聖都へ
「さあ到着しました聖都ブノペスタン! どうですかこの街並み! 現代人にとって石造りの様式と言うのは中々見る事が出来ないものなんじゃないでしょうか!」
「おいこれ労災下りるんだろうな。ケツから血が出てるんだが」
「え?」
「だからケツから血が出てるんだよ! お前らが十五時間も俺を馬車に乗せたせいで! 大体あんな固い椅子に半日以上座りっぱなしだったらどうなるかなんて分かり切ってるだろ! これは労災貰うよ。そうじゃないとやってられないからな」
「え?」
「むかつくからその顔やめろ! 何がブノペスタンだよ! 俺のお尻がブノペスタンなんだよ!」
「ちょっと何言ってるかわからないわね」
「張り倒すぞ!」
「まーまー」
中央に噴水の設けられた巨大な広場。露店の並ぶ中心部。人の動きの交差点。
馬車から降り、虹のかかるそこで、俺たちがまず始めたのはこうろ…………労働闘争だった。周りの人々が見てこようが知った事か。俺は俺の権利を主張する。
「帰ったら絶対労基行くからな。……で、この街が何? 確かに綺麗な街だよな、中世の欧州辺りにありそうな感じ? フランスとかイタリアの旧市街ってこんな感じなんじゃないの? 行った事ないけど。話合わせてやったから帰るぞ俺」
「ぶっぶー。ダメです。正確にはヨーロッパ、特に古代ローマにおけるローマ建築が類似しているわね。各地に張り巡らされたブノペスタン水道、それを引く為に設けられたアーチの類がそうと言えるわ。他には、建物の様式はゴシック建築を思わせるものもあるわね」
「もうお前一人でやったら?」
「それじゃ番組にならないでしょ」
「いや、今でも十分番組としては成立してないと思うよ」
裏方が前面に出てくる番組とかあんまり聞かないし。
今でもぐだぐだだし。
って言うか番組冒頭で新入社員を一人拉致してるし。こんなの放送できるのか?
「それはまだ企画が始まっていないからよ。これから目的地に行って、あなたはこう言う筈。“ああ来て良かった”と!」
「そうかな? 俺はとうとうお前らと殴り合いを始めると思うよ?」
「すてごろならまかせろー」
しゅっしゅ、と、くーがカメラの持っていない方の拳で空を殴る。
だから画面に見切れてるだろそれ。
「そもそもスキルってなんだよ? 身に付けたら転職の時に有利になったりするの? だったらいる! 絶対いる!」
「え? あなたこの会社に骨を埋めるでしょ」
「何で俺の将来を断定してるの? 正直帰ったら直ぐ労基に行こうと思ってるけど」
「ふふ、わかった。テレビに出るのが不安なんだ。大丈夫よ、想くん。あなたも気になっているスキル。それはね、その人の才能、本質、言い換えれば、スター性! スター性よ! スター性なのよ! 想くん、あなたを大スターにしてあげるわ! あなたには素晴らしいスター性が眠ってるのよ! 多分!」
「デカい声出すなよ。周りが見てるだろ」
「いい? 本来だったら長く厳しい修行か生まれついての偶然以外で目覚める事のないスター性が、今ならなんと二箱で無料! この世界だけの特殊な技術です!」
「おでんわはこちらー」
「お前ら二人でやれって。俺帰るから」
「ふふ、目にものを見せてあげるわ。さあ行くわよ! 約束の場所へ!」
「だからデカい声出すなって。人の話聞いてんのか?」
「何よー、テンション低いわね」
「お前と知り合いと思われると恥ずかしいから」
「今に自慢出来るわよ」
「根拠がねえだろ」
「それはどうかしらねー。ではでは、今回想くんにスキルを手に入れて貰う場所は、こちら! じゃーんっ! ぱぱらぱらっらーらっらっらー」
にやりと笑い、ぱらぱらって感じで手の先を泳がせながらアリアが示した先。
そこは……取り敢えずは教会に見えた。
広場の正面、最も目立つ位置にどんと構えるその姿は、見事なまでの左右対称な造形や備えられた尖塔など、正しくそうとしか見えなかった。アリアの言う、ゴシック建築とやらの様式だ。世界史の資料集で見た事がある。
両開きとなっている扉の上、広場を見守る様に眠る石像はきっとこの教会の信仰する神様か何かなんだろうな。うん、そうなんだろうな。手入れの行き届いたミルク色の壁に取り付けられているのは――――
「お、おー? あれは、うん。あれだ。うん、あれ? え?」
あれは……うん、きっと女神様だー。或いは邪神だー。この地の信仰対象か何かだ。そうに決まってる。だからどんなにその顔が俺の横にいる人畜有害ディレクターと似ていたって関係ない。関係ないんだ。もしくは見間違いだ。
そうに決まって――――
「この世界の最大宗教“アリア教”の大本山よ!」
「あーもう全てにやる気がなくなったよ」