すみません、迷子です。
怒られることが嫌いだった。クラスで怒られているやんちゃな男の子たちを見ては、大人の言うことは聞いておけば怒られなくて楽なのにと思っていた。多くの人が言う「正しい」道を進み続けていれば、必ず自分は幸せになれるんだと思っていた。だから一生懸命勉強して、良い高校大学に入った。正直、楽しかった。価値観の合う友人、優しい年上の恋人、ほどほどに部活やサークルをやって充実していた。ああ、やっぱり人は頑張って努力して生きれば必ず幸せになれるんだ、そう確信した。でも、就職してからふと気づいてしまった。今まで無かったはずの渇きが心の中をじわじわと侵食していることに。
え、なんでだろ?努力して大手企業に勤めて、必死に仕事も覚えて上司にも褒められることだってあったのに。なんで満足していないの?
自分のことなのに突然出てきた心の渇きに心底驚いた。そして焦った。どう努力したらこの渇きを癒すことができるのかわたしには全くわからなかったから。そして身動きできないままでいたら仕事が急にできなくなった。任される仕事の一つ一つに疑問を抱いてしまうようになった。これをやったらわたしは満足できるのかな、昨日も満足できなかったのはどうしてかな、どうすれば充実するのかな。疑問ばかりが募り、仕事をするのが嫌になった。
「だからわたしは、逃げ出したんだ。」
誰にも宛てることのないわたしの言葉は、眠る彼女とわたしだけの空間でゆっくりと霧散した。窓の向こうで輝く東京の街が、思い出と言うには苦すぎる過去にわたしを沈めていった。
東京に着いたのは日も暮れかけた夕方だった。安い居酒屋のキャッチの声、いかがわしい店のBGM、若い男女の高揚した話し声、巨大液晶スクリーンから流れるどこか遠くのニュース、この騒がしさがまだわたしの肌には懐かしさを感じるよりもぴたりと馴染んでいた。彼女はさぞ驚いているのだろうと思い、横に並ぶ彼女の横顔を覗いてみた。しかし、目の前に広がる「東京」の姿を彼女は一つも見ずに、手元のスマートフォンをじっと見つめていた。
「ちょっと、東京に来たかったんじゃないの?スマホばっかやってないで楽しんだら?」
呆れながら諭すように声をかけた。少女は一瞥もくれることはなく、ただ煌々ときらめく手元のスマートフォンをじっと見つめながら頷くだけだった。この少女はこちらが気後れしてしまうほどに強い意志を持ちながらどこか達観した雰囲気を醸し出しているのに、時折純粋無垢な子供の姿をちらつかせる。それがまた危うさを感じさせる。この子友達いるのかな、とふとその時初めて思った。
「新宿に行きたい。」
「え、新宿?いいけど…。」
東京駅に降り立ってから一言も口を開かなかった彼女は、唐突にそう言った。急に話しかけられて、驚きながら彼女を見た。ああ、まただ。見えない真実を見つけてやろうと強い光を宿した瞳。どうしてもその瞳で見つめられるのが苦手だ。まるで今のわたしを責めてるかのように感じるから。わたしを見つめる彼女の瞳から逃げるようにわたしは顔ごと彼女から目を逸らした。
「逃げてないで、行こう。」
彼女は力強くわたしの手を握った。その表情は、いつものような不機嫌なものではなく、受け入れがたい何かをどうにかして受け入れようと自分を説得するような苦々しいものだった。まるで彼女自身が何かから逃げ続けていた自分に言い聞かせるようだった。
「…あなたは何から逃げてたの?」
思わずそう呟いていた。わたしのそんな呟きを聞いているのかいないのか、彼女は不器用に笑いながら歩き始めた。
「ちょっと…、どこ行ったの…!」
気づけば文字通り眠らない街新宿をわたしはひたすら走り回っていた。忽然と姿を消した彼女を探して。
なんかどんどん短くなってる、、飽きないようにサクサク書いてるせいか、、笑 基本何も起きない話の中で唯一ってくらい何かが起きた話です('ω')会話全然ないし文章がいちいち回りくどくてすみません…_(:3 」∠)_まあわたしの自己満足なので…笑 あとこれ5話で完結予定なのでもう終わります。




