぶスペースが余ってる。これならもう一つくらい書いても大丈夫かも?






「そうだ!これからだんだん暑くなるし、過ごしやすくした方がいいよね。《保温》で常に快適な温度を保つようにしよう。」


 さらに魔方陣を書き足す。これは守りの魔法じゃないからきっと大丈夫なはずだ。もうこれくらいでいいかな。


「汗をかいたら気持ち悪いし、風邪ひくといけないよね。《洗浄》と《乾燥》でいつも清潔にしておこう。」


 これで4つか。じゃああと一つくらい増えても変わんないよね?


「うーん、もしもの時、魔獣から早く逃げられるように《敏捷性向上》もつけておけばいいかな。」


 急に襲われたら危ないからね、うんうん。


「あ、でも逃げるときエマが転んだり、がけから落ちたりしたら危ないかも。《浮遊》も足しておこう。」


 二つ足してもまだまだ書けそうだ。せっかくだからもう一つくらい書いちゃおう。


「もしエマが溺れちゃったら大変!《水上歩行》と《水中呼吸》も書いてっと。」


 これで、川や池を渡るときも安心だね!


「水の中や森は暗いし、人間は視力が弱いから心配だね。《暗視》と《視力向上》も入れよう。」


 エマは暗いところでも泣いたりしないけど、一応心配だから・・・。


「魔獣に気づかないで襲われたら危ないよね。《危険察知》と《聴覚向上》も書いておこう。」


 これなら近づいてくる魔獣を簡単に見つけられるよ。やったね!






 その後も私はエマが困らないように《技巧向上》《腕力向上》《体力向上》《命中率上昇》《感知力上昇》《持続力強化》《集中力強化》などなど、ありとあらゆる守りの魔法以外の魔法を書き込んでいった。


 そうやって夢中になって書いていたら、いつの間にか夕方になってしまっていた。


「もう書くところなくなっちゃった。これくらいでいいかな。よし、早速エマのところへ届けに行こう!」


 私は出来上がった服を持って、エマを探しに出かけた。エマにかけてある《警告》の魔法によると、エマはすでに東ハウル村に帰ってきているようだ。


 私は《転移》の魔法で冒険者ギルドの前に移動する。ちょうど東門からエマたちがこちらにやってくるのが見えた。


「エマー!!」


「あ、ドーラお姉ちゃん!迎えに来てくれたの?」


 エマが私に駆け寄ってきてくれた。私はエマを抱きしめてくるくる回った。エマが嬉しそうに笑う。


「エマに見せたいものがあって、持ってきたんだ!」


「そうなんだ!じゃあ、ギルドの中で見せて!」


 私は『聖女の導き』のみんなと一緒に、ギルドの中に入った。探索の報告が終わったところで、私は自分の作った魔法の下着を取り出した。






「これ、エマのために作りました!」


「すっごーい!!・・・でもなんでこんなに魔方陣がいっぱい書いてあるの?」


「うわっ、なんですかそれ!」


 格闘僧のハーレさんが私の持っている魔法の下着を見て、顔をひきつらせた。


「なんか禍々しいほどの魔力を感じるんですけど・・・。」


「失礼ですね!私がエマのために作った魔法の下着です。すごく丈夫だし、冒険しやすいようにいろいろ魔法を込めてあるんですよ。あ、安心してエマ。エマの修行の邪魔にならないように守りの魔法は一つも入ってないから!」


 私は魔法の下着に書いてある魔方陣について一つ一つ説明をしていった。んん、なんかエマが困った顔してる?


 それにテレサさんたちも、目を逸らしている。ガレスさんはため息を吐き、「俺は先に隣で飲んでるわ」って言っていなくなってしまった。






「あ、あのね、ドーラお姉ちゃん?」


「どう、これなら何が起きても大丈夫だよ!・・・エマ、どうしたの、私なんかしちゃった?それなら何でも言って!」


「ふーん、そう。それならわたくしからも、一言よろしいかしら?」


 背後から地獄も凍りそうな声が響いた。私がゆっくり振り返ると、そこには怖い顔をしたガブリエラさんが立っていた。彼女は音もなく私に近づいてきた。闇の魔力が漏れ出して、彼女の体が薄緑色に輝いて見えた。


「あ、私、ガレスさんの所に行かなくちゃ!」


「お師匠様!僕も行きます!」


「私を置いていかないでください、お姉様!!」


「ドーラ様、すみません!!!失礼します!!」


 テレサさん、ディルグリムくん、ハーレさん、ロウレアナさんが慌ててギルドを飛び出していく。周囲にいた冒険者さんたちも只事ではない雰囲気を察知していなくなり、ギルドの職員さんも窓口を閉めて奥の部屋に飛び込んでいった。






「ドーラ、何を作ったのか、わたくしに説明してごらんなさい。」


 ガブリエラさんは笑顔なのに目が全然笑ってない。私の全身の毛が逆立ち、冷や汗がダラダラと流れる。私は自分から彼女の前に跪いて、説明を始めた。私の隣にエマも同じように座った。


「いや、あの、これはですね、エマのために私が作った防具で、でもでも、守りの魔法はぜんぜん入ってなくて・・・!」


 私の説明を聞くガブリエラさんのこめかみに、みるみる青筋が浮き上がってくる。


「ドーラ?」


「はい!!」


「何か作るときには、必ず私に確認してから作るようにって言わなかったかしら?」


「あ、あの、はい、言われてました・・・。」


 彼女がひゅっと息を吸い込んだ。私の全身の血がざっと下がり、降り注ぐ雷に備えて体がきゅっとなった。


「ドーラっ!!!!!」


「は、はいっ!!すみませんでしたっ!!」


 私はすぐに平伏して彼女に謝った。そしてものすごくお説教された後で、魔法の下着を作り直すように言われた。






「え、作り直したら、エマに渡してもいいんですか?」


「・・・私もエマの防御面が心配だったから、何かいい防具はないかと探してたのよ。魔術付与なしでなら、まあ問題ないでしょう。」


「よかったね、ドーラおねえちゃん。」


「エマ!ごめんね、私またやらかしちゃったみたいで・・・。」


「ううん、いいの。私のためにしてくれたことだし。それにお姉ちゃんが心配してくれたのは、すごくうれしいよ。ありがとう、ドーラおねえちゃん!」


「エマー!!」


 私は泣きながら隣に座っていたエマに抱き着いた。エマは私を抱きしめ、髪の間に指を入れてくしくしと撫でてくれた。






 私はその後、書いてある魔方陣を一つずつ《魔法陣破棄》の魔法で消していった。


「あのー、ガブリエラ様。一個だけでも残しちゃダメですか?」


 私がそう言うと、彼女は私を怖い目で見つめたけれど「《保温》の魔法だけなら残しててもいいわ」と言ってくれた。


 それからというもの、エマは私の作ったこの魔法の下着をつけて冒険に出かけるようになった。すごく着心地がいいらしく、エマがとても喜んでくれたので私は作ってよかったなと思った。


 そんなことがありながら、エマたちの探索は順調に進んでいき、やがて春の終わりを迎えることになったのでした。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:上級錬金術師

   中級建築術師

読んでくださった方、ありがとうございました。

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