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さよなら、アキト

作者: 恵そら

僅かながらでも興味を持って下さり、ありがとうございます。

 とても、とても好き――……。


 アキトがそう言うと、私は俯いてしまった。その言葉を口にする時のアキトの表情があまりにも優しくて、目をそらさなければ虚しくていたたまれなかったからだ。別人みたいに見えて怖かった。

 俯いた私を気にするでもなく、アキトは遠くを見据えていた。アキトはもう、自分とは違う方向を見ている。自分はただ、アキトの視界から段々遠のいていくばかり……。

「次は、いつ帰ってくる?」

「さぁ……。同じ風が、この場所にまた吹く時、かな」

「何、それ」

 空を映したアキトの瞳。

 ……嗚呼、もう止められないのだ。

「ケガ、しないで」

「ナナの声があれば大丈夫。あとは愛していると言ってくれれば完璧なんだけどな」

 アキトの右手には、彼の友人が渡したテープが握られていた。以前の感謝祭でたまたま私が歌を披露した時のものだ。

「……冗談ばかり言わないでよ」

 例え冗談でも、彼の言葉は私を大きく揺さぶる。ほんの些細な一言でも。

 しかしそれをわかっていて、傷つくと知っていて、私はアキトに聞くのだ。『飛ぶのが好き? 』と……。

 私の言葉はどれほどアキトの心に響くのだろう。

 アキトは機体に乗り込もうと梯子に手をかけた。

「ごめん。でも、本当だ。支えになる。君が、君の声がいつも側にあるなら、僕は多分本当に『風』のように飛べる気がする」

 それだけ言ってさっさと操縦席に乗り込んでしまう。

 私が馬鹿な女であれば、この歯の浮くような口説き文句に胸を高鳴らせ、幸福そうに笑えていたかもしれない。生憎、私はそんなに単純ではない。声じゃなくて、愛じゃなくて、私自身が貴方に届けばいいのに――……

 だから言わない。愛しているなんて。

「そんなものなくても、私は始めから、アンタのものよ」

 唸るようなエンジン音にかき消された告白。

 心が裂かれたように痛い。

 私は笑った。精いっぱい口角をあげて。

 アキトの耳には、聞こえただろうか。

 風が吹く。

 鋼の鳥が、紅の空に美しい弧を描いた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。とても短い話ですが、気になったところなどありましたらお教え頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして、灯夜っていいます。 ストーリーは、やはりこの長さの短編ですので、意外性はありませんでしたが、文章表現や感情の描写が良かったと思います。 個人的には、好きな作品構成です。 これか…
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