表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再臨勇者の復讐譚~Be Braves~  作者: Midnight.P
序章 もう一つの始まりの物語
7/10

俺と彼女の約束

"裁断"との戦いから一週間ほどが経った。

戦後処理というのもほとんど終わり、一時的に王国にも平和が戻った。

とは言え一時的なものは一時的で結局は魔王を倒さなければならないのだ。


魔族と人族の抗争というものは簡単には終結しないものである。

伊織自身、魔王へと戦うように命じられたのがつい前日だ。

後日正式に玉座の間で魔王討伐の任を授けられるという。


「……何でだろうな、素直に喜べない」


正直なところは"裁断"を倒したことにいまだ実感がない。

国民は勇者の勝利に歓喜に湧いていた。

伊織自身もそのことは嬉しい、嬉しいはずだった。

もし一つ欲を言うならば分かち合う相手が欲しかったとでもいうところであろうか。


「なぁ、レンヒ。俺はお前に聞いてほしかったんだ」


深紅の刃が突き立てられた真新しい墓標の前で伊織はそうつぶやいた。


「四天王を倒したし、新しい目標ができたんだ……この世界でやろうと思ったことをさ」


『誰もが幸せな世界』を作ろうって。

まだ完遂するプランも何も考えておらず、ただの妄想であるけれども。

自分の師匠であり、転移以前の友人たちよりも信頼できる親友とも呼べるレンヒに伝えたかったのだ。


「『追いつく』なんかカッコつけやがって、レンヒって本当は馬鹿だろ?」


レンヒは魔族と戦い、亡くなったとルシフィナから聞いた。

それを聞いた最初は嘘か何かだと信じたい一心だった。

だが全ては理想であって、現実というものは非情であると知った。


無論、蘇生できる魔術など人族にはない。

魔族の一部には似たような魔術があるとリューザスは言っていたが。


「……俺は」


つくづく、伊織は思い知らされた。

例えどんな世界であろうとも現実と非情が世の中では普通だと。

綺麗事では全ては救えないということを。


『信じる』ことで公開する結果にもなるということすらも。


伊織が口を噛みしめ、涙をこらえていると後ろから肩を乱暴に叩かれる。

痛みに顔をしかめながら振り向くとリューザスがいた。


「よう、勇者様。何泣きベソかいていやがるんだ?」

「リューザス……」

「お前本当に泣くんなら邪魔にならねえところでしろよ……ほらよ食え」


とか言いながら、左手に持っていた果物で作ったお菓子のようなものを伊織に投げ渡す。

そして残ったものをレンヒの墓の前に供えた。

そのままリューザスはレンヒの墓の前で酒瓶を片手に胡坐あぐらをかく。


「ったく、テメェは『選定者』になって魔族をぶっ殺すとか言ってた癖に先に死にやがって」

「……リューザスはレンヒと知り合いだったのか?」

「まぁな。今の地位にいるのはアイツのおかげなところも少しあるからな」


だから腐れ縁って奴だろうな、と寂しげに笑った。

傍若無人のリューザスですら信頼を寄せる程の人物であったと改めて伊織は感じた。


レンヒは王族の人たちに嫌われているので今の中途半端な位置にいると後にルシフィナから聞いた。

人の選り好みが激しい彼女は王族を嫌っていたらしい。

王族からも『使えない勇者』の教育係に回される程度には嫌われていたようだ。

それでも信頼した相手のことを裏切らない良い奴であると。


リューザスは持っていた酒瓶を呷ると悪態を吐く。


「昔から馬鹿なことをする奴だったが魔族に殺されて死ぬとか……ふざけやがって」

「魔族に殺されて、か」


伊織の中で1つ納得のいかないことがあった。

それはレンヒの死因は魔族による刺殺だと鑑定医は判断したことだ。

レンヒの死体を伊織自身の目でみたので知っているのではあるが。


伊織が考え込んでいるとリューザスが尋ねる。


「どうした?何か腑に落ちねえとこでもあんのか?」

「いやレンヒの傷跡がな……あまりにも綺麗すぎなかったか?」

「アァ?」


納得がいかないのは致命打が心臓を背後から一突きであるということだ。

既に真正面から攻めてきているのに、暗殺のような戦い方をする必要がないはずだ。

それをリューザスはアホらしいとばかりに肩をすくめる。


「人それぞれ個性あるのと同じで魔族の中にも暗殺が好きな変わった奴がいるってことだろ?深く考える意味はあるか?」

「まぁ、言われたらそうかもしれないけどさ」

「じゃあ聞くな。ただレンヒを殺した奴には一発ぶち込んでやりゃあ良いだけの話だ、違うか?」


リューザスは単純明快にそう言うと酒瓶を再び傾ける。

伊織は普段と違うリューザスの態度に目を細めた。


「……今日はよくしゃべるな」

「あー、まぁ別に俺は喋らないだけで喋るのは嫌いじゃねえぞ?サーシャと喋っている時が一番楽しいしな」

「へいへい」


しばし沈黙が場を支配する。

レンヒの墓の前で二人は無言で座っていたが途中で沈黙に耐えられずに再び伊織は聞く。


「……なあリューザス。お前はサーシャが言っていた、『幸せな世界』っていうのは作ることはできると思うか?」

「……」


伊織はレンヒに尋ねたかったことをリューザスに投げかける。

この男ならば何か分かるのではないかと一縷の望みをかけながら。

だが、答えは非常にあっさりした物であった。


「……無理だな」

「なんでだよ!?」

「種族同士が分かり合うことなんざ、不可能だ。ものの優劣が付くのと同じだ。何者も優れたところや劣る場所・見た目、まぁ他者と違う所・・・・・・がある時点でっつうのはできちまう」


リューザスは真剣な目で伊織を見るとこう続けた。


「そこから生まれる妬み嫉みっつうのが戦いを戦争を引き起こすんだよ、アマツ。だから無理に決まってるんだろ?」

「……」


リューザスが言うことは正論であった。


伊織のいた現実世界でも同調しなければならない空気というものがあった。

その空気を読むことができなければ集団の輪から弾き出されてしまう。

まぁ、この世界ではそんな生温い物ではないだろうが。


「無理じゃない……できる」


だがむしろ伊織にとってこの世界では不可能ではないとも思えたのだ。

何度も言うが、今の伊織には力はない。

しかし"裁断"との戦いの際にノイズの先にいた青年の姿。

彼を目指せば、あるいは―――――――答えを見つけることができるかもしれないのだ。


『幸せな世界』へのビジョンへの望みが。


伊織の顔を見て、一瞬怒った顔を見せるがすぐに興味を失くしたかのように酒を喰らった。


「チッ、勝手にしやがれ」

「……勝手にさせてもらうさ」


そして、半分ほど飲み残した酒瓶を墓地に置くと立ち去った。

再び伊織は一人になった。


「もうそろそろ夕飯の時間だな」


リューザスが立ち去ったのを見て、そろそろ城へと戻ろうと立ち上がろうとする。

だが、その瞬間に強い風が吹いた。

伊織は不安定な体勢だったので、よろめいて思わずこけてしまう。


「ふべっ」


情けない声とともに地面にキスをしてしまった。

美味しくない味に顔をしかめながら、手を見るとこけた拍子に騎士剣に巻かれていた布切れをつかみ取ってしまっていたことに気づいた。


恐らくレンヒの騎士剣が近くに置いてあったので、彼女の物だろうと伊織は推測した。

そして、そこに書かれている文字を読んだ。


「……お前、本当にズルだろ」


伊織は静かに泣いた。

ただ泣き続けた。

自分を信じ続けた、最高の少女に。

もしかすれば永遠を誓ったかもしれない自分にとっての英雄を思い泣き続けた。


ここで一度、物語は閉幕する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ