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再臨勇者の復讐譚~Be Braves~  作者: Midnight.P
序章 もう一つの始まりの物語
6/10

私と約束

少し時間はさかのぼり、ところかわってレンヒと魔族五人との戦いに決着がつこうとしていた。

連携がかなり強い魔族たちではあったがものの数分でレンヒは動きを見切ることができていた。

既に四人の魔族はレンヒの魔術による起点崩しと、卓越した剣術で叩き斬ることに成功した。


だが、いくらレンヒが王国十指の実力者とは言え無傷ではなかった。

人族は魔族に比べると脆弱な魔法に筋力も渡り合うには対等などありえないのだ。


現に利き腕である右腕は力なくだらりとしており、全身に切り傷を負っているほどである。

しかし、魔族側の一人は虫の息であった。


「失せろっ!!」


死にかけの魔族が鈍重な土の弾丸を指から放つ。

レンヒは魔術を使えない右腕で受け止めると、左手の剣で首を貫く。


爪を持った魔族は貫かれながらもレンヒに反撃しようと手を伸ばす。


「この……人間風情がっ!!」

「ああ、そんな人間風情さ。お前らの連携は強かったが」


魔族の手がレンヒの顔に届くか届かないかの瞬間にレンヒは剣を滑らせる。

そのまま一回転して首を刎ねた。


「私の方が強かった、ということだな」


剣の血を払うと片手で左腰の鞘に戻した。

そしてレンヒは全ての魔族が完全に動かなくなったのを確認すると、近くの切り株を背に崩れ落ちた。


「さすがに魔族五人は無茶だったか」


傷の具合を確認し、ポーチに入れてあったポーションを口に含む。

レンヒはポーション特有の若干苦い味に口をしぼめる。

傷をいやしながら、破損が激しく意味をなさない鎧を脱ぎ捨てる。


そして動けるようになるまで座り込んだままでいいだろう、とレンヒは判断を下す。

と同時にレンヒは伊織の事を考えた。


「アマツは大丈夫かな……」


突然伊織が王城から飛び出し、魔王軍の方へと駆け出した時はレンヒも肝を冷やした。

まあ鍛えられた騎士であるレンヒが伊織に追いつくのに時間はあまりかからない。

無論止めようとしたが伊織の純粋な目で見つめられると断ることができなかった。

そのため、馬に一緒に乗せて"裁断"の近くまで送り届けるはめになった。


正直なところ、彼自身が嫌だとしてもレンヒとしては王城にいて欲しかった。

勇者と言われる存在であったとしても人間である。

人間である限り完全はあり得ない。


しかも"裁断"を先頭に侵攻が行われているならば生きることすら容易ではない。

それでも。


(アマツならきっと生き残れているはずだ)


レンヒは直感ではあったが勝つだろう、という予感も同時にあった。

根拠などは全くないが。

とはいえ、レンヒは現在動くことがままならないほどに体力を消耗していたのも事実。


(どちらにしろ体力が回復しなければ足枷もいいところだな)


そう思い、目を閉じて少しでも疲労を癒そうとする。

その瞬間に伊織の言葉が頭をよぎった。


『レンヒ、俺は助けたいんだ!泣いたり、辛い思いをしている人を助けたいんだよ!!』

『だからといって……それじゃきみは自分の命を捨てているようなものだろう!!召喚されて、そんな押し付けられた使命が嫌だから戦いたくなかったんじゃないの!?』


レンヒは当然反対はした。

そんなことをすれば、王国の思うように動かされているのと全く同じである。

勇者とは人間であり、思い通り動かせる盤上の駒ではない。


『確かにそうだ。でも、俺は魔王軍が攻めてきたときに思ったんだよ。傷ついたり悲しんでいる人を助けたいってそう思ったんだ!!』


真摯にそう訴えられたら、レンヒは頷くほかなかった。

それになにより伊織が初めて自らの意志を示して動いたことの方が嬉しかった。

何が本当の意味伊織の固い心の壁を破ったかは分からない。


だからこそ伊織だけを先に助けに行かせたのだ。

レンヒ自らを盾にそして剣となって支えてあげようと思った。


「『すぐに駆け付けてやる』と言った手前、休んでいる暇などないのだけどな」


体は言うことを聞かず、しかし伊織を助けたいという気持ちだけがレンヒの中で逸る。

当然の話だが独断で魔王軍へと向かった伊織たちに援軍などこない。

だとすれば助けることができるのはレンヒだけとなる。


レンヒは近くにあった木切れと服を破り、右腕に応急処置をして立ち上がる。

そして左手に剣を持ち、歩き始めた。


「……私が行かなきゃ。アマツを助けれるのは私だけなんだから」


レンヒは昔、魔族に自分の村を蹂躙された。

たまたまレンヒだけは村の掟を破り、洞窟の探検で村にいなかったのが幸いした。

否、一人だけ取り残されて不幸だったともいえる。

泥だらけ傷だらけで村に戻った時に消滅ともいえる程に村が破壊され、両親兄弟ともども皆殺しだった。


その時にレンヒは復讐を誓った。

魔族に復讐を誓ったあの日から、元の生まれた場所も名も捨てた。

獣人に拾われて、剣術を教わり、強くなった時に復讐を完遂できると思った。

そのための人生だと信じて生きてきたのだ。


だからこそ、レンヒは伊織を見た瞬間に自分の昔の姿を重ねた。

今まで積み上げた物がゼロになる感覚。

異世界転移し、何もなくなり不安で押しつぶされそうな姿。

その上で本当は好待遇にされるべきなのに悪辣な環境で過ごすしかないという酷さ。


それに対して『助けたい』ではなく、レンヒは最初同情をしていたのだ。

もし王国に対して反旗を翻すというならば手伝ってやろうか、と思うぐらいには。

だからこそ、伊織が『王国の人たちを助けたい』という言葉には驚いた。

王国民全員に復讐をしてもいいはずなのに。


「私は全ての魔族が許せないのに、アマツは恨んだりせずに助けようとしてるんだよね」


己では到底許容できないことを飲み込んだ伊織にレンヒは心底尊敬した。

そして反省もしなければならない。

自分よりも遥かに素晴らしい人なのだと。


「だったら私もアマツと同じぐらいの人間にならなきゃ」


レンヒにとって、確かに魔族は好きか嫌いかと言えば嫌いだ。

それでも悪い奴ばかりではないのかもしれないと伊織を見て思い始めていた。

一方的な価値観で決めつけてしまうと、相反するものは永遠に理解できないと学んだのだ。


これが伊織に対する恋心から生まれたとは彼女自身も知らない。


「アマツが人を助けたいって言うなら、私は―――――――――」


一歩一歩伊織のほうへと進みながら口元に微笑を浮かべる。


「――――人間も魔族も・・・・・・救って見せようじゃん」


これは見栄である。

伊織に追いつかれてしまっては、先輩風も吹かせることもできないからもある。

レンヒは傷まみれながらも歩みを止めずに進み続ける。


この時レンヒは全く知る由もないだろうが、既に"裁断"は伊織の手によって倒されていた。

そして充分に伊織の元へと行く時間も体力もあった。


―――――再び言葉を交わすことができるはずだった。

しかし、レンヒが歩いている最中に突如衝撃とともに激痛がはしった。


「え…?」


レンヒが視線を自分の体に向けると、胸部から紫色の剣が飛び出ていた。

刺されたと気づいた瞬間に剣が引き抜かれていた。


「えう、ぐぅううう!!」


そして心臓を貫かれたことに遅まきながらレンヒは気づく。

直感的に死は免れないと理解し、歯を食いしばり足に力を籠め、背後に一閃する。

銀色の軌跡が夕闇に照らされ相手の首元へと叩き込まれる。


「チッ」


だが、途中で紫剣の鈍い光とともに軽い音を鳴らし弾かれた。

剣同士の火花がレンヒを貫いた敵、マントの人物の姿を照らす。


「姿さえ分かればっ!!」

「……!?」


お互いの剣が弾いた状態で態勢が崩れている。

レンヒは自身の身体能力には自信があったため、二撃目ならば位置さえ分かれば倒せると確信していた。

相手自身もレンヒの死にかけとは思えない動きに驚愕していたようだった。


だが、それは叶わなかった。


「嘘でしょ…?」


カウンター気味に腹部に二本目・・・の剣が差し込まれる。

紫の剣を握っていた右手とは逆の左手にシンプルな騎士剣が握られていた。

レンヒが所持しているのと全く同じ形の支給されている型である。


そして、よく見ればマントの下に剣帯が二つあることに気づいた。


「成程。貴方の方が一枚上手だったってことね……」

「……」


レンヒは口から血を流しながら、不敵に笑う。

相手は相変わらず無言のままで剣でレンヒを地面に縫い付ける。

そのまま完全に振り向くことなく、レンヒが向かおうとしていた方向へ、伊織のいる方向へと向かい始めていた。


(……そっちの方向はアマツの、いる場所だ)


レンヒは指一つ動かせない上に意識すらも危うくなり始めていた。

しかし、レンヒはこのままやられるわけにはいかなかった。


もしかすると伊織を殺そうとたくらんでいる敵かもしれないからだ。

それだけは許容できなかった。

許容するわけなどありえない。


レンヒは掠れる意識を繋ぎなおし、上手く回らない口を動かして魔術を放つ。


「"旋風弾エアロブラスト"!!」


風の弾丸が音を鳴らしながら高速で相手を貫こうとする。

マントの人物は予想外だったのか剣で防ぐ暇はなく、左手で不完全ながらも防御魔術を発動させようとする。

七、八発ほど撃った弾丸は数発ほどは完全に止められたが二、三発は左手を貫きマントを剥ぐことに成功した。


「あな、たは……!?」


だが、マントが剥がれた人物の正体を見た瞬間にレンヒは言葉を失う。

その人物は誰よりも知っている人物であったからだ。


そのせいで完全に動きが止まったレンヒに対して、相手は剣を振り上げた。

そのままレンヒの左腕を斬り飛ばした。


「……」

「あっ……」


レンヒは数瞬戸惑い、自分の腕がなくなったことに遅まきながら気づいた。

しかし痛みは全くなかった。

ただ冷たい無機質なものが体を蠢いているような気持ちの悪い感覚だけである。


目の前の人物はレンヒが抵抗できなくなったのを確認すると伊織の方へと再び向かい始めた。

止める術はもちろんなかった。


レンヒはもうそれ以上何もできずにただ目を見開く。

目の前の人物が何故自分を殺そうとしたのか、王国の人間なのに何故、という疑問はあった。

でもそんな些細なことを考えている暇などなかった。

それよりも大事なことがあったからだ。


(アマツ……いや、アマツキイオリ。イオリか……)


ただ自分と似ていて異なる臆病で勇敢な少年の事を思い浮かべる。

血を流し過ぎてもう思考が完全に止まってもおかしくなかった。


(いやだな、死にたくないな)


レンヒの瞳からとめどなく涙があふれる。

死など、復讐を決めた時から恐れてなどいなかったのに。


(なんで今さら、今さらこう思っちゃうの?)


自分よりも大切なものが、守りたいものができてしまった。

歯を食いしばって、残る力を再び振り絞る。


(だったら……少しでもイオリに情報を残してあげないと)


伝えたいことを書こうと斬られた服の切れ端に血濡れた指で文字を書き始める。

伊織が最も注意するべき人間を、本当の敵を書こうとした。

レンヒを殺した敵の名前を書こうと震える指で死力を尽くそうとする。


だが、数文字書いたところで指が止まってしまう。


(嫌だ)


すぐに書き直す。

少し書いてた部分から、離して再び書き始める。

もうレンヒに残されている時間は数十秒となかった。


その前に何とか書ききった。


(これで、いい)


レンヒは後悔はしたくなかった。

それが伊織にとって不幸をもたらすかもしれないのだとしても。

最後ぐらい我儘をさせてもらおうとした。


レンヒは書ききると、そのまま幸せそうに眠るように息絶えた。































―――――――真っ白な服の切れ端には赤い文字でこう書かれていた。



『いおり、ありがとう。本当の弟みたいに愛してたよ』




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