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さん、にー、いち、きゅー

「さん、にー、いち、きゅー」


「さあ始まりました“異世界の車窓から”! どうですか想くん、意気込みの方は?」


「何が意気込みだよふざけてんじゃねえよテメー。家に帰せってんだろうがよー」


「やる気満々ですね!」


「何だお前精神の病気か?」


 馬車内。

 例の二人と向き合う。

 車窓から見える風景は皮肉なくらいの青空と広大な草原だった。牧歌的な風景にスーツ姿の俺とアリア、そしてジャージにごついカメラを担いでこっちに向けているくーの姿は似つかわしくはなかった。


「そーくんやさぐれたー」


「勝手な事ばっかり言うんじゃねえよこっちは初出社なんだよ。えー? それが何だってこんな訳の分からない所まで連れてこられなきゃいけねーんだよ、おい。気付いたら馬車乗ってんじゃねーか。大体何処なんだよここは」


「あたしが支配する世界の一つ、“ミザール”よ。ふふ、この世界には独特の技法が伝えられていてね。今回のロケにはうってつけなのよ」


「ロケ? おいロケ? いきなりロケ? 何も聞かされずにロケ? やるにしたって急過ぎだし、そもそもスタッフは?」


「ここに」


 アリアとか言う頭のおかしい馬鹿女が俺と、自分自身と、それからくーをそれぞれに指差す。

 馬車がごとごとと揺れ、木をくり貫いただけの簡素な車窓からは爽やかな風が流れ込んできた。


「…………何言ってんの?」


「いや、だから、あたしたちがスタッフ」


「………………他には?」


「いなーい」


 くーがのんびりとした声で言う。

 馬車の御者が、馬に話しかけている音が聞こえた。


「……………………プロデューサーは?」

「あたし!」


「ディレクターは?」

「あたし!」


「カメラマンは?」

「あーい」


「音声は?」

「あーい」


「編集は?」

「あーい」


「出演者は?」

「想くん! あ、ちなみにもう撮影してるから」


「カメラ止めろ!」


 ついつい怒鳴ると、やーんこわーい、と二人が抱き合う。

 それでもカメラをこっちに向けている辺り、もう最初からそうだったのだろう。そう言えば何か赤い光がぴかぴかと点いている。多分、これが起動していると言う証拠だ。


「まあまあ、想くん。一ついい事を教えてあげるから」


「何?」


「出演者って言うより演者って言った方が業界人っぽいわよ」


「もう喋んじゃねえよお前!」


 一々癪に障るやつだ。


「って言うかさ、そもそも裏方がそんなに前に出るテレビ番組って何? 完全に映っちゃってるじゃん」


「いや、正直想くんだけじゃ画が持つかどうか不安だから」


「もう帰るよ俺!」


 初出社で訳の分からん事を言われて意識を失い気が付いたらここだ。

 帰してくれと言っても、え? え? と聞こえないふりをされてカウントダウンが始まる始末。どうなってるんだ。大体この距離で聞こえない訳ないだろ。


「ねえ想くん。さっきから帰る帰る言ってるけど」


「あん?」


「帰ったら職を失う事になるわよ」


「おい今の撮ったな! 完全にパワハラだよ。法廷に出たら二千万取れるよ」


「ってゆーか帰れないよー。あーちゃんのまじゅつでここに来たからー」


「そうよ。あなた転移魔術なんて使えないでしょ。あれ、かなりの高等術式だし」


「そもそも魔術を知らねーよ。お前らが薬品でも使って俺を拉致ったとしても話は成り立つし」


 いやまあ、自分の身に起こった事をどう説明すればいいのか、今までの常識だと不可能に近い訳で、そう言う物事を信じた方がずっと楽な現状ではあるけれども、それはそれで何か嫌だ。具体的にはこいつらにペースを掴まれているみたいだし。


「そう。魔術が信じられない? 確かに! 今までそんなもの見た事ありませんもんね! それはテレビの前の皆さんも同じでしょう!」


「いきなり仕切るんじゃねーよ、びっくりするだろ」


「と言う訳で、今回の企画を発表します!」


「します」


「何がと言う訳でなんだよ……」


「くーちゃんフリップ出して」


「りゅっくのなかー」


「段取り悪いな……」


 アリアはごそごそとくーの背負ったリュックを漁り始める。

 少々の後、何やら板状のものを取り出した彼女は、わくわくとした顔でそれを俺に持たせて、


「はい! じゃあ企画の発表です! ぺろーん」


 アリアが表面に張ってあった粘着紙を剥がすと、そこに現れたバカデカいフォントは……。


「…………『聖都ブノペスタンでスキルを手に入れよう!』?」


「はい! 拍手!」


 ぱちぱちぱちー、と、アリアだけの拍手が鳴り響く中、俺はもうこの世の中と言うものがわからなくなった。

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