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MAD  作者: 白樺セツ
1/3

つかまえた

昔書いた話を編集した分です。R18ではありませんが、今後お話が続いていくにつれ物語上、人によっては差別的であると感じられる単語が出てきます。勝手ではありますが、自己責任で閲覧お願いします。

不思議の国のアリスの舞台を一応モチーフにしています。

落ちて行った。

ただただ落ちて行った。

風を切る音と、ばたばたと服が暴れる音がやかましかった。

だけど手を伸ばして抑え込もうにも、風の勢いがそれを許さなかった。

なにより手の中にあるものを手放さないようにすることに必死だった。

景色がどんどん変わっていく。

さっきまで自分がいた階のベランダは、もう遠くなっている。それぐらい速く落ちている。

不思議だ。どうしてか、すごくゆっくり落ちているような気がする。

欲しかったものが手に入ったからだろうか。今このときが永遠に感じた。ぞわぞわと背筋に走る悪寒がとてつもない快感に思えた。


ああ、これからきっと地面に叩きつけられて死んでしまう。そしたら、盛大に血が飛び散るだろう。関節がおかしな方向に曲がったりして、発見した人はトラウマになってしまうかもしれない。後片付けとか、身元確認とか、大変だろうな。記事になるだろうか。いや、なったとしてもそれは一時だけだ。どうせすぐ記憶は風化して、人はもっと面白いものを求めだす。ただ、見てしまった人の脳にはしっかり出来事が刻まれるだろうな。ああ、自分はなんて幸福な人間だろう。最期がこんなに恵まれた人間なんて、そうそういないんじゃないか。


地面に衝突した衝撃で手放さないよう、それをしっかりと抱いた。死んだとしても、体が灰になったとしても絶対に離さない。

体の内からどろりと溢れだす幸福感。


ああ、愛してる。愛しています。大好き。ずっとそばにいてあげます。死んでも放さない。死ぬほど愛してる。もうどこにもやらない。これからは、ずっと一緒。死ぬまで、死んだあとまで永遠に。


目を無理矢理開けて、空を見すえた。急速に世界が遠のいていく感触。

笑ってやった。ちゃんとそう見えたかは分からない。それでも満面の笑みを作ってやった。

あそこにある善人の仮面はもう割れてしまっている。じきに素顔も外にさらされる。そしてただただ怒りだけが、この彼女を抱く自分に降り注がれるのだろう。彼女が落ちたのはこの僕のせいだから。


――お前には渡さないよ。


相手に伝わったかは分からない。

だが、重要なのはこれが一体誰の所有物なのか。それをはっきりさせることだった。


――これは、わたしのものなんだ。


まもなくして大きな衝撃と暗闇が訪れた。

そしてまた、落ちて行った。


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