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すみません、好きでした。

ほんっっのりGLっぽい雰囲気がありますが、あくまで親愛レベルなので一応苦手な人は注意してください。

頬を切る風が、夏なのにひんやり感じる。どうしても区切りをつけたくてしてしまった行動に頰が熱を持っているせいだろうか。よく「東京の空気はマズイ。」と人は言うけれど、どうしてだかわたしにはスッと体中に染み渡っている気がする。別に美味しいなんて思わないけど、でもわたしの体も東京の空気もわたしを拒絶しているようには感じなくて、少し居心地よくすら感じる。視界を過ぎ去る色とりどりのネオンの中にわたしの探している光はあるのだろうか。たぶん、無いんだ。でも、この目で見ないわけにはいかない。駆け抜けてきた道を振り返っても、初めて好きだと思った人も重ね合わせた彼女も見えなかった。


 帰宅ラッシュを迎えた電車内は殺伐とした雰囲気の中、男も女も老いも若いも関係なく小さな箱の中に入れられる限りの人々を乗せ、東京の街を駆けていく。降車側の扉になんとか陣取り、殺人的ラッシュに慣れない彼女を守るようにわたしは向き合っていた。彼女はさっきまでの危うい雰囲気はどこへやら、上の空のまま美しく見える街並みを見つめていた。

「わたしの目って、諦めてるのに諦めてないんだって。」

「え?」

窓の外を見つめたまま独り言のように、彼女は小さな声でそう呟いた。

「最初、それ言われたとき何言ってんのこの人、とか思ったの。でもね、初めて東京のお姉さんに会った時に納得したの。ああ、この人の目のことかってね。」

何を言っているのだろう。つまり、それはこの少女とわたしの目が似ているってことだろうか。いや、それはまずあり得ない。彼女はたしかにいつもどこか達観している節はあるが、わたしのようにフラフラと進む道を見据えることすら出来ないような弱弱しい目なんてしていない。逆もまた然りだ。わたしは、彼女と目を合わせることすら罪悪感がある。その目で必ず真実を見つけてやると燃えるような意志がそこには宿っているのだ。

「そんなにわたしの目死んでたかな。ちょっと東京の生活で荒んじゃったのかなー。」

冗談を言うように笑って誤魔化そうとした。でも、彼女はそんなことを許してはくれなかった。

「逆だよ。お姉さん、もう何もかも諦めたみたいな顔して、絶対絶対見つけてやるって目してたよ。諦めたくないって、どうにかしてやるって目してたよ。初めて会った時も、今もずっと。」

真っすぐにわたしのことを見つめながら、彼女はそう言った。目を逸らすことを許さず、突きつけられる真実をしかとその目で見て受け入れろと、わたしの目にそう訴えかけてきた。

「…そんなことないよ。わたしはなんにも出来なくなって、逃げ出しただけ。」

これ以上なにも言わないで欲しかった。考えたって無駄だって思って、考えないようにしていたのに、東京から逃げてもまだ自分がどうにかして満足できる道を探してもがいているという情けない事実から目を背けたかった。

「…お姉さんさ、もう東京に戻りなよ。」

新宿に到着したことを告げるアナウンスが流れる。濁流のように人が後ろからわたしたちのことを押し出そうとする。やかましい駅のアナウンスにも、品のない人々の喧騒にもかき消されることなく彼女のその言葉はわたしの体中にこだました。

「い、今更戻るなんて、そんなこと」

「できるよ。何より、見つけられなかったでしょ。東京でも、わたしの町でも。」

混雑するホームの端で彼女は優しく微笑んでいた。じくじくとした心の痛みが身を切るような鋭さを持ち始めた。わかっていたことかもしれない、でも認めたくなかった。お得意の努力も、必死な思いで決行した逃避行も無駄だったんだって思いたくなかったんだ。なんだ、ほんとにわたしってこの子が言うように諦めきれてなかったんじゃない。頑張り切れなくなって、見つからない自分の道を探してとんだ田舎まで行って、十も歳下の少女に諭されて、安い小説みたい。

「どうしよう、わたし情けない。どうしたらいいの、ねえ。」

もう恥もへったくれもない。わたしは彼女の前で狼狽えながら泣いた。彼女はゆっくりとわたしの手を握り、あやすようにわたしの背を撫でた。

「わたしもね、これから確かめてくるんだ。そこに、本当はなにも無いってこと。」

だから、お姉さん一人じゃないよ、と慰めるように彼女は囁いた。やっぱり、彼女はただの憧れや好奇心でこの街に来たのではないのだ。彼女は探しているのだ、自分が本当に向き合わなければならないことを。

「あとね、お姉さんに謝らなきゃならないことがあるの。」

握っていた手を放し、柔らかな笑みの下に寂しさを滲ませた表情で彼女はわたしを見つめた。

「全然違うのに、ずっと重ねてたの。ブラックコーヒーが好きなとことか、年上の女の人ってとことか、おんなじところを見付ける度に先生と重ねてた。」

全くなんの話をしているのか見当もつかず、首を傾げたい気持ちだったが彼女がどうしようもないくらい苦しそうに笑顔を作っている様子がわたしの心さえも切なくした。

「ごめんね、先生、お姉さん。」

ゆっくりと、彼女はわたしの右の口の端に軽く口づけた。そして、わたしのことを人混みへ力いっぱい突き飛ばした。一瞬にして少女は人の海に飲まれ、その姿は見えなくなってしまった。正直、キスをされたことよりも田舎の制服少女が新宿の街に単身で消えていってしまったことの方が衝撃的だった。待って、どうしよう。とりあえず親御さんに殺されてしまうのは嫌だから、消えた彼女の後ろ姿を必死で追う。後ろ姿なんて見えてないけど、探さないわけにはいかない。

「そういうことなのかな。」

輪郭も形もなにも見えてないけど、ただ自分が生きる道をがむしゃらに探さないわけにはいかないんだ。東京を飛び出したわたしの後ろ姿は、走り出した彼女のようだったのかな。

ここの話だけ書ければ満足です、、、( ˘ω˘ )楽しかった、、、時系列意味わかんない感じですが、雰囲気でお楽しみください_(:3 」∠)_

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