聖杖物語黒の剣編エピソード3第4章絆<ネクスト>前編 解放
獅道と闘いを始めた鋼狼鬼。その姿を見つめるパクネ。
鋼狼鬼・狼牙を慕うパクネに光が残っていた・・・
「お父さん、どうしてもやらないといけないのか。」獅道は、剣を構えながら小声で言った。
「ふふふ、獅道。全力で懸からねば、一撃で死ぬ事になるぞ。私は容赦しない。」狼牙の言葉に、
「解った・・・。もう父さんではないんだな。魔獣騎士<ダークナイツ>鋼狼鬼!」獅道は剣を繰り出す。鋼狼鬼は軽々と、その一撃を払いのけ、
「どうした、それがお前の全力か?」
<ガギィン>
「ぐはっ!」鋼狼鬼が獅道に斬り付け、吹き飛ばした。
「ふふふっ、もう後は無いぞ。獅道よ。」
「くそっ!まだだ!!」獅道は、ふらふらと立ち上がる。
ーだめです、狼牙様。その子は実の子獅道なのですよ。-パクネは狼牙の後で爪を噛んで立ち竦んでいた。
ー私にもまだ光が残っていた。人と触れ合う事で、光がまた少し戻ってきたんだ。狼牙様に教えて頂いた、人のぬくもりが・・・。でも今、狼牙様はダークサイドになってしまった。狼牙様に元の優しい心は残っていない筈・・・-
「はっ!」
ーそうだ!私が美琴の学校へ教師として潜入する事になったのも、狼牙様の命。すぐに襲わず数週間人間として教え子と触れ合う事が出来たのも狼牙様の命。・・・もしかしたら狼牙様の中にも光が残ってるのかもしれない。だとしたら・・・。狼牙様ずっとずっとお慕いしてきました。パクネはもう一度狼牙様に、光を取り戻して頂きたく思います。この身がどうなろうとも・・・-
「光よ・・・まだ私の中に有ると言うのならば、この命に変えて願います。使者の魂と、私の魂を入れ替えたまえ。」パクネは右手を高々と伸ばし、ブレスレットを報じた。パクネの黒いブレスレットがひび割れ砕け散り、替わりに胸に着けていた勾玉が光を出し、パクネを包む。暖かい光の中、パクネは一人の女性と会っていた。
「ああっ、美久さん。久しぶりですね。」パクネが懐かしそうに話し掛けた。
「パクネちゃん、大きくなったね。ありがとう、呼び出してくれて。あの人を救う為に一緒に行きましょう。」美久が微笑みかける。
「はい!喜んで。お供します、狼牙様を救う為。美琴を闇から救う為。」光の中で2人は手を携えて歩みだした。
「これで止めだ、獅道。」
「くっ!!」倒れた獅道に剣を着きつけ鋼狼鬼が、言い放ち剣を振り上げる。
「狼牙!」そう言って鋼狼鬼の背後から飛びついた女。
ーパクネ?なぜ鋼狼鬼を止める?-獅道が困惑する間、鋼狼鬼は動きを止めている。
ーチャンスだ!-獅道は、下から剣を鋼狼鬼に突き入れた。
「ごふっ!」鋼狼鬼は、ゆらゆらと後ずさりして膝を付く。
ー今、なぜパクネが飛びついたとはいえ、避けなかったのだろう。-獅道が見ている前で、パクネに縋り付かれていた鋼狼鬼に変化が・・・。
ーま、まさか。奇跡か?-
「狼牙、狼牙様。」2人の女の声が狼牙の心に入ってくる。闇に閉ざされた狼牙の心に。
ー誰だ、私を呼ぶのは?-
ー狼牙。私の愛する人。気が付いて?美久だよ、私だよ。-
ー美・・久・・?そんな筈は無い。美久は私の前で・・・-
ー死んだ・・・。肉体は消えても心は、魂はあなたと一緒だよ。-
ー本当に美久なのか?私の最愛の妻、美久なのか?-
ーええ、狼牙。あなたを迎えに来た。あの子達を救う為に・・・-
ーあの子達?獅道に虎牙か?-
ーええ。それに巫女。美琴を・・・助けてあげて。狼牙。-
ーああ。助けてやりたい。大切な子供達を。-
ー行きましょう、あなた。私も共に闘います。-
ーああ。行こう美久。-
光の小さな穴がどんどん広がり、光が狼牙と美久を包み込む。光の中でパクネが待っていた。
「狼牙様、美久さん。私、私・・・」涙を目に溜めたパクネが、狼牙に近寄った。
「ああ、パクネ。礼を言う。良く美久を連れて来てくれた。」
「狼牙様、私もお供いたします。」
「・・・パクネ、それはならん。お前は生きろ。生きて幸せを掴むのだ。」パクネが必死に、
「そんな!お願いします狼牙様。私、狼牙様の事をずっとずっとお慕い申しておりました。狼牙様の居ない世界でなんて生きていけません。ですから、ご一緒させて下さい。お願いです!」
狼牙はパクネの頭に手を置いて、子供に諭すように言った。
「パクネ。獅騎導士白銀の狼、狼牙の命で魔導士としての任を解く。」
<ぱあああっ>狼牙の手から光が溢れ、パクネの体を光が包む。
「あああっ!!私っ私は人間に戻れたの?ダークサイドから解放されたの?」
「そうよ、パクネ。あなたはもう自由。これからは、聖導士として任にあたりなさい。それが、私達夫婦の願い。解って頂戴。」美久に諭されたパクネは、
「あああっお母さん!美久お母さん!!」美久に抱きつき涙を落とした。
「さあ、パクネ。私達は行くからね。生きて、強く生きるのよ。私達は何時でもあなたの傍にいるからね。」美久は、パクネに微笑んだ。
「パクネ。今迄尽くしてくれた事感謝する。この通りだ」狼牙が、パクネに一礼した。
ーああ。報われた。この一瞬で全てが報われた。-
パクネは静かに目を閉じた・・・・。
「奇跡か、これは・・・父さん!」獅道が白銀色の鎧に駆け寄り肩を掴む。
「獅道か、すまないな。」
「父さん!戻って来てくれたのか。父さん!!」
「獅道、時間が無い。虎牙を助ける。そして私と美久の誓いを果たすときが来た。」
「誓い?」獅道が聞き返す。それには答えず狼牙は立ち上がり、
「獅道!兄虎牙の手助けを頼む。そして・・・これからも強くなれ、強くなって私を越えろ。それが父と母さんの願いだ。」
「な、何でそんな言い方するんだよ。折角元に戻れたのに。」狼牙は、ゆっくり獅道をみながら、
「獅道、私の肉体はすでに滅んでいる。今の肉体はギガントの呪によって成立しているのだ。この意味が解るな。獅道。」
「そんな!父さん!」
「私はお前たちといつも一緒にいる。美久と共に。」そう言って狼牙は、虎牙の元へ立ち去る。
「待てよ!父さん!!行くな!!」
白銀の狼は、元の英雄の姿に戻り、獅道の前から去った。
パクネによって、ダークサイドから解放された狼牙。
ギガントと因縁の勝負が始まる。
虎牙は、美琴を救えるのか?美琴はダークサイドから戻れるのか?
次回エピソード3白銀の狼 第4章絆 後編 皆<ミンナ>との絆
次回も読んでくれなきゃ駄目よーん