3話 小瓶の中身
『ユミルを打ち倒した三人の神々は世界を見渡した
そこにはまだ、何ひとつなかった
「世界を作るのにユミルの体を使おうと思う」
彼の提案にオーディンの兄弟たちはそれに賛成した
まず、ユミルの体をギルヌンガの真ん中におき、大地とした
流れる血で海や川をつくった
骨で山や丘を、歯で岩や石をつくった
髪の毛は木や草にした
そしてまつ毛を周りに植え巨人達からの守りとした
頭蓋骨を遥か真上に投げ、それを天として
脳をまき散らして雲とした
火の国から火花を取ってきて
それで太陽や月、星をつくった
そうして世界はオーディンの兄弟達によって形づくられた』
-巫女の予言 天地創造-
「アキ様、アキ様?」
腰につけたクロボからキーキー声がとぶ。近くにある人間の街に向かっているが、アキはうわの空だった。いつかはわからないが、神々の黄昏が起こる。この世界の終わりだ。
「クロボ、今は暖かいが、季節は春か?」
「間も無く夏になりますね。大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない。話を続けてくれ」
春が訪れない三度の長い冬、『恐ろしい冬』の後にやってくる。まだ気配はないようだ。時間はある。
アキはゆっくり深呼吸をした。腰でクロボが人間の国について話している。移動中に地理についての説明を頼んでいた。
「…であるからして、今いるのは四つある人間の国で最も東に位置するユトランド聖国。神の国へ向かう虹の橋に最も近く、多くの神々が訪れる地として知られています。いい国ですよ。」
「なるほど、とりあえずは情報を集めるために街へ向かおう。あと、俺はロキになにか飲ませてもらったが、あれはなんなんだ?」
小瓶を飲んだ時のことを思い出す。特に体には何も変わりはなかった。
「神々は人に血を与え、契約と啓示によって英雄をなす。オーディン様であればいかなる幻影をも見抜く全知の目やトール様であれば豪腕、バルドル様なら未来を見る目など、神によって様々な常世を超えた力を特異な能力として与えます」
「まるでお伽話だな。ロキの場合はどうなんだ?」
「ロキ様は今まで血を与えたことがなかったので…不明です」
クロボが申し訳なく答える、「本来であれば契約する神が能力については説明するのが基本」と付け加えて。
「…そうか」
二人は黙りこんだ。能力を手に入れても、その内容も使い方も一切わからない。ロキの性格や伝承された神話から考えるしかないようだ。
「ロキが最後にくるっと回って消えただろう?あれはやってみたらできたりしないかな?」
「アキ様、それはやめておいたほうが良いと思います」
クロボが止めた。
「あれはロキ様の【無秩序】な力の顕現。あるゆる場所に無制限に移動することが可能なもの。【|無秩序な跳躍】と呼んでいましたが…」
「すごく便利じゃないか」
「ええ、ただ一つ、完全にどこに行くのか無作為内容も点を除けば素晴らしい力です。極寒の氷の国かもしれないですし、燃え盛る炎の国かも、世界の果て巨人の国かもしれません」
「…襲われたりした時に逃げるために使うことはできそうだ」
「そうですね。逃げた先でもっとひどいことになるかも知れませんけど」
また二人は黙りこんだ。
ロキは狡猾にして無秩序、悪意、不品行、無道徳の神、盗人であり、殺人者であり、魔術師でもある。どんな能力があるのだろうか。アキが考えても答えは出なかった。