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明治蒸気幻想パンク・ノスタルヂア  作者: 留龍隆
五幕 虐殺遊戯

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53/97

53:心配という名の談義。

 いつだって唐突に問題は訪れる。


 平穏な――そこそこに争いがあり、けれど激しく傷つくことはない程度に『平穏な』生活の中に、それは突然現れた。弥生の月に入る直前、アンテイクに呼び出しがかかった。


「今度は青水から、だそうだ」


「青水から」


「呼び出しであるよ」


 書簡を手にした八千草は、腰まで伸びる豊かな黒髪を手で払い、静かにアンテイク客間のソファに座りこんだ。ビロウドのような質感の、触れれば指先がどこまでも沈みそうなドレスを身にまとっており、薄暗い室内に溶け込むようである。腰のあたりですぼまり、くびれを作った上でスカート部が膨らんだドレスは、彼女のシルエットを不思議に、けれど可憐に際立たせている。


 青く水底の照り返しを思わせる瞳は、しとどに濡れたまつげ持つまぶたに輪郭を与えられ、切りだされ磨かれた宝玉のごとき存在感を思わせる。その目は横顔に下がるパイプからのぼる煙を見て、どうしたものか思案に暮れている様子だった。


「今回はどのような用件ですか」


「前回の赤火からの呼び出しとよく似ているね。用件はこちらへ来てもらってから話す、書面で伝える物事ではない、との旨のみが書かれているよ。四権候の一角・瀬川進之亟じきじきのお呼びだから当然だろうけれど」


「四権候じきじき、ということは呼び出されているのはやはり」


「湊波さんであるね。しかし、ああ、どうしたものかな」


 ちらりと、客間の入口に突っ立っている井澄の肩越しに、店内へ目をやる。今日は仕事に駆り出されていない小雪路が、一応は売り物である椅子に尻を載せて船をこいでいる。先ほどまでは先日平賀電機から手に入れた幻灯機を弄っていたが、遣い方がわからず飽きたらしい。


 店内に、ほかにはだれもいない。靖周は一人で御守りの仕事に出ており、山井は怪我人が出たという六区のほうへ医者として向かった。


 湊波は、不在である。


「先日までは連絡とれていましたよね」


「ああ。でもすでに連絡は途絶しているよ。赤火からの販路拡大についての打診があってからは、しばらく方々で専門家と打ち合わせをしていたけれど。それが粗方片付いたら途端にどろんさ」


「今度はどこへ消えたのやら」


「本土、ではないと思うけど。さすがに本土へ行くのならぼくらにも一言いっていくだろうし……そういえば大婆さんが、以前妙なことを言っていたよ」


「大路さんが」


「うん。湊波さんについてなのだけど。『奴はこの十二年、島から出たことは一度もないよ』なんてさ」


 ちょっとだけ声色を変えて歳老いた風に演じながら、八千草は言った。井澄はあごに手を当て、壁に背をもたせかけながら応じた。


「四権候ともなれば立場もありますし、有り得ない話ではないと思いますが」


「まあね。ただその話を聞いたのは、ついこの間。大婆さんが亡くなる寸前でね。そのときにはすでにほら、湊波さんは本土に行っていたはずだろう」


「そういやそうですね。そして仮にも情報屋を営む大路さんがそれを知らないというのは少々考えにくいかと、八千草はお考えなわけですか」


「大婆さんは、いやに確信をもった風に言っていたものだから。少し気になった……とはいえこの話からあの人の所在を割り出すことなんて、できやしないのだけれど」


「付き合いの長い山井でさえ、仕立屋のことはつかみきれていない様子ですからね。我々では予測さえ立てられませんよ」


「神出鬼没であるからね。噂をすれば影、なんてことになってくれればいいのに」


 ここで八千草は言葉を切ると、少しの間あたりを見回した。


 先日湊波が四つ葉へ帰還したとき、アンテイクの面々が集まるこの客間に彼は突如として現れた。あのときのように忽然と姿を現すのではないか、と期待と不安入り混じる気持ちで井澄も近くに気を配ったが、彼は現れなかった。


「どうやらいないようですね」


「でもこの場のようなだれも知るはずのない場の会話も、いつのまにやら知っているのがあの人の常だからねぇ」


「どういう術を遣ってる人間なのでしょうね……そもそも人間なのでしょうかね」


「やめなさい、薄気味悪いこと言うのは。たしかにいろいろ疑わしい人だけれども」


「外見も判然としませんし」


「言動もうさんくさくて鬱陶しいこと多々あるね」


 悪口でこそないものの、遠慮のない言葉で井澄と八千草は湊波を評しあった。背後の店内で、規則的に船をこぐ小雪路がうつらうつらしていた。


「して、青水からの呼び出しはいつなのですか?」


「ちょうど七日後であるよ。弥生の月に入ってすぐさ」


「それまでに仕立屋は捕まりますかね」


「むう、難しいかな……その場合は再び、ぼくが代理で行くとするかい」


「私もお供いたしましょう、八千草のためならば」


「そ、そうか」


 片肘ついて頬杖なして表情を隠しながら、八千草は顔を背けた。ひかれたか、と残念に思いながらも、いつものことだなと井澄は己を慰めた。


「と、ところで。あーなんだ、最近なんだか小雪路が、落ち込んでいると思わないかい」


「え、小雪路が」


 露骨な話題の逸らし方であったが、井澄はとりあえずのっておいた。八千草はうんうんと強くわざとらしくうなずき、船をこいでいる彼女を指す。よく見ると小雪路は眉間にしわが寄っており、どこか苦しそうな面持ちではあった。へんな夢でもみているのだろうか。


「いや、別段普段はなにも感じませんでしたが」


 あなたを見つめる時間を奴に費やす愚行などおかしませんので、とは言わずに締める。八千草は物言いたげに首をかしげていたが、やがてそうかとうなって目線をロウテエブルへ戻す。


「幻影列車で食事をとった日からなのだけれど。そういえばあの日、風呂場でもなにか思い詰めた顔を一瞬見たっけな」


「一緒に湯につかったのですか」


「奴は血まみれだったがね。共に湯に……ちょっと、へんなこと考えてはいないだろうね」


「とんでもない。私は靖周とはちがいます」


「気づいてる? お前、さっきから視線がどんどん下がっていってるよ」


「腰が細いなぁと思っていただけですが」


「……これから腰が太く見えるくらい厚着しようかな」


「おやめください、今度は私の腰が細くなります」


「どういう法則だいそれは」


 オカズが減るということだ。


 まあそれはともかくとして。


「小雪路、あの食事のときは元気でしたよね」


「ふむ、だからそこからこう、徐々に力をなくしていったと見えるのだよ。なにか原因を知らないかと思ったのだけれど、そうか知らないか」


「はあ。そうは言われましても、そもそも私には奴が落ち込むという様子があまり思いつかないといいますか……」


「あいつも人間だ、落ち込む日だってあるさ。それに十六という年齢は、この島ではあまりに幼く落ち着かないものだろう。ぼくもおそらく人のこと言える年齢ではないけれど」


「十五過ぎれば幼いとは言いづらいかもわかりませんがね」


 肩をすくめた井澄に、八千草は苦笑とも失笑ともつかない顔をした。



        #



 青水を仕切る瀬川一家の所在地は、四層二区の中にある。本土で侠客を生業としていた男・瀬川進之亟せがわしんのじょうを中心とした彼らは、賭場の運営のほか仕事の場を斡旋し、その店の護衛として名を貸すことでお代――俗に言うショバ代を稼いでいる。いや、稼ぐというよりは巻き上げるというのが正しいか。


 支払いが滞ったり、賭場にてイカサマを行ったりした者に、彼らは容赦しない。圧倒的なまでにわかりやすい暴力こそが、彼らの街の治め方だ。恐怖は恐怖を呼び、人は逆らった場合の己の未来を危惧して従順に金を払うのだ。


 ただしその暴力も、ある規則のもとに振るわれる。当然の話だ、誰彼かまわず噛みつくというのでは、周りは恐怖と共に疎んじる。その反感はやがて人々の中に積もり積もって、初代危神が小雪路を以て排除されたように、一気に噴出する恐れがある。


 だから彼らは厳格な掟を遵守する。


 名と体面のためにのみ動き、それ以外で不必要に脅しをかけることはしない、と。


「……でもぼくら、とくになにかまずいことをした覚えはないのだけどね」


「なにがきっかけで呼ばれとるかわからんね」


 いつも通りの露出過多な和装の上にウエストコウトを着た小雪路が、身を震わせながら八千草に答える。色の薄い髪はひとつに束ねられ風に伸び、彼女は横顔になにも考えていなさそうな笑みを浮かべて列車を待つ。


 瀬川一家への往路、並ぶアンテイクの面々は四人。山井を店番に置いて、所在不明の湊波を除いた四人が向かうこととなっていた。


「八千草よぉ、本当に心当たりはなんもねぇのか」


 自分よりわずかばかり背の高い妹の脇に控えて、厚手の羽織をまとった靖周があくびをかます。狐の襟巻で首を守り、普段はひとつに短くまとめている髪を流している。その色合いからさほど風になびかぬ獣の毛じみた質感まで含めて、小雪路と良く似ていた。


「ない、つもりだけれど」


「本人が気のつかないところで相手にとって不快なことしてるってのは、よくある話だぜ」


「そうですね。私このごろはあなたを見るだけで不快なのですが、まだ気づいてくれていないようですし」


「お前俺にそんな目向けてたのかよ?」


「先日の風呂場での一件、忘れたとは言わせませんよ」


「踊場の野郎追いかけるの手伝ってやったろ、あれでチャラだろ」


「そもそもあなたがのぞきなどしていなければあの困った記事も生まれなかったんですよ」


「ん、なんだいこまった記事って?」


「なんでも」「ねぇよ」


 八千草が微妙に興味を抱いたようだったので、追及をやめる。まかりまちがってまたいつぞやのように男色だと間違われたらたまらない。


「しかし真面目な話、とくに心当たりがねぇってんなら……やっぱ先日のアレだろ、赤火の船」


「あの場にぼくらがいたことが伝わって、というわけかい?」


「赤火と青水はもともと仲が悪いんだからな。パアティとやらに出席するまではよかったんだろうが、襲撃への応戦に際して緑風と赤火が結託してる疑惑なんぞが生まれたのかもしれねぇ。だったら釘をさしておこうってな」


「私たちはともかくも、呼び出し通り仕立屋が来ていたなら、脅しもなにもぬかに釘だと思いますけどね」


「たしかにぬかだよなあいつ。だってにおうもんな」


「戸浪んそんなにおっとるかな?」


「きなくせーし胡散くせーだろ」


 靖周が小雪路にくだらない返しをしていると、鋼鉄の黒き獣がうなりをあげて走り寄り、巨体をホームに納めた。風がまいて八千草がスカートの裾を押さえ、小雪路はなされるがままに着物とコウトの裾をはためかす。


 一見、小雪路はどこも落ち込んでいるようには見えない。常と同じようにしか映らない。もっとも、井澄は八千草以外にそれほど注意を払って生活していないので、そのように見えるだけかもしれないが。


 さて、いつも通りお代の安い五両目のコンパアトメントに乗り込み、四人は腰を落ち着ける。一両目二両目は運転室と近いこともあり、列車強盗などに遭わぬよう強力な護衛を置いて乗客・運転手の安全を確保しているため料金が割り増しなのである。内装も絢爛豪華に設えてあるとの噂で室内音楽の演奏、食事の提供などなどご奉仕ゆきとどいた車両らしいのだが、残念ながら井澄はいまだ見たことも乗ったこともない。


「今日はだれかと乗り合わせたりしませんかね」


「さあて。逃亡中の詩神とでも乗り合わせたらおそろしいね」


「乗り合わせ! 手合わせ死合わせ!」


「やめろっての妹。防衛以上の戦闘は」


「……はぁい」


 靖周に言われて仏頂面で彼女は外を向く。想像上の相手にさえこれほど血を沸き立たせるのだ、実際に襲われでもしたら歓喜するのだろうなと井澄は思う。


「奴もいまごろどこを逃げているのでしょう」


「なんだかんだでこの島に住んで長く、しかもろくに赤火の依頼も受けずに詩作に耽って散歩ばかりしていたと聞き及ぶからね。熟知した道の知識で逃れているのではないかな、坑道なんかもよく出入りしていたそうだし」


「逃げるっていやぁ、お前らがライト商会でやりあったっつー冥探偵? とかいうのもまだ逃亡中らしいな。出航する船に紛れ込むのは難しいだろうし、まだどっかに潜伏してんだろ」


「逃れたと言っても三つ子二組のうち、どちらも一人ずつしか生き残っていませんがね。剣士と銃士の二人です」


「連中こそ島の人間でもないのに、よく逃げ回れているものだよ」


 八千草がパイプを片手に取り出し、ぼやく。井澄もならって紙巻煙草を取り出し、燐寸を懐から出す。仕込みの伊達煙管をくわえる靖周は、鼻をひくつかせて眉根を上げた。


「そこはそれこそ、だれかから指示を得ているのかもしれません」


「だれか、とはだれだい」


「お忘れですか、奴が指示を得た電信ですよ。焼けて途切れていましたが、紙片が残ったではありませんか。そして四つ葉の電信は本土とは不通で島内でしか使えませんから……伝令を送った者が、たしかにあのとき四つ葉にいたのです」


「ああ、そうか。たしかアルフアベトのO一文字を示して途切れていたのだっけ」


「ええ」


「大文字ってことは続く文字があったんじゃねぇのか」


「頭文字ということですか。しかし一体なんの」


「ふうむ、黄土と青水もOからはじまるけれど」


「証拠になりかねないものにそこまで露骨な表記をしますか?」


「ま、当て推量ばっかじゃどうにもならんだろ。適当なとこで悩むのはよしといたほうがいいぜ」


 靖周が気の無い返事をしてくれる中、ごおごん、ともったりした軋みをレエルに響かせて列車は動きだす。小雪路があくびをかまし、井澄と八千草は煙を口に含んだ。少しずつ速度に乗る列車は、細かな震動を伝えながら、蒸気を吹いて線路を行く。薄く窓をあけて煙を吐き出しながら、八千草は静かに窓辺に頬杖ついていた。


「そういえば、青水に関わるのは久方ぶりであるね」


「まあ基本的に彼らはやること成すことに変化がありませんし、他の派閥とは没交渉でも支障ありませんから。それこそシマを守って時々領土を拡大しようとしていれば、それで日々の仕事が済むのでしょう」


「島の中でシマってのも変なのん」


「まったくだ。だいたい奴らの日々の仕事、ねぇ。それ、恫喝と強請たかりのことであろうよ」


「内部の浄化も仕事じゃないですか? 彼ら侠客は苛烈で、身内の恥さらしは即時極刑ですからね。介錯の理由を極道不覚悟とかに求めそうですよ」


「シをゴクに変えるだけでエラい印象変わってんな」


「至極当然でしょう」


「え、なにをしごくん?」


「お前が言うと途端に兇暴な言葉に聞こえますね」


「やめろ小雪路みっともないからちょっとその腕下ろせ」


 五指を折って筒のようにした小雪路が手首の返しを利かせるように手を上下に振ろうとしたので、慌てた様子で靖周が止めた。ふしぎそうに目をしばたかせ、小雪路は小首をかしげて兄に詰め寄った。


「? なんなのん」


「ナニって、いや、あれだよ……なあ?」


「なぜぼくに振ったんだい靖周」


「ぶち殺しますよ靖周。…………あ」


「なんだい、なぜ変な間をあけてぼくを見る」


「いや、八千草……その反応、まさか知って」


「知るわけないだろうばかお前斬るぞ」


 言葉尻にいくにつれて顔をうつむかせ、声根を震わせて八千草は言いきった。だが髪の分かれ目にのぞくうなじと耳が真っ赤になっていたので、表情はだいたいの想像がつく。井澄は今晩幾度となくこの様を思い返すことを決意した。


「小説かなにかでご存知になったのですか?」


「なんで知っ……お前っ、本当にっ、……ああうぅ」


 それきり窓の方を向いて八千草はだんまりだった。だが向きを変えざまに貫手で喉を突かれて井澄もしばらくだんまりだった。あんまりだ。


「ねーねーなんなのん」


「お前は少し静かにしてろ。なあ井澄、でもだって説明できねーだろこれ、兄的に。無理だよ」


「げぇほ、ごふ……あー、まあ、自分で教えられないのなら、他人に頼んではいかがです。山井ならその道の達人ですし、次にお世話になるときにでも一晩いろいろ教え込んでもらえばいいでしょう」


「お前それで妹が女遊びにハマっちまったら責任とれんのかよ!」


「遊郭通いしておきながら、あなたどの口で言うんです」


 ため息をつく井澄だった。なお怪我人として頻繁に山井のもとに来院する小雪路だが、山井は女色とはいえ仕事と私事は分ける主義であるらしく怪我が治るか合意を得られるまでは手を出すこともない。よってこれまで小雪路は山井の毒牙にかかったことはなく、当然そのテの知識も得ていない。


「だいたい山井にゃあんま会わないほうがいいだろが。人間、医者いらずってのが一番だぜ」


「それもそうですが、いまや小雪路は危神なのですし。診てもらうのは仕方のないことでは」


「仕方ないで済ませちゃならねぇだろ。怪我なんざ、しないに越したこたねーんだ」


「なんですか当たり前のことばかり言って。妙につっかかりますね」


「あ……悪ぃ」


 らしくもない様子で、靖周は強めていた語調を緩める。垂れたまなじりに沿うように、目線を動かして横の妹を見つめようとしていた。なぜだか小雪路も静かになっていて、途端にいやな感じの沈黙が生まれる。


 ふと、井澄は先日銭湯で靖周が語っていたことを思い出す。いくら強くなろうとも、妹は妹であり、彼にとって危なっかしい存在であることに変わりは無く。そのためともに戦の場に赴くことへ、忌避感があるとの言を。


 先日八千草から聞いたところ、あの銭湯の日も小雪路は返り血塗れになっていたそうだし、危神になってからというもの彼女は忙しく危うく過ごしている。名が知れるとは単に挑戦者が増えるだけではなく、仕事として向かう際にも警戒され、より強固で手ごわい相手が配置されることにも繋がるからだ。


 なるほど、心配してのことなのだろう。戦闘狂の彼女には、要らぬ心配とも思われるが。兄と言う立場からすれば、彼女を守ってきた立場からすれば、不安はいつまでもつきまとうのだろう。


「……まあ、あまり危険を冒さず、たまには私たちも頼ることですよ、小雪路」


「へ、なんで急に井澄んもうちに言うのん」


「べつに。単なる同僚としての気遣いですよ」


 大事な人が、ひとりでどこかへ行ってしまいそうだと危ぶむ気持ちは井澄にもよくわかる。まだ沈黙を保ってパイプをかじっている八千草を見て、ふっと微笑んだ。



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