舞い込んで来たお姫様。4
学校の廊下で、いきなり知らない人に声をかけられたら、普通はどうするのだろう。振り返って挨拶をするのか、無視して通り過ぎるのか。
そして、知らない人が話しかけて来た事に戸惑うだろう。一体自分に何の用があるのか分からない時は。
俺達は後ろから声をかけられて、つい振り返ってしまった。振り返った先には、眼帯をした、黒髪の少女が立っていた。
黒髪で、右目が眼帯で覆われていて、見えている左目は凛々しく、桜色の唇が目を引く。そして髪は短い。……いや、短く無かった。よくよく見たら後ろ髪が肩を超えている。『一見短く見えるけれど実は長い』髪型だ。
しかし……誰だ?
「岩波 真奈?」
ふと、隣にいた悠斗が声を上げた。
「知ってるのか?」
俺は岩波と呼ばれた女子の方を向いて問いかける。
「いや、少し前に陽介が気になる人がいるって言っててな。入学した時から、あの眼帯を外した事が無いらしい」
あの眼帯を外した事が無い。重たい病気か?そんな事を考えながら岩波さんを見ていると、岩波さんはスタスタと俺達に近づいて来た。
そして、匠の横にいる女の子の前に立つと、ふっと優しい顔になり、
「おめでとう」
と、短く言った。何がおめでとうなのか、俺にはさっぱり分からない。岩波さんはその後、俺達を見渡して、それから周りを少し見渡して、俺達に質問して来た。
「時間ある?少し話したい事があるの」
と。
保灯市と花山市をまたぐ、県立保灯花山高校。そこの一階、滅多に人がやってこない自習室に、俺達はやって来た。
岩波さんはこんなところに俺達を呼んで一体何をするつもりなのだろうか。
「……その子、元は雀だったんだよね」
その時、おもむろに岩波さんが口を開いた。
「さっき廊下の所で話を聞いてね。確認したいから聞くけれど、その子が人の姿になった時の事、おしえてくれる?」
岩波さんは腕を組み、真っ直ぐに俺達を見ている。
「確認したいから?」
俺は岩波さんの言動におもわず聞き返していた。確かに、あの不思議な光景のことなら知りたいと言う気持ちは分かる。だが、「確認したい」と言うのは、まるで最初から答えを知っている見たいじゃないか。
「うん。もしかしたら私が知っている事と違うかもしれないから、念の為ね」
岩波さんはクスリと微笑んで答える。じゃあ、もしかしたら岩波さんは、この雀から変化した女の子が何者なのか知っているのか?
隣に居る悠斗にチラリと視線を投げる。悠斗は視線で「好きにしろ」と返して来た。
お前、少しは考えてくれよ。
その後俺達は、ポツリポツリと、さっき教室で起こった事を話した。
全て話すと、岩波さんは納得した様に頷いた。そして、凛とした左目で俺達を真っ直ぐに見据え、こう言った。
「うん。私が思っていた事と同じだった。説明してあげる。その子の、いや、私達、お姫様達の事を」