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割れたスチクロー  作者: 藤城あいか
3/3

入会

 震えつつ、かれんさんのことを見つめる。取って食ったりはしねえよ、というお言葉を頂いたので、少しだけ緊張を緩める。すると、かれんさんは俺に背を向けた。

「……まあ、大人しくしてろ。リーダーと会わせてやる」

 そう言い残して、すたすたと部屋から出て行ってしまう。扉が閉まったのを見届けたところで、俺は深いため息を吐いた。

 正直言って、キャパオーバーだ。きっと、かれんさんも、リーダーという人も、あと、……男の人もいたっけ。みんな、ちょっとヤバい人なんだ。

 自分の軽率な行動を後悔した。もしかしたら、銃を所持していたのを見てしまったのだから、口封じに……、なんて、ことを考える。ぞっとして、考えをかき消すように首を振った。ああ、俺はなんてことを……。

 そこで、ノックの音が響いた。

「は、はい!」

「開けるよ」

 落ち着いたテノール、男の人の声。開いた扉から見えた人達に、俺は息を呑んだ。

「具合良さそうだね、良かった」

「やっほぉ、だーいじょぶ?」

 男の人は金色の瞳が印象的だった。薄紫のようなアシンメトリーの髪で、妙に艶めかしいような雰囲気だった。

そして、女の人。この人がリーダーか、と思えばすんなりと納得できる。そんな、オーラがあった。透き通るような碧眼と、長い金髪。外国人だろう、深い彫りのその顔はとても整っていて、……なるほど、女神だ。

「……ん? なんか、めっちゃ見るね」

「え、あ、ごめんなさい……っ」

 ふふ、と可愛らしく笑う。なんだか、かれんさんの視線を背中に強く感じた。

「私はね、エカチェリーナ・イヴァーノブナ・オルローフ。カーテュって呼んで?」

「俺は戸野靖明、よろしくな。君のことは、知ってるから大丈夫」

「え、なんで……?」

 そう言えば、かれんさんも名前を確認に使っていた。ということは、もともと名前を知っていたということで。

「うん? この辺の子のことは把握してるよ」

 さらりと言われ、これは突っ込んで聞くべきじゃないな、と判断した。

「あんた、喋り過ぎ。リーダーに説明してもらうって言っただろ」

「ああ、ごめんごめん」

 平謝りの後、靖明さんはカーテュさんのことをちらりと見る。そして、カーテュさんはその豊満そうな胸を張って、きりっとした表情をしてみせる。

「ここはね、義賊のアジトなんだよ! 会名はアリオール」

「……ぎぞく、」

「良い事するために、ちょっと悪いこともしてる……って感じ?」

 たしかに、俺のことを助けてくれた。

 高校生になって調子に乗って、友達に唆されて。ヤバい奴らのたまり場になってるっていう、廃工場にのこのこと行った、そんな、どうしようもない俺のことを助けてくれたんだ。こんな、手当てまでしてくれて。感謝してもしきれない。先ほどまで、怖がっていたのが少し、申し訳なくなった。

「……で! 君も、私らの仲間になってほしいんだよね」

「え、えぇッ⁉」

「だって、ほら、色々見ちゃったろ?」

 まあ、それは確かに。でも、仲間ということは危ない事になりそうで。頷くのを躊躇った。……でも、

「……頼む、人手不足なんだ」

 困り顔のかれんさんに言われ、俺はいつの間にか頷いていた。そうしたら、三人の顔がぱっと輝く。

「ほんと⁉ やっったあ!」

 がばっとカーテュさんに抱き着かれる。後ろで、かれんさんがちょっと! と叫ぶのが聞こえた。靖明さんの、控えめな笑い声。

 ……悪い人たちじゃ、絶対に無さそうだ。

 そのことにただ安堵して、頷いたことを悔やむことはしないでおこう、と思った。


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