入会
震えつつ、かれんさんのことを見つめる。取って食ったりはしねえよ、というお言葉を頂いたので、少しだけ緊張を緩める。すると、かれんさんは俺に背を向けた。
「……まあ、大人しくしてろ。リーダーと会わせてやる」
そう言い残して、すたすたと部屋から出て行ってしまう。扉が閉まったのを見届けたところで、俺は深いため息を吐いた。
正直言って、キャパオーバーだ。きっと、かれんさんも、リーダーという人も、あと、……男の人もいたっけ。みんな、ちょっとヤバい人なんだ。
自分の軽率な行動を後悔した。もしかしたら、銃を所持していたのを見てしまったのだから、口封じに……、なんて、ことを考える。ぞっとして、考えをかき消すように首を振った。ああ、俺はなんてことを……。
そこで、ノックの音が響いた。
「は、はい!」
「開けるよ」
落ち着いたテノール、男の人の声。開いた扉から見えた人達に、俺は息を呑んだ。
「具合良さそうだね、良かった」
「やっほぉ、だーいじょぶ?」
男の人は金色の瞳が印象的だった。薄紫のようなアシンメトリーの髪で、妙に艶めかしいような雰囲気だった。
そして、女の人。この人がリーダーか、と思えばすんなりと納得できる。そんな、オーラがあった。透き通るような碧眼と、長い金髪。外国人だろう、深い彫りのその顔はとても整っていて、……なるほど、女神だ。
「……ん? なんか、めっちゃ見るね」
「え、あ、ごめんなさい……っ」
ふふ、と可愛らしく笑う。なんだか、かれんさんの視線を背中に強く感じた。
「私はね、エカチェリーナ・イヴァーノブナ・オルローフ。カーテュって呼んで?」
「俺は戸野靖明、よろしくな。君のことは、知ってるから大丈夫」
「え、なんで……?」
そう言えば、かれんさんも名前を確認に使っていた。ということは、もともと名前を知っていたということで。
「うん? この辺の子のことは把握してるよ」
さらりと言われ、これは突っ込んで聞くべきじゃないな、と判断した。
「あんた、喋り過ぎ。リーダーに説明してもらうって言っただろ」
「ああ、ごめんごめん」
平謝りの後、靖明さんはカーテュさんのことをちらりと見る。そして、カーテュさんはその豊満そうな胸を張って、きりっとした表情をしてみせる。
「ここはね、義賊のアジトなんだよ! 会名はアリオール」
「……ぎぞく、」
「良い事するために、ちょっと悪いこともしてる……って感じ?」
たしかに、俺のことを助けてくれた。
高校生になって調子に乗って、友達に唆されて。ヤバい奴らのたまり場になってるっていう、廃工場にのこのこと行った、そんな、どうしようもない俺のことを助けてくれたんだ。こんな、手当てまでしてくれて。感謝してもしきれない。先ほどまで、怖がっていたのが少し、申し訳なくなった。
「……で! 君も、私らの仲間になってほしいんだよね」
「え、えぇッ⁉」
「だって、ほら、色々見ちゃったろ?」
まあ、それは確かに。でも、仲間ということは危ない事になりそうで。頷くのを躊躇った。……でも、
「……頼む、人手不足なんだ」
困り顔のかれんさんに言われ、俺はいつの間にか頷いていた。そうしたら、三人の顔がぱっと輝く。
「ほんと⁉ やっったあ!」
がばっとカーテュさんに抱き着かれる。後ろで、かれんさんがちょっと! と叫ぶのが聞こえた。靖明さんの、控えめな笑い声。
……悪い人たちじゃ、絶対に無さそうだ。
そのことにただ安堵して、頷いたことを悔やむことはしないでおこう、と思った。




