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議案10:「美少年の秘密に迫って良いのは、美少年だけだよ」


 カレル・タカギ。

 私立東央学園音楽科3年所属、志望は音大、オーボエ奏者、神の高音を持つ少年。

 クラシック系音楽雑誌などで紹介されることもしばしば、コンクール入賞経験あり。

 温厚篤実にして博学多才、勉強もスポーツも出来、学園の少女達が一度は憧れると噂されている。



 カレル・タカギ。

 日本人の父とオランダ人の母の間に生まれたハーフであり、日本人離れした容姿を持つ。

 金色の髪に黒い瞳、スラッとした高い身長に透けるように白い肌、東洋系では出せない儚げな美しさを持つ少年。

 モデル系雑誌に取り上げられることもあり、その知名度は地域規模である。



 カレル・タカギ。

 私立東央学園、5000人の生徒を束ねる風紀委員会の副委員長。

 表に出ることの無い裏方だが、風紀委員会になくてはならない人材の少年。

 風紀委員長である赤城漣を支える有能な副会長、風紀委員会の8割は彼の頑張りでもっている。



 カレル・タカギ。

 完璧超人と目される彼だが、しかし彼のことを良く知る人間は実はいない。

 友人がいないわけでは無いが、彼は驚くほどに私生活を他人の目に見せない。

 ミステリアスにして秘密の多い少年、それが彼なのである。



 はたして、カレル・タカギと言う少年は、学校の外では何をしているのか?

 と言うか、笑顔の下で何を考えているのか?

 常に完璧な彼だが、家では実はグータラしているのではないのか?

 これは、秘密のヴェールに覆われたカレル少年の真実に迫る、そんな物語である。



  ◆  ◆  ◆



「と言うわけで、今日はカレル君を尾行しよう」

「レン先輩、これユウ先輩の時と同じパターンですよ」



 いつもの放課後、しかしオボロとレンは風紀委員の執務室にいなかった。

 風紀委員会と言えど諸般の事情で会議の無い日もある――『校則』により、各委員会・クラブなどは週1回の休日が義務付けられている――そしてその日、彼らは通学路にいた。

 しかし、明らかに様子がおかしい。



 どの点がおかしいかと言うと、電柱に陰に隠れていると言う点が。

 しゃがみ込むレンの後ろにオボロが立ち、そして言うまでもないことだが、2人の後ろでは塀に寄りかかる形で少女が1人寝ていた。

 もはやどうやってついて来ているのかわからないが、ユウである。



「大丈夫だオボロ君、同じ過ちを繰り返さないのが私だ。キミも良く知っているだろう?」

「……いや、ちょっと何言ってるかわかんないですね……」

「そうか、IQが低いんだな」

「…………」



 一瞬、目の前の頭を本気で叩いてやろうかと思ったオボロは悪くない。



「おっと、カレル君が出てきたぞオボロ君。さぁ早速後を尾けようじゃないか」

「いや、確かにユウ先輩と同じくらいカレル先輩のことも変、もとい不思議な人だとは言いましたけど」



 最近のレンの中では尾行がブームなのだろうか、もしそうなのだとすれば、オボロの責任は大である。

 そしてユウに続き、やはり謎が多いカレルがその対象となっている。

 当のカレルはと言えば、今は学園最寄りの駅から3駅行った所にあるコンビニから出てきた所だった。



 そしてオボロが思うに、カレルもまたユウに負けず劣らず謎が多い人間だった。

 ユウよりも1年長く学園に在籍しているはずなのだが、ユウ以上に個人情報が少ない。

 と言うか、プライベートがさっぱりわからない。

 何をどうやればあんな完璧超人になれるのか、気になると言えば気になるのだった。



「オボロ君、そこのコンビニであんぱんと牛乳を買ってきてくれないか」

「は? どうしてですか?」

「いや、ユウの時には忘れたのだがね、やはり尾行には牛乳とあんぱんだろう」

「……先輩、刑事ドラマにハマってるんですね」

「うむ、刑事は撃たれてナンボだね」



 それは違う、ととりあえず心の中でツッコミを入れて、オボロは少し離れた位置を歩くカレルの背中を見た。

 まぁ、すでに一度やったことを二度やった所でそう変わらないだろう。

 と言うか、カレルも一緒にユウを尾行していたことにふと思い至って。

 オボロは、カレルの尾行にそのまま参加することにした。



  ◆  ◆  ◆



 カレルを尾行、もとい観察する上で助かるのは、彼がユウと違って動いていると言うことだった。

 いや、そもそもはそれが普通でユウがおかしいのであるが、まぁそれはともかく。

 放課後、カレルが向かったのは意外な場所だった。



「むむ、オボロ君。カレル君がどこかのプレハブ小屋に入っていくよ、もしやあれがカレル君のセーブハウスなのだろうか、もぐもぐ」

「レン先輩、あれは新聞屋さんですよ。そしてあんぱん食べながら喋らないでください、最近のレン先輩はキャラが崩壊しすぎです」

「そのままの私を見て欲しくて」



 レンの言葉に、オボロは照れなかった。



「……ふふ、キミは本当に可愛いね」



 照れていない、いないったらいない。

 それはそれとして、カレルはどうして新聞屋などに入っていったのだろうか。

 その疑問は、10分後に氷解することになった。



「「おお!」」

「……すやすや……」



 新聞屋の中から出てきたカレルに、2人は驚き1人は寝た。

 と言うより、カレルの姿が見えなかった。

 何故ならカレルは山ほどの新聞の束を抱えていたためで、彼はプレハブ小屋の横に並んでいた自転車の中から一台を選び、器用に積んでいった。

 何をするかなど、一目瞭然であった。



「カレル先輩、新聞配達のバイトしてたんですか……!」

「何だと!?」



 オボロの指摘にレンが驚愕する、彼女は牛乳のパックを握り締めながら言った。



「新聞と言うのはメイドが持ってくるものではなく、ああして配達されるものだったのかね?」

「レン先輩、頭の悪いこと言ってないで追いかけましょう!」

「オボロ君こそ、私の扱いがだんだんと酷くなっていないかね?」



 若干の憤慨を見せるレンをよそに、オボロ達は自転車で颯爽と去っていくカレルを追いかけることにした。

 どこから現れたのかはわからないが、何故か物陰で待機していたレンの家の車に乗り込んで。

 リムジンは目立つ気がするが、背に腹は代えられない。



 車で追いかけるのは難しいかと思われたが、カレルが驚異的なスピードで自転車を漕いでいるので問題は無かった。

 というか、住宅街に入ってから家々のポストに投げ入れられる新聞が見えない。

 自転車を止めることもなく高速で新聞を投げるその姿は、いつもの書類捌きを彷彿とさせた。



「……外でも働きまくってますね」

「そうだな……む、危ない!」



 十字路で信号待ちをしている時、対向車線から一台のトラックが信号を無視して飛び込んで来た。

 運悪く、そこに小学生らしき女の子が飛び出して――――!

 そこへ、一台の自転車が颯爽と現れた。

 金髪の青年が駆るその自転車は、積み上げた新聞を一つも崩すこともなく、それでいて60度ほども傾いて走り抜けた。



 トラックがレン達の乗る車の隣を走り抜ける、しかしそこで惨劇は起こらなかった。

 何故ならば、新聞屋のお兄さんと化したカレルが女の子を救い出したからだ。

 後からやってきた母親らしき女性に泣き喚く女の子を渡して、にこやかに微笑んでいる様子が見える。



「無意味にカッコ良すぎるだろう」



 あんまりと言えばあんまりなレンの感想に、しかしオボロも反論はしなかった。

 なお、信号無視のトラックの運転手はその日の内に御用となったらしい。

 何でも、通報者は新聞屋の少年だったとか何とか……。



  ◆  ◆  ◆



 新聞屋でのバイト(と思われる)が終わった後も、カレルが家に帰ることは無かった。

 というより、家に帰る前に寄る所が多すぎるだろうと思った。

 今年の『校則』ではアルバイトは禁止されていないので、グレーゾーンではあるが『校則』違反ということは無いのだが……。



 その店は、鼻にツンと来るスパイシーな香りが充満していた。

 と言ってカレーのようにピリピリと来るような香りではなく、同時に甘やかさやまったりとした香りも同居しているような、そんな香りだ。

 木製のテーブルと椅子が並べられたその店内の壁には、大きく緑白赤の旗がかけられていた。



「タカギ君、追加おねがーいっ!」

「お任せください」



 チーフスタッフの女性店員の声に応じるように、それまで10枚のピザ生地を同時に作るという人間業では無い所業を行っていたカレルが、さらに2枚を追加するという神業に打って出た。

 後輩らしき女子店員が黄色い声を上げる中、その様子は何となく客席の方にまで伝わっていた。

 まぁ、ある意味ではいつも通りの光景ではあっただろう。



 そう、ここはピザ屋なのである。

 全国チェーンのピザ屋であり、ある意味でポピュラーということも出来る。

 どこにでもある、普通のイタリアンピザ屋である。



「このピザ美味しいね、オボロ君」

「何で普通に注文してるんですか、バレますよ?」

「大丈夫さ、カレル君はカウンターにも出てこないようだからね」



 生ハムとトマトのピザを1ピース、美味しそうにフォークで突いて食べているレン。

 オボロからすると非常に邪道なピザの食べ方であるのだが、手づかみでものを食べる習慣が無いらしいので仕方が無い。

 ……じゃあ、さっきのあんぱんは何だったのだと言うツッコミはこの際、無しの方向にするオボロだった。



 もちろん、ユウもいる。

 小皿に分けて置かれたピザはいつの間にか消えていた、もはや都合のいい時に起きているのではないのかとオボロは思うわけだが、ユウのターンは終わったのであえて気にしないことにした。

 というか、気にしていたら精神が保たない。



(にしても、新聞屋に続いてピザ屋でバイトか……もしかして、いくつもかけもちしてるのかな)



 ピザを普通に手づかみで食べながら、オボロはカレルがいるだろう厨房の方へと視線を向けた。

 そこからは、相変わらず働き者らしいカレルに関する声が漏れ聞こえてくる。

 そんな声を聞きながら、オボロは普段から超人的に働いているカレルの人の良さそうな笑顔を思い浮かべていた。



  ◆  ◆  ◆



 カレルの労働は、その後も夜通し続いた。

 むしろいつ寝ているのかと言いたくなるくらいであるが、朝の3時に再び新聞屋に戻って配達を始めた段階でいろいろ限界が来た。

 と言うか、この風紀委員会には寝すぎている娘か寝なさ過ぎる少年しかいないのだろうか。



「レン先輩、起きてください。カレル先輩が帰ってきましたよ」

「……んぅ……はっ、な、何だねオボロ君。どうしてキミが私の寝室に……夜這いかね!?」

「寝ぼけたこと言ってないでとっとと起きてください」



 眠気に負けて車の中で寝こけて――ユウについてはもはや期待していない――いたレンの肩を揺らすオボロ、しかし彼自身も随分と眠そうである。

 無理も無い、時刻はすでに朝5時を過ぎ、空が白み始めているのだから。

 そう言うわけで、オボロにも実は余裕が無かったりする。



 と言うより、これはどういうことなのだろうか。

 ピザ屋の後もカレルはアルバイトを続けている、他の曜日については良くわからないが、アルバイトの合間に別のアルバイトを入れていることは明白だった。

 明らかに、小遣い稼ぎのためにやっているとは思えない。



「……オボロ君、寒いからキミの上着を貸し給え」

「まさかその台詞を女子から直接言われるとは思いませんでしたよ」



 とは言え早朝の肌寒さはその通りなので、ブレザーの上着をレンに貸すオボロ。

 お嬢様なのだから、てっきりメイドが何か用意してくれるのかと思ったが、どうやらそうでも無いらしい。

 上着を羽織る際、レンが少しだけ嬉しそうに微笑んだのは、きっと気のせいだろう。



「それにしても、今度はどこに行くのかな」

「さぁ、まさか始発に乗って学園に戻るわけでもあるまいが……」



 駅に戻って電車に乗り、3駅戻る。

 それは学園の最寄り駅だった。



「学園に戻ってきてしまったよ、オボロ君!」

「今までの尾行は何だったんでしょうね……」



 一気に疲労感が増すオボロだが、だがカレルはどうするのだろうか。

 まさかそのまま学園に登校するわけでもあるまい、と思っていると、学園の手前で路地を曲がった。

 仮に学園を一丁目とするなら、そこは二丁目とでも表現すべき地区だった。

 それほど大きくは無いが、簡素な住宅街がそこに存在している。

 そしてどうやら、カレルはその中の一つに向かっている様子だった。



「おお……朝になり、ついにセーブハウスに戻るのかね!」

「言っておきますけどレン先輩、庶民の家はこれが通常サイズですからね」



 そう言いつつ、どうやらカレルはついに帰宅するようだった。

 すでに朝の6時ではあるが、とにかく帰宅するらしい。

 というか、こんなに学園の近所が家だったとは、それすらも良く知らなかった。



 やがて、カレルは一軒の家の前で足を止めた。

 小さく古く、屋根や壁が傷んでいる様子が見て取れるが、それでも家庭が一つ収まる程度の広さはある家だった。

 レン程では無いが、オボロの家と比べられる程には。



「つ、ついに、ついにカレル君の私生活が明らかに……!」

「言ってることとやってることは最悪ですけど、この際は良いです」



 もはや意地だけでついてきている2人、とユウ、だった

 しかし、そこで最後に予想外のことが起こった。

 それはカレルが家の玄関の扉を開けた時に起こった、扉が開くと同時に小さな子供が飛び出してきたからだ。

 それはどこかカレルに良く似た、金髪の幼稚園ぐらいの女の子だった。



「カレルにーちゃっ、おかえり!」



 甲高い声がレンとオボロの耳にまで届く、カレルの膝に抱きついた女の子。

 これは予想外であって、オボロはおろかレンも一瞬ぼけっとしてしまった。



「うん? あれはもしや……カレル君の妹さん、かね?」

「た、たぶん。カレル先輩って妹がいた……」



 んですね、と続く直前、事態はさらに進行した。

 具体的には、女の子に続いて、金髪だったり黒髪だったりはするが、基本的には顔立ちがカレルに似ている小さな子供達がわらわらと出てきたのだ

 数は、ざっと10人ほどだろうか。



「にーちゃん、おかえりー」「にいちゃん、おなかすいたー」「にーちゃん、おといれー」



 などと甲高い音がご近所に響き渡る、なかなかの騒がしさと言うべきだろうか。

 そんな子供達を、カレルはいつもよりやや優しい笑みを浮かべて嗜めて……。



「「な……何いいいいいいいいいいいいいぃぃぃっっ!?」」



 ……子供達の声よりはるかに大きな声が、ご近所に響き渡るのだった。



  ◆  ◆  ◆



「いや、驚きましたよ。まさか僕が尾行の対象になるとは、いやはや、まるで気が付きませんでしたね」



 翌日……というより、その日の内の風紀委員会で、カレルはそんな風に言った。

 気のせいでなければ照れているようにも見える、私生活を覗かれたのが恥ずかしいのだろうか。

 これまでレンやユウなどの私生活に介入した彼だ、今さらプライベートに触れられたからと言って文句を言うつもりも無い。



 とは言え恥ずかしいのは本当らしく、書類の処理速度が常よりも30%ほど早かった。

 とは言えそれ自体はいつもと同じなので、驚くには値しないのかもしれない。

 むしろ、照れながら手を早める彼にこそ驚愕すべきなのだろう。



「うちは大家族でしてね、僕の下は三つ子や四つ子などが多くて、父の仕事が上手くいっていない時などはアルバイトが忙しくなるのですよ。あ、僕の父は個人投資家でしてね。普段は上手く運用しているのですが、半年に一度くらい大失敗して帰ってくるのですよ。一度など4トンの小豆と一緒に帰ってきましてね、しばらくお汁粉だけで過ごしました、困ったものです」



 だからかはわからないが、今日のカレルは随分と饒舌だった。

 ちなみに睡眠はアルバイトの休憩時間などでとっていたらしい、それでもユウに比べれば少ない時間であることは間違いが無いのだが。



「まぁ、何と言うか今は貧乏学生と申しますか、忙しい時期でしてね。いやお恥ずかしい、でも、僕としては今の生活も気に入っているのですよ、アルバイト先の方々も良い方が多いですしね」



 しかし、カレルは書類の壁の向こうが見えないので気付いていなかった。

 3割増しの書類処理速度もここではほぼ役に立たない、書類の柱は決済と同時に再び積み上がるからだ。

 だから、カレルは気づかなかった。



「……う、むぅ……」

「か~……」

「……すやすや……」



 カレル以外の3人、つまりレン、オボロ、ユウが、全員机に突っ伏しソファに寝転び、寝ていたと言う事実に。

 徹夜は効いたらしく、いやユウは通常運転だが、とにかくダウンしていた。

 書類の壁が無ければ、カレルにも見えただろうに。



 そう言うわけで、実はレン達は結局、オボロのプライベートの詳細を聞くことが出来なかった。

 つまりノーゲームというわけであって、せっかくのカレルの説明も無意味だった。

 ……カレルにしては、なかなかのミスであったと言えよう。




 最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。

 というわけで、節目の10話です。

 そろそろ終わり方を考え始める頃ですね、20は行かないと思いますけど、15くらいかなぁ……。

 それでは、次回も頑張ります。


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