聖杖物語黒の剣編エピソード3白銀の狼第1章発覚Part3逃避行
あたしの目の前で、マコとヒナが捕らわれてしまった。
あたしは二人を救う決断をする。
それが、どんな意味を持っているかを知りながら・・・
ーまさか!式鬼!?-
「くっ!どうすればいいの??」あたしは、焦った。こんな所で式鬼と、相対するとは思ってもいなかった。しかも3匹と。まして、人質としてマコとヒナを取られた状態で。ここは現実世界、魔獣界とは違う。マコやヒナ以外の人にも見られてしまうかもしれない。あたしが聖導器を使ってしまえば、この式鬼からマコとヒナを助ける事は出来るかもしれない。でも、そんな事をしたら、マコとヒナに聖導士である事が知られてしまう。もう、二人の前に居られなくなる。
ーでも、二人が中嶋君みたいに殺されてしまう位なら・・・あたしは・・・-
「離しなさい!・・・式鬼!2人を!!」あたしは決めた、二人を救う事を。
「おい美琴、お前何言ってんだよ。」
「ミコッタン?」二人があたしに問いかける。
ーごめん、マコ、ヒナ。これが、これがあたし。聖導士になったあたしの務め。-あたしは右手を高く掲げ、胸の奥から湧き出す言葉を叫ぶ。
「退魔の音曲、炎の矢<ファイヤアロー>!」ブレスレットが光を放ち、あたしを包む。伸ばした手の先にハープが現れ、式鬼達に音曲の矢が突き刺さる。式鬼達は声も立てずに屑折れ、マコとヒナを解放した。
<シュウウウッ>式鬼が粉々になって消え去った。あたしは右手を高く掲げたまま、マコとヒナを見つめていた。
ーああっ、これでもう、二人の前には姿を見せる事は出来なくなってしまった。-そう思ったら涙が頬を伝って流れ落ちる。
「美琴、お前は?」
「ミコッタン?」呆然とあたしを見つめる二人に、
「今見た事を決して口外しないで下さい。もし、誰かに例え肉親であったとしても・・・喋ってしまったら全ての記憶を消さないといけなくなります。だから・・・お願い、マコ、ヒナ。この事は誰にも言わないで。お願い、お願いだから。」
「美琴!お前は一体?」
「ごめんね、マコ、ヒナ。もう会えない・・・あたし・・・ごめん・・・今日はありがとう・・・楽しかった・・・ごめんなさい・・・さよならっ!!」あたしはその場から逃げ出した。
「まっ、待てよ。美琴!」
「待って!ミコッタン!!」二人の声が後ろから聞こえるが足を止める事無く、あたしは二人から逃げた。
ーごめんね、マコヒナ。今までありがとう。二人の記憶を消すなんて事、あたしには出来ない。だから、あたしが消えるから。もう、会わないから忘れて・・・さようなら・・・あたしの大切な友達。-涙が止めど無く頬を伝う。あたしは走って何処行くあても無いのに、ただ走って走って、涙が枯れるまで走った。やがて涙も枯れ、走り疲れてとぼとぼと歩いていた。そして知らない町の公園のブランコに座り込んだ。
ーあたしはこれから一体どうすればいいんだろ。家に帰って虎牙兄に言ってしまえばきっと、二人の記憶を消すに決まっている。だけど、二人に苦痛を与えるのはもう嫌だ。もし二人の記憶を消したとしても、あたしはその事を覚えてるんだもの。どんな顔して二人と接していけるの?もう、もう嫌だ。嫌だよ。あたし・・・-また、涙が湧いてくる。
「美琴じゃないか。」突然声を掛けられ我に返るとそこには、
「白井・・・先生?」あたしは顔を上げて答える。
「こんな夜中に何をしてるんだ?」白井先生はさして不思議とは思っていないふりで訊いてくる。
「何も・・してません。」そう答えるのがやっとだった。
「嘘付け、そんな顔でこんな所に居れば何かあったに決まってるだろ。」そう言って隣のブランコに腰掛けながら、
「ほれ!」ポイッとカンココアを投げて寄こす。それを受け取って先生を見ると、ニカッと笑いながら、
「暖まるぞ、飲め。」そう一言だけ言って自分も蓋を開け飲みだした。
「あ、ありがとう。」あたしも一口飲んだ、暖かく甘い味が少しほっとさせてくれる。
「で?どうした、美琴。」そう訊いた白井先生は、たばこに火を点けて一息吸い、
「ふぅー。」と、煙を吐き出した。
「言いたくなければ言わなくてもいい。だがお前これからどうする気だ?」あたしの心を見透かした様に訊かれた。
「わかりません、どうすればいいかなんて、あたし。」
「・・・。美琴来るか?」白井先生はタバコをもみ消し、立ち上がりながらあたしを見つめて、
「お父様の所へ、狼牙様の所へ来るか?」そう言い放った先生の瞳は深い紅色に染まっていた。
「え?先生?どうして、狼牙お父さんの事を?」
「私だよ、美琴。覚えているだろ?」白井先生が束ねた髪を振り下ろしメガネを外す。そして右手を高く掲げると黒い霧に包まれ、其れが晴れると、
「!パクネ!?」露出度の高い魔導服を着たパクネが立っていた。
「美琴、アンタ居場所を失ったんだろ。顔見りゃわかるよ。私も昔そうだったからね。でもアンタには狼牙様が居るじゃない。遭ってみたくないの?お父様に?」パクネの目がすっと細くなる。
「あ、あたしは・・・」
「あたしは?何?」パクネが繰り返し問う。
「お父さんに聞きたい、私が何者で、どうすればいいか・・・知りたい。あたしのお母さんが誰なのかを。」あたしは一気に思っていた事を言った。
「そーか、美琴は自分が何者であることも知らなかったんだ。そりゃ知りたいよねえ。」
「知りたい!どうしても・・・知らなきゃいけないんです。」
「なら、付いて来るといい。会わせてあげるよ、狼牙様に。」
「・・・付いて行きます。だから逢わせてお父さんに!」あたしは必死にパクネに訴えかけた。
「ふふふ、良い娘ね。覚悟は出来ていて?この後は後悔しても、もう戻れはしないわよ。いい?」パクネの言葉に、
「はい!連れてって!覚悟は出来ています。だから・・・」パクネは右手を高く掲げ、闇の結界を開く。そしてあたしの手を握り、
「行くわよ!美琴!!」そう言うと闇の結界の中へジャンプした。
次回予告
第2章四天王ギガント
美琴に危機がせまる。
たった一人で闇の結界に来てしまった美琴。
四天王ギガントの罠が美琴を虎牙を苦しめる。
次回 四天王ギガントPart1邂逅