同窓会
いつまでも一緒です
誰かにそう言われた気がして目を開く。
意識をゆっくりと起こしながら周りを見渡してみると、そこに広がっているのはいつもと変わらない見慣れた自分の部屋。
高校を卒業して就職とともに家を出てそこから暮らしているのだ、見慣れたもくそもない。ここが今の自分のただ一つの居場所なのだから。
高校を卒業して何を考えるでもなく日々を過ごしてきた。気がつけばもう30だ。どこにでもいる勤め人。浮いた話も無ければ景気のいい話もない。THE、一般人!それがオレだ・・・、自慢する事でもないがね。
そんな事を考えてしまうのは今日入っている予定のせいなのだろうか?
今日はこの後、同窓会があるのだ。
実はオレは生まれ育った街から出てはいない。大きめの地方都市、といった感じのわが生まれ故郷。大体は皆ここで生まれてここで暮らしていく。仕事も贅沢を言わなければそこまで困らないし。
でもオレは卒業してから今まで、この街に残ったほとんどの同級生とはあまり接触せずに生きてきた・・・。
別に会ってしょうもない話をしたり遊んだりするのは何の問題もなくこなせる、のだが、自分から声をかける事はほとんどない。
今の自分をあまり見せたくなかったから。何も考えず緩やかに生きてきた結果、その行き着く先。それが自分なのだから。
そんな自分が何故同窓会に参加する事にしたのかはわからない。
ただの気まぐれかもしれないが出ると返事をしてしまった以上今さら考えても仕方がない。
随分遅くまで寝てしまっていたが少し先まで迫っている開始の時間へ向けて準備をするために体を動かす事にした。
「いよお~久しぶり!!」
店に入るなりそう言って声をかけられた。声のした方を見てみると人の固まりのなかに見知った顔をいくつか見つけた。
「お~、久しぶり。生きてたか?」そう言って自分からも声をかける。
声をかけてきたのは村田というヤツだ。学生の時は結構つるんでた間柄でなかなかにいいヤツオーラを醸し出していたナイスガイ。
今のほんの少しの掛け合いでだが、当時と変わらずオーラが漏れ出ている感じがして少し嬉しくなる。
「もう大体集まってるからさ、早く来いよ!」
そう言われて軽く返事をしつつその後に付いていく。
案内された場所へ行くとすでに大体集まっていた様で、中の席はほぼ埋まっていた。少し周りを見渡して空いてる席にめぼしをつけて確認してから座り込む。
と、その時
「きゃあ~久しぶり~~!!」
と、新たに入ってきた誰かが大きな歓声とともに出迎えられた。
一瞬にしてその場の空気が変わったのがわかる程の人物。そんなのはわが学年には一人しか心当たりがない。
天乃ひなた
その容姿と名前通りの暖かな心で現役時代の我が校のみならず、その外にまで名が知れていた女性。一度だけ人気アイドルとやらをみかけた事があるが、彼女と比べてもその存在感も容姿、スタイルにいたるまで彼女が圧倒的に勝っている点は多々あれど劣っている部分が検討もつかなかった程である。
今でも見た目は完全な10代の少女と言われても、万人が納得するだろう。それほど若々しく当時とも変わりが感じられない。
そんな彼女も、今や二児の母。風の噂によると影にひなたにと家庭を支える良き母であるようだ。
今にして思えば彼女見たさに、いや、彼女を見たいがためだけにこの同窓会に参加したのかもしれない・・・。
馬鹿な話だ。彼女も今は人の妻であり人の親。しかも彼女の性格を考えるなら不貞などあり得ない!ならどうして?
自分は何を期待してここに来たんだ?
期待?何かを期待してたのか?だがそうでもなければ今まで忍者の様に生活をしてきた自分が、同窓会に参加するなど考えられない。
一体何を・・・
皆の近況報告や日々の愚痴を薄い意識の向こうにとどめつつ、ぼんやりとそんな事に思考を巡らせる。
「ひなたってばあの頃よりキレイになった?そう思わない?」
急に声をかけられて慌てて意識をそちらに向ける。
声の主はオレと目が合うなりにこやかに続ける。
「いや~ホント久しぶりだね?!元気してた?
この街に住んでるのは聞いてたけど、誰に聞いてもなかなか出てこないって言うからさ~。どんなもんかと心配してたんだよ!?
ねえ、聞いてる?」
「聞いてる、聞いてるよ!」
そう声の主、海乃に返す。当時からヤカマシイヤツだったがこいつもそう変わらないようだ。
だがこの海乃、天乃と比べる(比べる相手が悪い気もするが)と若干見劣りするもののかなり良いものを持っている。
当時から幾人かに想いを伝えられる事があったようだが結局誰とも一緒になる事なく卒業したはずだ。当時はこいつのあけすけで来るもの拒まない大きな性格からして、誰とも付き合わない事を少し不思議に思っていた。
そんな事を思いだしながら海乃との久し振りの会話を続ける。
しょうもない近況報告からちょっとした小ネタ、家庭の話。
「いや~でも、ホント良かったよ!卒業してから全然出てこなくてさ?
皆も心配してたけど連絡もほとんどとれないしさ~。噂ではちゃんと仕事して生きてるって聞いてたから突撃しなかったけど、引きこもってたらマジ突ってたよ!!」
マジ突って何だよ!と思いながら返事を返す。本当に変わらないようだ、と思わず苦笑する。
「何よ~?いきなり笑うなんて失礼ね。」
そう言いながらも彼女も笑っている。
「いやさ、懐かしいと言うか変わらないなと、思ってさ。
変わらないな、ホントに。
見た目も当時と変わらないし、売れ残りの悲しいオッサンを引き取ってもらえばよかったよ。」
そう言いながら肩をすくめる。オレとしては軽い冗談のつもりだったんだが、彼女の顔が一瞬曇った気がしたのは少し灯りが薄い部屋の雰囲気のせいだろうか?
事実彼女は先ほどと同じ調子で話を続ける。