五話 第二宴
だが須佐女は立ち上がり、俺を睨み付ける。
「ち……やるじゃねえか……だが、タイムオーバーだ。」
須佐女がそう言うと、真上の光の球体が武器を吸い込むのを辞めた。
「百の武器を捧げることはできた。あとは、この光とあたいが融合するだけ。歳弎!お前の燚々天を、我が身にさせてもらうぞっ!」
「な、なにい、それはやめろっ!」
燚々天。それは吸電鬼一族禍魅羅の伝統の金砕棒。俺の盗まれた金棒だ。あの光と融合すると、須佐女は須佐之男に戻るのか。
それを阻止するため、俺は須佐女へ間合いを詰めた。だが光の球体は須佐女の頭上へ落ち、そのまま須佐女ごと飲み込んでいった。
「須佐女えええっ!」
そのとき、余ったとみられる多量の武器山が突然と浮き始め、光の球体を中心に体の模型を作り始めた。武器は光を覆い隠し、腕、脚、胴体、頭、全ての部位を作っていく。
「な、なんだこりゃあ……。」
巨大な武器の体。二本足で立ち、脚は太く凛々しく、腕は鉄状の筋肉で溢れかえっている。歌舞伎のように両手を広げた。そして、体内へ隠した光が強烈に照らし、武器たちの小さな隙間から光が零れる。光は鉄の武器たちを包み込み、肉へと変えていく。
「おいおい、どんどん人型っぽくなっていくぞ。まさかこれが……須佐之男の肉体……?」
「そうだ。」
頭にある口が動いた。口までもが肉に変わると、足を上げて、床を踏み込んだ。
「我は須佐之男。海神の三貴神の一角なり。」
口の上から鉄の肌が肉に全て変わり、皮膚から未だに光が帯び、神々しさを感じる。
「須佐之男、復活の宴だあああっ!」
須佐女が男神になった瞬間だ。奴は、高天原出身の神となってしまった。
「ふふふ、ふはははっははははっはははっはは。これだ。この肉体だ。力だ。ずっと俺が無くしていたものだあ!やっと、手に入ったぞ!ふははははっはははははははは。」
須佐之男はご機嫌に高笑い。歌舞伎のように広げた手を握りしめ、右手から海水が溢れる。
「……さて、では、神に歯向かった小さき妖怪はどこだ。」
須佐之男は俺たちを見下ろし、右手の海水が大太刀に変形した。天叢雲剣だ。まさか天叢雲剣さえ変化し巨大化させたとは。あの天叢雲剣で起きる一振りの斬撃は、もう俺たちが止められるものではない。
「早速処刑を始めようか。なあ?」
「……なんて存在感なの……?」
瑚福は言葉共に肉体が微動に怯え、目の当たりの現実を理解している。
「ちっ……神になりやがって……。」
須佐之男は天叢雲剣を天に差し、海水を纏わせた。そして俺たちへ振り下ろした。俺は咄嗟に瑚福を抱いて、左へ床を蹴り、巨大な斬撃を回避。斬撃が通った床を見ると、床が、いや大地が裂かれている。
「まさかとんずらつもりじゃあるまいな、警察よ。」
回避した俺を上から挑発。なんて頭が高い奴だ。瑚福を離し、瑚福の瞳が揺れている。気が正気ではない。
「しっかりしろ瑚福っ!」
「……はっ、と、歳弎……。」
「ここで諦めるなっ!諦めたら電脳世界は暗黒に包まれて、人間界は永遠にブラックアウトになるんだぞっ!?あいつを倒すぞっ!」
太陽神天照様が殺されれば、人間界の検索情報は永遠にブラックアウト。電脳世界は永遠に暗黒になる。それだけは防がなくてはならない。
「と、歳弎は怖くないの……?か、神様だよあれ……。」
「神様がなんだ!このみんなが大好きな世界に比べたらちっぽけな存在だろっ!」
「歳弎……。」
俺の発言で瑚福の瞳に不安が薄れた。
神だの人だの妖怪だの、所詮この世界に生きる住民だ。そんな住民に比べたら世界は比べ物にならないほど大きなもの。勿論天照様は格別な存在だが、その前に世界が暗黒に包まれては神どころの問題ではない。世界を守るのだ。世界を守ることが天照様を守ることになる。
「大草原っ!笑わせてくれるじゃねえか鬼よっ!」
須佐之男は斬り下ろした巨大な天叢雲剣を持ち上げ、峰を肩に乗せる。俺は巨体な須佐之男の前に立ち、和泉守兼定の剣先を須佐之男の頭に向ける。
「俺の誠魂っ!見せてやるっ!」
「なら、見せてみなああっ!」
須佐之男は肩に置いた巨天叢雲剣を天に差し、再び俺へ振り下ろした。巨大な刃が落ちてくる中、俺は右に床を蹴り、斬撃を回避。斬撃は床を斬り裂き、破片が飛び散る。
「なんてパワーだ……!」
力で斬撃を押している。巨体に合わせ女性から男性へ本来の筋力を取り戻したか。俺の鬼火全開力なら巨体の筋力でも互角だろうが、尽きるのが早くなってしまう。その度に吸血し電気を補充すればいいが、それを何度も許してくれる須佐之男ではない。
振り下ろした巨天叢雲剣を横に払い、ザクザクと床が裂かれていく。俺は地を裂く剣身に対し真っ向から対立。和泉守兼定を鬼火で燃やし、襲い掛かる巨大な剣身に叩きつける。刃同士の衝突に火花が散る。巨大な剣身にこっちは一般的な細い剣身。そしてそれを振るう剛腕に、俺は優に押される。
「だったら、もういっちょ全開フルパワーだああっ!」
全身に鬼火を纏わせ、俺は燃え盛る。火事場の馬鹿力を引き出す。押されていく俺は踏ん張り、押す剣身は止まった。あとは相撲のように押しあうだけだ。
「このちびっこ鬼がああっ!」
須佐之男は柄を両手で持ち、小さい俺を押す。すると、踏ん張る俺だが押され気味に陥ってしまう。さすがに巨体と剛腕には鬼火の火事場の馬鹿力は敵わないか。
「ちいい……や、やばい……押される……!」
そのとき、須佐之男の右頬に猪が突進した。いや、正確には猪の魂を纏った矢が当たった。
「いてえ!」
頬を殴られたかのように顔が歪み、首ごと撥ねる。すぐに首を戻し、矢が放たれた方向を見た。
「てめぇ!」
その視線の先に立っていたのは瑚福。射ったのは瑚福だった。長い尻尾二本で鼠狩と破魔矢を持っていた。
「瑚福!」
「私も戦う。電脳世界も守るために!」
さっきまで怯えていた瑚福が遂に牙を向けたか。
「このアマが!」
ブチギレた須佐之男は天叢雲剣を背に構えて、瑚福へ脳天振り下ろした。対する瑚福は左に避け、巨大な剣身は床を斬り裂いた。そしてその衝撃に床は揺れ、土煙が床全体に舞う。
濃い土煙が舞う中、瑚福は俺の元へ集合し、一度作戦会議を開く。
「どうやって倒すあいつを!」
「せめて燚々天さえあれば……!」
燚々天さえあればこんな奴勝てる。そんな自信しかない。それほど禍魅羅の一族伝統の武器は強力なのだ。しかし今は須佐之男に取り込まれている。
「そのいついつてん、ってのがあれば勝てるのね?」
瑚福が真剣なまなざしで俺を見つめ、確認をした。
「瑚福……?」
「だったら、私が取り戻しに行く。あなたは外で待っててっ!」
「はあ、そんな無茶なッ?!どうする気だ。」
燚々天は須佐之男復活時に取り込まれている。今更どう取り戻せばいいのだ、見当もつかない。
「奴の体は武器よ。さっき武器の山が体になったじゃない。もしかしたら体内の中にその燚々天があるかもしれない!」
「体内ってお前……奴の体の中に入るってことかっ!」
「言ったでしょう。神様だなんて世界に比べたらちっぽけな存在だってことを。」
「だ、だが、それはお前の身の危険が……!」
「世界と私の身、どっちの方が大切かしら?」
瑚福の瞳が真剣だと語っている。さっきまでの神に怯えた瑚福とは打って変わった決意を決めたように見える。
「なに、私が体内から無事に帰れば良い話よ。じゃあ、後のことはよろしくっ!」
「瑚福っ!」
瑚福は尻尾で掴む和弓鼠狩の弦に再び兎の魂を憑依させ、破魔矢には緑色の透明な龍が乗り移った。
「ゆけっ、伍辰っ!」
龍が宿りし破魔矢を放ち、龍は蛇のようにくねくねと曲がり、そして本物の龍のように飛んだ。濃い土煙の穴が開き、高速に放たれた。破魔矢の先端に龍の頭が緑薄らと、胴体は蛇の体当然で、矢尻から胴体が連なって、尾は矢尻から遠く離れている。それほど大きな龍が須佐之男に向かい、その巨体を巻いた。
「な、なんだこの龍は!」
身動きが取れなくなった須佐之男に対し、
「さあ、今のうちに私を口の中に投げて!」
と、瑚福は俺に叫ぶ。
「分かった。ただし、食われるなよっ!」
瑚福の胸倉を掴み、左腕に鬼火を纏わせる。そして、胸倉を引っ張り、瑚福を須佐之男の口へ投げた。
「おうらあああっ!」
大砲のように飛び伸びる瑚福は、巻く龍に戸惑う須佐之男の口の中に入り、瑚福は須佐之男の口腔の中へと突入した。その後須佐之男は口を閉ざし、咳き込む。
「ごほ、ごほ、な、何をしやがる……俺の中に何を入れやがった……!」
須佐之男は腕を引き、透明な龍の体が張る。そして、腕の力で体を巻く龍を引きちぎり、伍辰の破魔矢は落ちていった。
「げほ、げほほ。.......んんあ゛あ゛。くそ、貴様とことん神に小細工かけやがって!」
どうやら瑚福は無事に喉を通過しているらしい。土煙は薄れ、互いの姿が確認できるようになった。
「踏み潰してやる!」
須佐之男は左足を上げて、その足底で俺を踏み潰そうとしてくる。足底が落ちてくるなか、俺は咄嗟に右へ回避し、踏み潰しは逃れたものの、その衝撃風に俺は吹き飛ばされた。背を壁に衝突したが、脚全体に鬼火を纏わせ、壁を蹴り、須佐之男の脚目掛けて空中の横を跳ぶ。和泉守兼定と右腕に鬼火を纏わせ、左腰辺りに差し、居合斬りの構えに入る。脚と俺の間合いが重なり、火事場の馬鹿力で燃える刀を振るう。燃える剣身は脚に衝突し、斬る。しかし武器の体で出来ていることから、皮膚が非常に硬い。真っ二つにはできなかったが、傷口をつけることだけは成功した。左脚の横を居合しながら通過する。
「うおおお……!」
須佐之男の体が右に傾くが、バランスを保ち、体勢を立て直した。俺は壁に足をつけて、一度床に足を下ろす。
「いてえんだよっ!」
須佐之男は巨天叢雲剣の切先を俺に向けて、突いてきた。俺は高く跳び、突きを避けると同時に、峰に乗り、その上を走る。剣身の根元に到達するともう一回跳び、手首目掛けて剣身を突き下す。しかし武器の皮膚は頑丈で切先は突き刺されなかった。
「かてえ皮膚だ!」
武器が束ねられて造られた皮膚。いくら火事場の馬鹿力でも破壊はできないか。
「神様に乗っかるんじゃねえっ!」
須佐之男は左手で俺を掴みにくる。対する俺は手首から腕へ走り、左手から逃げる。
「あ、こら待てっ!」
腕から肩へ、そして首の後ろに回り込み、再び全身に鬼火を纏わせ火事場の馬鹿力を発揮。力いっぱい和泉守兼定で首の後ろに叩き斬る。
「ぐはああああっ!……」
首の後ろも非常に硬く、斬り裂くことはできなかったが、深い傷口をつけることには成功した。これだけでも充分な致命傷だ。血はなぜか排出されないが、須佐之男は前傾し、そのまま倒れた。
やはり神といえど首の後ろのダメージは大きいようだ。真っ二つに斬り裂くことができれば撃破できていたであろうが、傷口を深く抉ったのは生体にとっては致命傷だ。本来なら大量出血して死亡だ。
「……や、野郎……ちょこまかとうごき……まわりおって……!」
しかし須佐之男は一度は意識を失ったものの、再び意識を取り戻し、立ち上がった。上がるにつれて傾く首の後ろに俺は一旦床に落ち、一度後退し間合いを広げる。
「ちょこまかと動きおって!そこを動くなああ!」
巨天叢雲剣の剣身を俺に振るい下ろし、俺は右に避ける。あまりにも巨大な一撃だ。避けるのは容易い。
奴は怒って冷静ではない。奴が適切な判断ができない今、もう一回首の後ろに回り込むことはできるはず。そして首の後ろに斬撃を与えれば首は真っ二つにすることができるはずだ。
一方、瑚福は、須佐之男の体内の中を探索していた。体内の表面全ては刀が横並びに凝縮されている。よって剣身や柄の上を歩いている。私は胸から木製の犬人形を出し、犬の魂を憑依させる。
「拾壱戌よ。歳弎の匂いを見つけて。」
すると犬の木人形は大きくなり、本物の犬のように動き始めた。拾壱戌は足元の武器の床に鼻を下ろし、クンクンと嗅ぐ。一歩、二歩と歩みながら慎重に嗅ぎ分け、匂いを探している。すると、「ワン。」と鳴き、胃の先へ進んだ。その奥には光の球体が物静かに浮かんでいた。拾壱戌は「ワンワン!」と大きく鳴き、歳弎の匂い、つまり燚々天がこの球体の中に入っていると報せる。
「これを破壊すれば……。よし!」
猫拳に猫を、玖命に虎を、鼠狩の弦に兎を、破魔矢に猪の魂を憑依させ、光の球体へとアタックを開始する。
鼠狩の白く薄らと覆う弦に茶色の気を纏う破魔矢を引っ掛け、右の尻尾を引く。そして尻尾を離し、破魔矢を解き放つ。兎の脚力で放たれた破魔矢は猪の突進の如く、光の球体にダイレクトアタックした。そのとき、体内が大きく揺れた。
「ぐ、ぐはああああああああああ……!」
須佐之男は突然と左手でお腹を当て、膝を床に下ろし蹲った。まるで腹痛を起こしたようだ。
「な、なんだ……?」
突然の腹痛に俺も戸惑い、攻撃の手を止める。このとき、この状況に重なる事を察した。瑚福が体内から攻撃をしているんだ。
「やるじゃねえか瑚福……!」
瑚福は揺れる光の球体に対し間合いを詰め、玖命を構える。そして跳び、球体に向かって剣身を下した。
「参寅っ!」
光の球体を斬ると同時に、虎の牙で噛みつく。牙は球体を深く抉り、そして斬り捨てると同時に喰う。再び体内が地震を起こし、全体が揺れる。しかし攻撃の手は緩めず、次は左の黒い気を覆う猫拳で殴る。
「壱猫っ!」
黒い猫の手を覆う鉄の猫拳は光の球体を深く突き、このとき、光の球体が微動に揺れ、光の球体から刀や武器が零れていく。
きっとおそらく、この光の球体の微動が収まったら零した武器を吸収するだろう。だとしたら今のうちに歳弎の武器を探さないといけない。歳弎の武器は金砕棒だ。それが燚々天に間違いない。拾壱戌の鼻を頼りに探すのだ。
拾壱戌は光の球体に近寄り、零した武器の山をあさる。すると、「ワン。」と鳴き、私は拾壱戌の元に寄る。すると、六角形の黒い鉄肌で出来た棍棒があった。それを猫拳で持つと、
「お、重い……!」
だいたい八キロほどか、片手で持ち上げるには相当ずっしりとくる。玖命を鞘に戻し、両手で燚々天の柄を握り、持ち上げる。そのとき、光の球体から風を吸い、風が武器に乗り、吸い込まれていく。
「う、うわわわわ!」
私も吸い込まれていき、目前が光の球体に迫る。
「こんちくしょおおおお!」
吸い込まれながらも空中で咄嗟に燚々天を力振るい、光の球体に当てる。すると光の球体はふっとび、壁に衝突した。そのとき、光の球体は反射し、暴れるように壁々に衝突を繰り返した。そして壁をぶち破り、穴の奥に外の景色が見える。
「ぐっはあああ!」
光の球体は壁を破いたことで体内から体外へ出て、私も咄嗟に穴に走り、飛び降りる。飛び降りた先には歳弎が見える。
「瑚福!」
「歳弎、これを、受け取りなさい!」
私は落ちながら、燚々天を歳弎に投げた。
俺は落ちてくる燚々天を右手でキャッチする。すると、不思議と安心感が浮かび上がった。まるで足りなかったピースが見つかったかのような。鬼に金棒という文字が完成したかのような感覚だ。
「さああて、燚々天さえあれば、こんな奴相手じゃねえっ!」
右手に燚々天、左手に和泉守兼定に持ち、鬼火を流す。燃え盛る二つの武器を握り、須佐之男へ間合いを詰める。
「ちくしょおおおおおうがあああああ!」
「武った斬って、武っ潰すまでだああああっ!」
対する須佐之男は攻め寄る俺へ天叢雲剣を振り下ろした。俺は右手の燚々天を頭上に構えて、天叢雲剣の剣身を受け止める。
「な、なにい!切れねえ?!」
「燚々天を……そんのそこらの鉄で出来ている金棒だと思うなよっ!」
右腕を鬼火で燃やし、火事場の馬鹿力を発揮。重いとされている燚々天を軽々と振るい、容易に天叢雲剣を押し撥ねる。脚に鬼火を纏わせ、脚力を増させて須佐之男の胸板へ飛躍的に跳ぶ。一気に間合いを詰めて、全身を鬼火で燃やし、そして、燚々天を左から振るい、肉を武っ叩く。
「ぐはああああっ!」
次の攻撃は一瞬の間もなく、和泉守兼定で叩いた肉肌を縦に武った斬る。零点二秒後、燚々天を上から叩き、振るうと同時に身を縦に高速回転させて、重い燚々天を持ち上げる。和泉守兼定も回転の勢いで上げて、斬ってから叩く。零点三秒後、燚々天で再び左から振るい、続いて和泉守兼定も左から斬る。零点四秒後、左手の和泉守兼定を返し、右に高速斬り、続いて燚々天で下から肉を叩き上げ、須佐之男の巨体を浮かせる。
「いてええ!」
零点五秒後、振るう勢いで身を再び縦回転させ、和泉守兼定で下から叩いた肉を斬り、燚々天で肉を叩き下ろす。零点六秒、零点七秒、零点八秒・・・とにかく高速で叩き斬り、嵐が如くインファイトのように振るう振るう。
「なんて早いんだ……、こいつっ!」
高速で叩き斬るを繰り返し、腕を存分に振るう振るう。五秒後のフィニッシュは、和泉守兼定と燚々天で上からクロス状に叩き斬り下ろし、下した勢いで叩き斬り上げる。
「艮ッシュッ!」
吸電鬼一族禍魅羅に受け継がれる技、艮ッシュ。鬼火による火事場の馬鹿力で腕を高速に振るい、超連続で叩き斬る技だ。
須佐之男の胸板は抉れ、その巨体は後方に武っ飛んでいった。背を壁にぶつけ、須佐之男の口から血は吐き出た。
「や、野郎っ!」
須佐之男は背を壁から離し、一歩踏み込み、仕返しにと空中の俺へ、巨天叢雲剣を薙ぎ払う。だが俺は燚々天で襲い掛かる天叢雲剣の剣身へ叩きつけ、撥ね返す。撥ねられた天叢雲剣は逆戻りした。
「なんでだ……なんで斬撃が届かねえっ!」
「なんだ神様!神の力ってぇのはその程度かっ!」
空中を蹴り、須佐之男へ間合いを詰める。須佐之男は天叢雲剣を肘から引き、真横に跳ぶ俺へ突いた。俺は空中で体勢を立て直し、突く剣身に足を着地させ、剣身を走る。剣身の根元まで須佐之男に接近し、顎に向けて跳ぶ。ここまでくれば須佐之男の懐だ。須佐之男は何もできない。燚々天を下から振るい、顎に叩きつけ、須佐之男を真上へ武っ飛ばす。一旦床に着地し、落ちてくる須佐之男目掛けて高く跳んだ。対する須佐之男は空中で体勢を立て直して、落ちながら俺へ天叢雲剣を振るう。
「っざけるなああああ!」
「それはこちらのセリフだあああっ!」
和泉守兼定と燚々天をクロスさせて、襲い掛かる巨大な剣身に叩きつける。衝突する剣身と鉄は、天叢雲剣を砕いてみせた。
「バ、馬鹿な!俺の……天叢雲剣が……!」
落ちる須佐之男に対し、右腕の肘を後方に引き、燚々天の突きの準備をする。燚々天に鬼火を集結させ、
「鬼門ッッ!!」
そして、真上に武ちかます。燚々天の燃え盛る先端は須佐之男の腹に正面衝突した。
「破城鎚ッッッ!!!天国の果てまで武っ飛べえええええっ!」
鬼門破城鎚。禍魅羅の奥義だ。金砕棒に鬼火を纏わせ、突くシンプルな大技だ。だが突かれた相手は、その衝撃に肉は撃たれ、骨は砕け散る。これを喰らって平気な奴はいない。
「ぐっはああああああああああああああああああああああっっっっっ!」
須佐之男は真上に武っ飛び、その姿は天空の最奥まで行った。
「高天原で逮捕されな……。」
その後須佐之男は落ちることなかった。葦原中国の天空の先の上にたどり着いたらしい。