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時既にお寿司

作者: 沙頭九天

17時。

『今日の夜ご飯何がいいですか?』

妻からのLINEが来た。互いに齢50を過ぎ、『おじさん』と『おじいさん』の中間のような人間となったが、私の職種故に二人とも流行語(スラング)や機械系に困ることは無かった。職種というのは、インターネットを戦場とする警察、といったところだ。なぁに、その辺の会社員よりかは強いレベルはあるから、若い仲間たちの足を引っ張ったりはしないさ。

中年から高齢者へと扱いが変わってくるものの、特に苦痛や弊害というものはなく、むしろ減ってきていた。

LINEはインターネットを経由するのでセキュリティ上問題が無いわけではないが、しかし私はスマホを2つ所有していて、LINEを使っている方には特に機密情報の類いは入れないようにしているので、構わず使っている。楽だから。どちらのスマホもiphoneだ。androidとの違いはあまりわからない。使ったことがないという事と、androidは中でも多様な機種が見られて、iosと比べること自体が難しいからだ。

こだわりがある人には申し訳ないが、正直こんなことはどうでもいい。

『たーくんが好きなものでお願いします』

と返信した。

たーくん、とは孫の名前だ。5才の男の子で、元気な子だ。丁度私の家に遊びに来ていた。

『膝で構いませんか?』

『ピザです』

ピザピザピザピザピザピザ・・・。娘に10回言わされて、そのあと「ここは?」と(ヒザ)を指差して聞かれたのに対し、ピザと答えてしまったことがあった。あのときはまんまと引っ掛かってしまったが、妻が似た間違いをしたのは少し微笑ましかった。

もっとも、妻の入力ミスにそんなことを比べるというのは無理があるのかもしれないけれど。

『いいですよ』

と返信する。

そうか、娘と同じでピザが好きなのか。

『windows10更新のお知らせ』がパソコンの画面に表示される。

私は今日は、定時に、つまり18時に帰る。仕事はもう少しで終わるので、孫を驚かせるようなものも考えておこう、そう考えて私は指を動かして、先のウインドウを閉じる。

それは簡単に言えば報告書類、いくつかのサイトを調べて、ウイルス等の問題の有無をまとめる仕事だった。地方のサイバー科が行う仕事なので、大したことはできない。

結局、私は20分くらいで書類をまとめて提出したのだった。孫のことを考えていたとはいえ、手を抜くような真似はしていない。

「永瀬さん、今日はこのあとどうしますか?」

「一応定時まではいるつもりです。何か手伝うことがあれば言って下さい」

年下の上司に告げる。彼は若くてとてもしっかりしている優秀な人材だ。引退間際の私にまで気を使ってくれる。

「あのー、永瀬さん」

近くの席の女性だ。

「はい」

「きょうってお孫さんが家にいらっしゃるんですよね」

「えぇ。とても楽しみでして」

「もしかして、なにかサプライズしてあげようとか考えてます?」

むむ。女の勘、というやつか。

「バレましたか」

「やっぱり。永瀬さんてお孫さんの話するときとても楽しそうですし、そのお孫さんが来るとなったら」

「ウズウズしちゃったりしちゃいます?」

もう一人、向かいの机から現れた女性も話に加わる。

「ええ。仕事が済みましたし、空いた時間で色々と考えようと思っていたんです。丁度いい、孫はいま5才なのですが、このくらいの子供が喜びそうなものに心当たりはありますか?」

「5才なんですか?」

「へー、かわいいんですね」

「写真見ますか?」

「え、いいんですか?」

「見してください見してください!」

「あ、僕もいいですか?」

「私も見たいです!」

あっという間にみんなが群がってしまった。これでは私の携帯を廻して見せるしかなくなるが、あまりそういうことはしたくない。

「スクリーンに映しましょうか」

「あ、じゃあこっちに繋げてください」

上司も乗り気だ。別に不快ではないしむしろ内心嬉しい。

私の携帯を上司のパソコンに繋げて、部屋の中央の大きめのスクリーンに写真を映す。

「わぁかわいい!」

「いいですねー」

なにが良いのかはともかく。

ピコン!と、LINEの通知が出る。一旦パソコンから離して、通知を確認する。妻からだ。

『どうしましょう』

なにがだ。

『宅配ピザを頼んだのですが、たった今たーくんがお寿司を食べたいと言い出して』

「どうしたんですか?」

「実は、」

上司に聞かれて、今の状況を説明すると、みんな腹を抱えて笑いだした。

「サプライズの中身が決まりましたよ」

そう言いながら、妻にメッセージを送る。

まぁつまり、時既にお寿司だったという話なのである。

ちなみに、ピザが好きだったのは娘とその夫(こいつもいい人)で、孫はお寿司大好きだそうだ。

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