表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/29

舞い込んで来たお姫様。3

 再び空気が固まった。教室中のだれもが、ポカンとした表情を崩さない。

 君はさっき匠の肩に乗っていた雀。と、俺は言葉は違うが彼女にそう尋ねた。

 彼女は、「はい」と明るい表情で答えた。

 この事から、突然教室に現れたこの美少女は、雀から人の姿へと変化したのだ。


あり得ない。んなこたぁあり得ない。そんな変身魔法を覚えてる人たちがいたら、間違いなくテレビで騒がれている。

「ど……どうして……」

かすれた声で、さらにその少女に質問を重ねようとした時だった。

「岩崎!その子はお前の知り合いなのか?」

廊下側から、先生方の声が聞こえた。見ると、複数の先生がこちらを凝視している。

岩崎、と匠の事を差したのは、女の子がその両手で匠の右手をしっかりとつかんでいたからだろう。

先生の一人が一歩前に進み出て、俺達に向かって言う。

「今すぐついてきなさい。あ、後、お前達も」

そう言って、その先生は教室から離れていった。「お前達も」の所で俺と悠斗を指差して。

「……どうするよ?」

手を握られたまま、匠がきいてきた。戸惑ってるとかそう言うのを飛び越えた表情は、ただただ両手を合わせて合掌するしか無い。

たが、俺と悠斗も呼ばれているので、他人事じゃ無いが。

「どうするって……今の、生活指導の山岡だろ?行かないとまずいって」

隣にいる悠斗がボリボリ頭を掻きながら呟く。その言葉を聞いた俺は、女の子に語りかけた。

「ちょっと、一緒に来てくれるか?こっちの奴も、一緒だから」

匠を顎でしゃくって、女の子に説明すると、彼女は少し不安そうになり、でもこくんと頷いた。先生が、余り大きな声で怒鳴らなければ良いな、と、俺はやたらと静かになった教室の出口へと向かいながら思った。

廊下に出てから、チラリと教室を振り返ると、残った先生が、生徒と何やら話していた。









「ふぅ~……」

生徒指導室に呼ばれた俺達のめの前に座った山岡は、ゆっくりと息を吐いた。白髪の混じった短髪、しかし威圧感のある目、そしてこの威厳たっぷりの立ち振る舞いで、どんな生徒でもこの先生の前では素直になったと言う。

ただそれにも限界がある。

「その子は……誰だ?」

雀です。……と、素直に言えたらどれだけ楽だろうか。だがその答えは、ただふざけている様にしか聞こえない。「ふざけるなっ!」と一喝されてしまうだろう。

それに、俺達だって、さっきの事に戸惑っているのだ。人に説明する余裕なんか無い。

「「「……………」」」

俺達が黙ったままでいると、山岡は、深い溜息を吐いた。その後、俺達では話にならないと踏んだのか、匠の横で小さくなっていた女の子に語りかけた。

「君の名前は?」

おもわず顔を上げて、目の前に座っているのが本当に山岡かどうか確かめたくなるほどに優しい口調だった。確かに、いきなり怒鳴ってしまうと、怯えて何も言わなくなったりしてしまう。だから、山岡のこの口調は納得出来るのだが……

「………………」

問題は、元が雀だから、名前なんて存在しないと言う事で……。

黙り込む俺達。山岡は、優しい口調のままで、もう一度、今度は違う質問をする。

「君は一体どこから来たんだい?」

 口調は優しいんだが、顔が少しひきつっている。

「……空から」

 女の子は素直に答えた。嘘ではなく、真実を。だけど山岡は、大きくため息をついて、それから俺達をにらんだ。 

「お前ら……この子に一体何を吹き込んだんだ?」

「……何もしていません」

山岡先生。あなたの気持ちはよく分かりますが。

「そんなことは……」

「山岡先生、ちょっといいですか?」

 その時、生徒指導室の扉を開いて、一人の先生が入ってきた。視線を向けると、若い男の先生だ。そう言えばさっき教室にいたな。

「なんだ?」

 不機嫌な山岡。そんな山岡に向かって、青年教師は言葉を発する。

「さっき教室で、生徒たちに話を聞いていたのですが……その、内容が、不思議なもので……」

「どんな内容だ」

「その……雀が教室に入ってきて、女の子に、なったと」

「そんな事あるわけが……!」

「あと、校長から、『この事は詳しく考えないでくれ』と……」

「………………」

 目の前でやり取りされる会話を、俺達は黙って聞いていた。山岡はしばらく驚いた表情で固まっていたが、その後、短く舌打ちをして

「お前ら、もう行っていいぞ」

と言った。

「あ、はい」

助かった。よくわからないけど、開放してくれる様だ。俺達はすぐさま立ち上がり、少々ビビりながら生活指導室から出て行った。



それから教室に戻る途中の事である。

「ふぅー」と大きく息を吐いて、俺と悠斗と匠と女の子は、取り敢えずもといた教室を目指していた。生活指導室から出て、渡り廊下を渡り、校舎の東側の階段を登る。

とその時、

「ねぇ、君達、ちょっといい?」

不意に誰かに呼び止められた。振り返ればそこには、眼帯をした、黒髪の少女が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ