舞い込んで来たお姫様。 6
運命の赤い糸。いつかは結ばれる男女についている。一本の糸である。本来は足首についている様だが、今や手の小指の方が一般的だ。
で?
「で、呪いを解くためには、その赤い糸の相手、『運命の人』『適合者』によるキスじゃないと、呪いは解けないみたいなんだ」
そう言って恥ずかしそうに頭を掻く岩波さん。なんだなんだ? 誰だか知らんが、呪いを掛けたその人は、随分と少女趣味な奴だなぁ。ロマンチックじゃねぇか。
「で、それがこの娘の場合、匠だったんだな」
悠斗が、腕を組み、小さく呟く。女の子は、顔をやや俯かせ、周りの様子を伺っている様だ。
その姿は、俺達にか弱い小鳥を彷彿とさせた。
「………………」
少し、女の子を見つめていると、女の子の隣に座っていた匠が、不意にその子を抱き寄せた。少女は、一瞬驚いた表情で固まったが、直ぐ安心した様に目をつむる。つか、匠よくそんな行動に出れたな。俺は恥ずかしくて無理だ。
「うるさいわ裕樹。……所で、お前も『姫様』って言ってたよな。なら、お前の呪いはなんだ?この娘みたいな、単純なやつじゃなさそうだが……」
匠が、岩波さんに質問する。
「私の、と言うより、私の一族の呪いは、この右眼だよ」
岩波さんは苦笑して、右眼に付けている眼帯を指差した。
「この右眼で人を直接見ちゃうと、その人の思考をすべて悪意に染め上げちゃうんだって。邪な考えとか、殺人意識とかを呼び起こしちゃうんだってさ」
……見ただけで他人の邪気を呼び起こす右眼。何と言う、何と言う中二病を体現した様な呪いだろう。
「お前高校生にもなって」と一蹴してやりたいが、雀の子の出来事がある為、そうする事が出来ない。実際に呪われているのなら、一蹴するのはかなり失礼だしな。
「その、岩波さんは、その目で人を見た事があるの?」
俺は、かろうじて質問を繰り出した。随分と頬が引きつっていたと思う。
「…………一回」
かなり長い間が空いて、岩波さんは呟いた。
「ごめん、変な事聞いた。で、まとめると、この世には呪われている人達がいて、その呪いを解く方法は自分に適合した人からの『魔法のキス』って事か?」
「うん。他にも色々あるんだけれど、あ!そうだ、これも伝えておかないと」
気を取り直す様に、彼女は両の掌を顔の前で合わせた。そして言葉を続ける。
「その子みたいな『獣化系の呪い』は、呪いが解かれると、適合者と同じ年齢になるの。だからその子は多分十六歳。でも、今まで雀として世間を見ていても、世間の波に入った事は無いからいろいろ戸惑うと思う。だから、しばらくはその子の事、ちゃんとみていてね」
岩波さんは、主に匠に向かって言っていたと思う。