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舞い込んで来たお姫様。2

茶色くて、小さくて、突然教室にやって来た雀は、羽をパタパタと動かし、俺達の頭上を飛んでいる。

「えっなんで雀が?」

クラスが一気にざわつく。雀は教室の中で迷った様に、同じところを飛んでいた。

「可愛い!学校でかえないかな?」

「無理でしょ?…ねぇ、早く外に帰してあげなよ」

教室にいた生徒達から、そんな声が上がる。俺達は五人共口をポカンと開けていたが、確かいそうだと思い、雀を窓の外に追いやろうと、雀に向かって手を延ばした。

雀は、パタパタと飛びながら窓の外へと逃げて行き、騒動が収まった教室は、「何故雀が入ってきたのか」について、あちこちで声が上がる。



と、こんな風になると俺は思っていたのだが、実際はとんでもない事になった。

俺達が雀を窓の外に追いやろうと手を伸ばすと、その雀はなんと、匠が伸ばした手のひらに、降り立ったのだ。

「うわっ」

匠は慌てて手をブンブンと振る。すると雀は、今度は、匠の頭の上に降り立った。

「………………」

なんだこれ。

教室中が言葉を失い、何故かシンと静まっていた。みんなこの雀を不思議がっている。

雀は、警戒心がまるで無いというように匠の肩に飛び移ると、ただただじーっと、匠の事を見続けている。その行動は、余りにも動物らしくない。

警戒心の無さは、飼われていたものが逃げ出した。と言う考え方が出来るが、それにしても、『見つめる』と言う行為は、鳥では滅多にしない筈だ。

まぁ、それはそれとしてーーーー

「可愛いな……」

俺は匠の肩に乗り、ただ匠の事を見続けている雀を見て、ゆっくりと呟いた。

「確かに可愛いよな……」

俺の横にいた悠斗も、同じ様に呟やく。うん。やっぱりこいつとは気が合うな。

強張った表情で雀を肩に乗せていた匠も、その可愛らしい佇まいにふっと力を抜いた。

そして、肩にいる雀に、掌を差し出す。雀は匠の掌に、待ってましたとばかりに飛び移った。

「人懐こいな。逃がす前に、頭でも撫でてやれよ」

綴が笑いながらそう言う。匠は軽く笑ってから雀を見て、それから、何故かおもむろにキスをした。

ゆっくりと、流れる様なその動作に、俺達は固まってしまう。キスされた雀は、匠の手の上で身体をブルブルと震わせると、



突然、光を放った。




「うわっ!」

眩い、強い光に、俺は思わず目をつむる。目を閉じても、強い風が、ガラス張りの窓に吹きつける様な音が、教室中に響く。

風も実際に吹いている。何が起こったのかは分からない。ってかホントに何が起こったんだよ!

……次第に、風が収まった。音もしない。シンと静まった教室。俺は、ゆっくりと目を開けた。

教室は、周りは大丈夫だろうか?

そう思って周りを見渡してみる。視界に映るのは、さっき酷い音がしたのに、何ともない教室。真っ白なワンピースを着た、茶髪でショートの女の子。驚きの表情を浮かべている匠。恐る恐る顔をあげているクラスメイト、俺と同じ様に周りを確認している悠斗だった。


……何か、おかしなところがあった様な気がする。そう、教室に、さっきまで無かった筈のものが……

俺はもう一度、そこを見てみる。真っ白なワンピースを着た女の子が、真っ直ぐに匠を見ている。

教室は、未だにシンと静まり返っている。だから、女の子の、はぁーっという短い、安心しきった様な溜息も、はっきりと聞き取れた。

女の子は言う。

「あの……ありがとうございます!」








女の子はそう言うと、匠に一歩近づいて、その手を取った。匠はまだ放心している様で、表情が変わらない。首を動かすと、俺の隣にいる悠斗も、驚きの表情で匠の方を見ていた。

シンと静まった教室に、カチコチに固まった生徒。そんな生徒達の視線を集めながら、女の子は匠に一歩近づいた。

そして匠はたじろいた。

次第に、立ち直りの早い生徒から、教室が騒がしくなって行く。授業を開始しようと、教室の入り口に立っていた先生が、踵を返して何処かへ向かう。その間女の子は、匠の右手を両手で包む様にして持っていた。

もう一度匠を見てみると、今度は困った様な顔になっている。俺は隣にいた悠斗の腕を掴み、匠とその女の子に近づいた。

「ゆ、祐樹、悠斗、これは……」

俺達に気が付いた匠が、細い声を上げた。俺はその言葉に答えず、茶髪の女の子を凝視していた。

「……君は、誰?」

視線を外さず、女の子に問いかける。大きくてつぶらな黒目、あどけなさが残る顔立ちだが、手が添えられているその胸は、しっかりと自己主張している。はっきり言って、美少女。だが教室に突然現れた、『謎の』美少女。

ーーーーいや、頭の隅には、「もしかしたらこの子は」と言った思考がある。だが、それはどう考えてもあり得ない訳で、だから俺は、恐る恐る、聞いてみたのだ。

女の子は、両手で持っていた匠の右手を、ギュッと力を込めて強く握ると、俺に視線を移して

「わ……私は……」

 そこから先が続かない。せめて名前くらい言えばいいものを。と思うのだがーーーー


 どうしても、確かめたくなってしまう。そんな事、あり得ないのに。ここはファンタジーの世界じゃないのに。

「きみは……」

声が震える。匠が、綴が、クラスの誰もが俺を見ている。こんな注目を集めた状況で、俺はなんて馬鹿な事を聞くつもりなのだろう。

「きみは……さっきの……雀?」

 ゆっくりと、質問を口にする。

それを聞いた途端、女の子はパァっと顔を輝かし、大きな声で

「はい!この人のおかげで、こうなる事が出来ました!」

と、匠の手をさらに強く握りしめて言った。 

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