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労働基準監督署(アルカディア)

「労基が土日休みっておかしくねーかなー! おかしくねーかなー!」


 目覚め、いつのまにやらぽいぽい企画の会議室で寝転がっていた俺は、スマホにて十日と言う長い月日が知らぬ間に過ぎ去っていたと言う事実に、思わず未だ見ぬ、って言うか出来る事なら一生見ない方が幸せだった筈の労働基準監督署(アルカディア)へと走り出し――――そして道を閉ざされた。日曜日の、うららかな昼間の話だった。


「大体土日休める会社の人間がここに来る程悩むか? 平日に有給や半休を取れる制度がある会社がそこまで悪いものか? こっちは初出社で異世界に連れていかれてるんだぞ、チクショウ」


 日本でも有数のオフィス街。ビル群が立ち並ぶ巨大都市。

 そこに位置する労働者の駆け込み寺は、むしろ冷酷にしか思えなかった。日曜日だって言うのに普通にスーツ姿で歩き回っている勤め人の多いこの場所で、一体何故休む事が出来るのか。理解に苦しむね。


「あのまま服だって替えさせて貰ってないからスーツなんてくたくたじゃないか。一応新生活に合わせて買った新品なんだよ。こんな道で拾ったみたいなくたびれ方をする筈はないんだよ」


「おいちゃんひとりでなにいってゆの?」


「たーくんダメ!」


「見せ物じゃねえぞクソガキ!」


 近くを通りかかったガキに至っては不思議そうな顔でこっちを見やがる。母親が慌てた様子で抱き上げて走っていくが、もう遅い。顔は覚えたからな。忘れはしないからな。


「全く、日本の未来が思いやられるぞ……」


「あなた、子ども相手に何やってるのよ、みっともない」


「あ?」


 呆れた風なそんな声音があって、嫌な予感はしつつも振り向くと、そこにはあの馬鹿がいた。具体的には俺の会社の社長が。普段とは違う、ラフなジーンズとシャツに身を包んで両手に荷物を抱えていた。


「あなたも一応ウチ所属のタレントって事になるんだから、あんまりイメージが下がる様な真似はして欲しくないわね」


「下がる様なイメージなんかハナからねえだろうが。あんな番組が放送されるとでも思ってるのか」


「されるわよ。もう局には納入してきたし。あちらさんもかなり気に入ってくれてたから」


「…………どこが?」


「あなたが毒回って紫色の泡吹いて倒れるところが最高って」


「テレビの人間は頭おかしいんか!」


 もう誰も信じられない。

 周囲の人々がどんな目を向けて来ても知った事じゃない。


「でもあれ本当は映像特典にするつもりだったのよね」


「それもおかしいと思わない? 人が一人死にかけてるんだよ?」


「死ななかったからいいじゃない」


「そう言う問題じゃないだろ!」


「ま、そんな事は後で考えるとして」


「そんな事……?」


 この女は何を言っているんだ?

 何故“十連休”などとでかでか描かれたTシャツを着ているのだ?

 俺への挑発なのか?


 そんな俺の気持ちなんて知らないんだろうな、アリアは真面目な顔を作って、


「――――さあ、行くわよ、想くん」


「どこに? 裁判所? 弁護士は立てないでくれよ。どうせお前負けるんだし」


「そんな悪い事してないわよ」


「おいおい自覚ナシか」


「いい? あたしが言ってるのは、次の企画の話よ。これから、あたしたちは、再び異世界へ行く……!」


「“行く……!”じゃねえよ。行かねえよ」


「あなたが十日間も寝込んでくれたおかげでいい企画が練れたわ。第二回放送に相応しい、次の、そのまた次、それどころか今後十年へと繋がるものがね!」


「人の話聞いて?」


 アリアは見るからに情熱を燃やしている。

 それが高まる度に俺のテンションは冷え込んでいく訳だ。

 もう何もしたくないよ。


「だから……想くん」


「行かないって言って――――」


「……何か臭うわよ。どうしてまだそのスーツ着てるの?」


「よし、前歯全部折る」

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