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すみません、ブラックコーヒーです。

夏の匂いをほのかに乗せた風が車内に吹き込む中、ただわたしと彼女は拳一つ分の間を空けて沈黙したまま隣同士で座っていた。列車の中は平日の昼間、加えて田舎ということもあり疎らに人がいるだけだった。それでも県内随一の進学校の制服を着た彼女はその疎らな視線さえも集めてしまっていた。彼女の顔を盗み見れば、視線はどこかを彷徨いながら明日とも昨日とも取れぬどこかを見つめていた。

「そんなにわたしのこと、お姉さんも気になるの?」

どことも取れぬところを見つめていた瞳が唐突に光を持ち、わたしにその光の矛先を向けてきた。十近く歳下なのに、いや、それゆえか、強すぎる光を孕む彼女の瞳がどうにも苦手だった。わたしにもそんな光があったのか、十年前の自分の瞳は危うくも固く強い光を孕んでいたのか。いや、恐らく違う。わたしは彼女のようにそんなに強く生きていない、隣にいる少女の詳しいことをわたしは全くと言っていいほど知らないが、それでも十年前のわたしとは違うことだけは言い切れる。

「気になるといえば気になるよ。制服着替えてくればよかったのに、目立ってるよ。」

「なんだ、そんなこと。」

車内の視線を集めることは彼女の中では「そんなこと」の中に収まってしまうほどのことらしい。

「いいんだよ、べつに。見たい奴も、学校にチクりたい奴も、好きにすればいいんだよ。だから、わたしも好きにするの。お姉さんもそうでしょ?」

不機嫌そうな顔ではなく、憑き物が落ちたようなすっきりとした表情で、彼女は微笑んだ。

「好きにしたいから東京を出て行って、好きにしたいから東京に戻るんでしょ?」

違う、東京に戻るのは別に好きにしたいからではない。あなたの付き添いであって、自分の勝手ではない。たしかに、彼女について行けば今の心の渇きをどうにかする何かが見えるかもしれないと思った。でも、見えないかもしれない。このままなにも見えないまま暗闇の中を歩き続けることがどれほどわたしの足を竦ませるか、あなたには分かるの。どこへでも自由に行ってなんのしがらみもなくなんでも出来るのはあなたのようなまだまだ若く幼い人だけなのよ。そう、言いたかった。自由を歌うように口にする若い彼女に苛立ちを覚えた。

「…そうかもね。」

しかし、自分の口をついて出た言葉は彼女への反論でも怒りでもなく、曖昧にして逃げるようなものであった。言い知れない怒りを抱えながらも出てきた言葉と声の弱々しさに自分でも驚いた。彼女はわたしの濁すような曖昧な返答に興味が失せたのか、それから全くわたしのことを見ることはなかった。不機嫌さを滲ませた表情でいつかのどこかを、ただ見つめていた。時折入れ替わる視線だけがわたしたちの周りでうるさくまとわりついていた。

「東京のお姉さんってどこで働いてたの?」

ターミナル駅からようやっと県外へ出る電車に乗り継いで程なくして彼女がそう問いかけてきた。

「会社の名前なんて女子高生に言ってもわからないでしょ。はい、これあげる。」

なんだかさっきから曖昧にしてばっかだなあ、と思いつつも感情と勢いに任せて辞めてしまったことへの罪悪感と後悔で正直前の職場のことは思い出したくなかった。ごまかすようにボックス席の向かい側に座る彼女へ冷たいコーヒーを渡した。

「そうじゃなくって…てか、お姉さん飲んでるの、ブラック?」

「あ、そうそう。あなたのはちゃんと甘いやつにしておいたから。」

仕事を始めてからはブラックコーヒーを飲まなければ体にスイッチが入らない感じがするようになってしまい、仕事を辞めた今でも毎日一杯は飲んでいる。わたしも学生の頃はキャラメルとか入ったあまーいのが好きだったなあ、と言えば彼女はまた不機嫌そうに自分の缶コーヒーを睨みつけた。

「大人ってよくわかんない。ブラックなんて飲む人いるのとか思ってたけど、結構いるのね。」

「大人でも好みがあるからブラック飲めない人もいるよ。親が飲んでるの?」

何気なくそう聞いてみたが、彼女はわたしのブラックコーヒーを見つめながら、あーまあ、と歯切れの悪い返事をした。ぼうっと眺めた窓の外にはどんどん人が増え、背の高い建物が軒を連ねていた。故郷が近づいてくるほどにじくじくとした痛みが思い出とともにわたしの心を襲ってくる。この痛みが、わたしのどこから溢れているのかは外を見るだけではわからなかった。

勢いで書かないと飽きて諦めそうなのでさっさか書いていきます笑 1話に続いてほんっっとに何も起きません、すみません…(´ー`)

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