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モンスター・ハンター!

「さて! と言う訳であたしたちは新たな世界に降り立った訳ですが! 見て下さいこのジャングル! 密林! いやあ、清々しいですねー! 空気がとっても美味しいです! ねー想くん?」


「殺すぞ」


「え?」


「殺すぞ」


 鬱蒼と茂る木々。

 その形容はジャングル以外にない。

 繁茂する草木は青々と色付き、馬鹿馬鹿しいくらい晴れ渡った空に輝いていた。


「もうっ、カメラはとっくに回ってるのよ? どうしてそんなに不機嫌なの?」


「お前また拉致同然に連れて来られて怒らない人間がいるか? 一度のみならず二度だぞ? こっちは家にも帰してもらってないんだよ」


 労基の前で諍いを交わし、周りの注目を集め、いよいよこいつの顔を殴るか、と言う辺りで意識を失い、気が付けばここだ。文句の一つや二つも言いたくなるってもんだろう。これは最早労働条件とかそんな程度の問題ではなく人権をまで侵しているのではなかろうか。俺はそう思うけどね。


「何を言ってるの、想くん。ぽいぽい企画は家族。会社が……あなたの帰るところよ」


「いや感動はしないよ?」


「びーじーえむはアルマゲドンのやつでいーい?」


「グッジョブくーちゃん!」


「エアロスミスかかっても無理なもんは無理だって!」


 涙なんて出てくる筈がない。

 ただ熱帯特有のじっとりとした暑さが身体中から汗を絞り出していくだけだ。


「何言ってるのよ、こういう時はいい曲ぶつければオールオッケーなの。ま、それは編集でどうにかするとして、今回あたしたちが来たこの世界、“アルテノ”はどう?企画発表はまだだけど、何か気付いた事はあるかしら?」


「じゃあ、色々と言いたい事はあるんだけど、企画云々よりまず一つ」


「あたしに会えて良かったって? いやー、当たり前の事とは言え照れるわね」


「この荷物の量なんだが」


「無視しーなーいーでーよー。あたし泣いちゃうぞっ?」


 一々構ってられるか。

 地面に無造作に置かれた、この死体が三つ並んでいるみたいなアホらしい鞄の中身を問い質す方がよっぽど重要だ。


「前の時はカメラとくーが持ってきたリュックに入る程度の荷物で事は足りてた筈だろ。その中ですら使わないモノすらあったじゃないか。何だって今回に限ってこんなに量が多くなっちゃうんだよ」


「ね、無視しないで? ね?」


「しっかしあっちいな。ジャケット脱ぐか」


「そーくんシャツきちゃなーい」


「着替えさせてから文句言え」


「う、うう……むしはだめぇ…………むしいやぁ……」


「ガラスのハート過ぎだろ」


 とうとうぐすぐす泣き出したアリアにそんな感想が出てくるのは仕方がない事だ。幼子みたいにしゃくりをあげるその姿は、美貌も相まって愛らしく見えるのかもしれないが俺にとっては面倒臭い。対応に困る。泣きたいのはこっちの方だ。


「じゃー企画のはっぴょーにいこっか」


「お前も案外ドライね」


「すぐ立ちなおるからだいじょーぶだいじょーぶ。へーきだから」


「俺はこのままでいいけど」


「じゃー、とゆーわけでー、じゃっじゃーん。フリップー」


「あ! あたし! それあたしの役! あたしがぺろーんってする!」


「ねー? そーくん?」


「お前アリアの飼育係?」


 にやりと、くーがほくそ笑む。

 いやー、鬱陶しいです。暑いです。足元では見た事もない哺乳類が跳ねています。毒々しいです。アリアは多分この動物とかと同じカテゴリにあるんじゃなかろうか。そんな気がする。


 アリアはくーからフリップを受け取り、すすーっと滑らかに俺の横へと移動し、ぴたりと張り付く。本人の汗と香料によるものだろう、この蒸す様な暑さの中で涼やかな芳香がした。ほんの些細な、今までのこいつの行動の万分の一も打ち消せはしない香りだったが、しかし、確かにドキリとさせるに十分なものがあった。


「想くん」


 アリアがこっちを見つめながら俺の名を呼ぶ。その青く澄んだ瞳や口ずさむ声音は、こっちの心情とか、動揺とか、とにかく他人には――と言うかこの女には絶対知られたくない事を見透かしている様に感じて、居心地悪いったらなかった。


「な、何だよ」


「あのね、ずっと言おうと思ってたんだけど」


 美しく整った唇を舌先でちろりと舐め、アリアは、


「ヒゲ、剃ったら?」


「剃らせろよ!」


 そんな時間なかっただろ!

 気付いたらこのジャングルの中なんだぞ! 見ろよこの一面の緑をよ! その他の色なんて木肌と土の茶色、空の青、俺たちが持ち込んだ人工色しかないんだぞ!

 ドキドキして損した。俺の純情を返してくれ。


「いついかなる時もテレビに出るからには美しく! それが映る者としての基本よ! そう、正しくあたしみたいに! あたしみたいに!」


「ねーねー、くーは? くーは?」


「くーちゃんもかぁわいいわよー。うりうりうりぃ」


「一生やってろ」


 楽しそうにくーを撫でるアリアと撫でられるくー。

 そんな二人に溜息しか出てこない。

 下手に否定できないのが腹立たしい。

 事実、この二人は容貌だけで言ったら向かうところ敵がいないのだから。どんなに拉致をされたところで、それだけは誤魔化し切れない。


「ふふふ、ま、当然の事はいいとして。企画発表よ。ぺろーんの時間よ。ぺろーんはいいわよね。このぺろーんがあってこその企画発表と言えるわ。あたしの経営眼はこのぺろーんをやらずにテロップやらで済ませる様になってからテレビの衰退は始まったと訴えているわ」


「この会社はまず傾くな」


 疑い様がなかった。


「さ、くーちゃん。カメラの方はいいわね? それでは! 今回の企画は、こちら! ぺろーん!」


 そうして、そこに現れた文字は……。


「…………『モンスタ・ハンター! 想!』?」


「ええ! これから想くんには、ここアルテノでモンスターを狩ってもらうのです!」


「よしまずはこのモンスターディレクターを狩ろう」


 俺は目標を定めた。

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