舞い込んで来たお姫様。5
今はもう使える人が居なくなってしまったが、『呪い』というものがある。
おとぎ話や昔話でよく聞く呪いである。魔法の世界とかでも随分とお馴染みの、呪いである。
そしてそれは、今よりはるか昔ではあるが、実在していたと言う。
「そんな事あり得ないだろ……」
「質問は後で。今は黙って聴いてて」
そして、その呪いが実在していた頃、当時の貴族の娘、国王の若妻などが、強い呪いを掛けられた。その呪いは誰にも解く事が出来ず、そして、永続的なものであった。呪いは一代では終わらず、子へ孫へ、末代まで続いている。
岩波さんの話を聞いた俺達の反応は、一様にして同じだった。
あり得ない。
呪いが実在してる?そんな馬鹿な。貴族の娘や国王の妻などが呪われた?ならなんで歴史の教科書にのらないんだ?末代まで続いている?よく今までTVとかに取り上げられなかったな。
呪いなんて、あり得ない。
「それで、その子、雀の子。彼女もさっきまで呪われていたの。でも、その呪いが解かれて人の姿になっている」
岩波さんが、あいかわらず匠の横にいる女の子を指差す。そして俺達はハッとする。そうだ。この子が、岩波さんの話を裏付けしている。もっとも、女の子は、実際岩波さんのしゃべっている事を理解していない様だが。
「……その、呪いがあるとして、どうして岩波さんは呪いの事を知っているの?」
匠が、ゆっくりと質問する。
「自分で言うのもなんだけど、私も『姫様』だからね」
今度は俺が質問する。
「『姫様』だと、呪いの事を知ってるの?」
「いいや、私の家には、古い口伝があるから……呪われている人達皆がみんな、呪いの事を知っている訳じゃないと思う」
「俺も、いいか?」
今度は悠斗が手を上げた。岩波さんは「どうぞ」と軽く促す。自習室も一応教室の形をしているから、岩波さんが、先生になったみたいだ。
「呪いが解かれた。って言ってたよな。何が呪いを解く方法だったんだ?」
悠斗のこの質問に、岩波さんは顔を赤らめて頭を掻いた。何故だ。
「ちょっと、いいずらいな……」
何故?
「えっと……あのね、そう言った姫様達に掛けられた呪いを解く方法は、いわゆる『王子様のキス』なんだ……」
そう言った後、岩波さんは照れ臭そうに微笑んだ。対して俺達は固まっている。
つまり、雀が急に女の子になったのは、匠があの時キスをしたから、と言う事なのだ。
だが、俺の中には疑問もあった。
「キスで呪いが解ける……ちょっと待って、じゃあなんで呪いが末代まで続くなんて事が起きているんだ?」
キスなんて大人じゃあ珍しい行為でも無い訳だし、今の時代まで続いているって事は、子を成しているんだ。キスで解けるのなら、みんな解けているはずだ。
「解き方はキスでいいんだけれど、キスをする相手がね……うーん、説明しずらいなぁ……あ、そうだ!運命の赤い糸みたいなのを想像して!」