舞い込んで来たお姫様。7
岩波さんはその後、凄い早さで教室へと戻って行った。五時間目はサボったのに、六時間目には出たいらしい。この前やっと期末テストが終わったと言うのに、よくもまぁ先生の顔を見ようとするもんだ。
「岩波さん、『獣化系の呪い』とか言ってたよな……もしかして呪いにも、大まかな分類があるのかな」
ふと、隣を歩いていた悠斗が呟いた。俺達も、六時間目は出席予定だ。
「そりゃあ、あると思う。この子と岩波さんじゃあ、明らかに違う感じの呪いだったからな。もっとも、あの目が本当に呪われているならの話だが」
悠斗の呟きに、俺は応答する。とその時、俺は重要な事を思い出した。思わず「あっ!」と声が上がる。匠と悠斗、そして女の子が、不思議そうに俺を見て来た。
「この子、先生やクラスの連中にどう説明すればいいんだ?」
俺は雀の女の子を指差して言った。
今のこの子の格好は、呪いが解かれた時からそのまま、真っ白なワンピースだ。学校内でこの姿と言うのはたたでさえ目立つのに、教室に戻ったら更に大変だ。
クラスの奴らは、この子が雀から人になった瞬間を見ている。質問攻めにあうだろう。高確率で。
それに、六時間目の間、この子は一体どこにいるべきか。当たり前だが、教室にこの子の席は無い。
「……今日はもうさぼろう。後で綴辺りに連絡して、俺達の荷物を持ってこさせれば良いだろう。ただ、六時間目が終わるまで、どこにいればいいだろう?先生に見つかると厄介だしな」
悠斗がそんな事を言う。確かに見つかれば厄介な事になるが、普段目立たない場所なら簡単だ。
「悠斗、この自習室、普段は全く人の出入りがねぇよ」
そう、公立高校の自習室なんて、基本的に誰も出入りしない。ほとんど使われる事の無い部屋だ。
ここにいれば、人目につかずやり過ごす事が出来る。
「じゃあ、しばらくここにいるとして、次だ。この子……家をどうする?」
そう、他にも問題がある。名前や教室などと同じ理由で、この子には家が無い。家族はいるのだろうが、今もきっと、空を飛んでいることだろう。
あれ?呪いって、一人呪いが解かれると、その家族も呪いが解かれるものなのか?そこんとこ、岩波さんに聞いておけば良かった。
「施設に預けるっつっても、十六歳からだと説明が厄介だし、身元の確認が取れない。第一、戸籍すら無いんだ。どうするか」
顎に手を当てて、悠斗は呟いていく。
うわぁ、結構厄介だな。いきなり雀から人になったから、戸籍上存在しない人になってるんだ。これじゃあこの時代、生活するのに色々と不便じゃないか。
その時、匠が女の子を抱えて、俺達に向かってこう言った。
「取り敢えず、俺は一人暮しだ。しばらくならなんとかできると思う」
……取り敢えず、女の子を抱えている腕の力を弱めてあげなさい。悠斗は知らないが、俺は奪わないから。
じゃなくて、
「お前、一人暮しってアパートだろ?大家さんとか、近所の人とかに、どうやって説明するんだよ」
「しばらくここに来る事になった従姉弟とでも言っておくさ。長引く様なら、その間にアパートを変えればいい」
成る程、公共施設とかだと、書類が必要だけれど、人に対してなら口上で何とか出来るのか。数日間だけだが。
「そうか、それなら何とかできそうだな」
悠斗はそう言って安心した様に頷いた。俺は匠の意見に頷く前に、女の子に向き合う様に移動した。
「話は、聞いてたか?」
女の子は、匠の横で頷く。
「じゃあ、匠……こいつの所にしばらく居るって事で良いか?」
「はい。大丈夫です」
「……本当か?」
「はい」
「……んじゃ、しばらくは匠の所にいるって事で良いか」
そう言うと俺はフーっと長い息を吐いた。それから、匠の方を向くと、念のためにこう言った。
「匠、変な事するなよ」
「しねぇよ!」
すぐに反論が飛んできた。