神巴 綾の心霊スポット(学校)探検隊
「ッキャアアアアア!」
夜の学校に少女の悲鳴が轟く。
ぶぅおん!
綾の持つ輝く刀が気配のあった場所に振り降ろされる。
ガツッ!
鈍い音がして床に刀が刺さる。
「あ〜あ、知〜らないぞ〜。学校にキズ入れた〜」
後ろからこの場に似合わない明るい声と
「気にするな綾。人間には得意、不得意がある」
今の状況なんか知ったことかと言わんばかりの冷静な声。
「やかましいわよ!」
綾は半泣きで怒鳴り、悪態を吐くしか出来なかった。
さて、ツッコミどころが多々あるが、とりあえず何故こうなったのか回想してみよう。事件から数日後中間試験を無事に終えた綾は何故か校長室に呼び出されていた。
「心霊現象…ですか?」
「そう、実害は殆どないのだけれど、警備員さんや宿直の教師が嫌がるのよ…」
綾は嫌そうに顔をしかめ、
「それって生徒に頼む事ですか?」
校長は笑いながら試すように見て
「あら、神巴さんの家は今でも有名の祓い士だと聞くけど…」
「げっ!校長先生…知ってたんですか?」
「だったら、知り合いの万屋に…」
「彼は『他の依頼があるから無理!』って言ってあなたを指名してくれたわ…あなたの親には了解も採っている…」
「………」
何も言えない。
「じゃ、よろしくぅ〜」
綾は無言で部屋を出て行った。居なくなったのを確認するとおもむろに電話(昔懐かしの黒電話)を掛ける。
「もしもし、要望どうりにしたわよ。…ええ、怒っていたけど家の名前を出したら大丈夫だった。じゃあ、レポートの提出宜しく」
校長室を辞した後、綾は地団太踏みながら教室に戻って行った。
「ふっふっふ〜。聞〜いちゃった、聞いちゃった〜」
「ズルいぞ綾、そんな楽しいこと私達に言わないなんて」
今、会いたくないランキングダントツのワン・ツーが目の前にいた。
「深凪、柚姫、なんであんた達ここにいるのよ?今、授業中よ」
宗蔵院 深凪
神楽坂 柚姫二人とも綾の友人(綾本人は悪友と思っている)
「さぼっちゃった。てへ☆」
「てへ☆…じゃ、ないわよ!」
「と、言うわけで。明日の夜に学校探検だ〜!」
「お〜!」
「かってに決めないでよ!」
二人は聞くはずもなく、実家に文句を言うも何故か半泣きで
『知らん!自分で説得するか、全力で守れ!』
と、非情なお達し。
「うう…」
完全な四面楚歌である
二人がきゃっきゃ騒いでる中一人屋上に駆け上がり、
「うう、お星様のバカヤロー!」
昼間に上がっている一番星に向かって叫ぶ綾であった。
仕方がないので、実家に頼み込み霊法具『鳴神・緋王』を借りて行くことにした。
回想終わり。
「綾ちゃん、なんで悪魔とかは怖くないのにお化けなんて居るか居ないのか解らない曖昧な物に怖がるの?」
至極当然でシンプルな意見。しかし、綾の意見も同じだった。
「怖いのに理屈なんか要らないの!」
「ともかく!さっさと原因叩き潰して帰るわよ!」
ガッシャーン!
イヤな音を聞き横を見ると見事にガラスが割れ冷たい夜風が三人に吹き付けた。
「落ち着け、綾。あんたの突拍子な行動であたしは死にたくない」
柚姫の冷静な声に顔を赤くしながら
「煩い!煩い!」
そんな二人のやり取りを余所に深凪はどこかへ電話をしていた
以下、沢山有りすぎるのでダイジェストにて紹介
三階廊下
着物を着た女性のお化けが現れ、綾が錯乱。窓ガラス数枚、非常警報装置が破壊された。
柚姫は爆笑、深凪は電話中。
二階理科室
骸骨の標本と人体模型(体半分が内臓すけすけのヤツ)がいきなり綾に襲い掛かる。
悲鳴を上げながらその2つを細切れにする綾。大爆笑する柚姫。電話を掛ける深凪。
二階トイレ
ドアを開けた瞬間上からバケツ(水が満載)が降ってきて、全身水浸しの綾。二人は入り口に隠れ回避。
一階廊下
鬼も裸足で逃げ出す形相で歩く綾何が出てきても粉砕するつもりである。
深凪はそんな綾を楽しみながら、このままでは学校が滅茶苦茶にされて仕舞いかねないので種明かしをする事にした。
電話で相棒に終了の合図を送ろうとするが
「圏外?」
おかしい。
数十分前まではちゃんと三本立っていた筈なのに…
前を向いた時、
「へっ?」
昔見たパニック映画の化け物が目の前で爪を振り上げていた。
(あっ、これは死んだ)
そう思った瞬間
「てやぁぁぁ!」
裂帛の気合いと共に銀光が駆け抜け肘から先を切り飛ばした。
深凪の前に立ったのは先程とは打って変わった綾だった。
その姿は剣を振るい戦陣を駆け抜ける勇者のごとく。
「出たわね!妖怪!さっきまでの恨みあんたで晴らさせて貰うわ!」
「ギッ!」
綾の言葉を理解しているはずがない妖怪も綾が放つ殺気に圧され後ずさる
「覚悟ぉぉ!」
「ギッ!ギャアアアア!」
「よぉ、無事か?」
綾のリンチ(憂さ晴らしとも言う)を眺める二人に声が掛けられ振り返ると
「天野さん」
烙が立っていた。
「悪かった、嘘の筈がマジもんの事件になるとは。助けるのが遅くなった」
「いいぇ〜いいんですよ。柚姫ちゃんも私も楽しませて貰ったし」
「うむ、久々にいい刺激を戴いた」
烙の依頼人である深凪と柚姫はそう答えながら笑顔を返した。
回想
事件解決後依頼料の殆ど全てをもって行かれた烙はいつものごとく顔にFRIDAYを載せてふてくされていた
『天野さ〜ん。仕事捜しましょうよ〜』
新しいシステムキッチンが余程嬉しいのか自分が烙の機嫌を悪くさせた一人だという事を失念させていた。
その結果
「喧しいわ!大体貴様もバカ高いシステムキッチンなんぞ買わなければ今頃俺は豪遊してたんだぞ!」
壁に投げつけられ、『ヘブッ!』とうめき声上げて少し溜飲が降りたがやはり機嫌は治らない。今週(この日は月曜)はふて寝すると決めていた時
部屋の電話が鳴り響いた。三号がフラフラと取りに行く
『はい〜、万屋・駄典です〜』
その後、電話の相手と2、3言やり取りをして、
『解りました、伝えておきます』
そう言って、電話を切った。
「誰からだ?」
「閻魔様です。地獄の鬼の一人が急に暴れて地獄を逃亡。この近くに潜伏しているらしく、天野さんに捜索を依頼したいらしいです」
「ふ〜ん。ま、気が向いたらな…」
そう言って、再びFRIDAYを被りふて寝を開始した。
それから三十分ほどして、ト●・クルーズ主演のスパイ映画の着メロが部屋に鳴り響く。
「はい…万屋・駄典」
『もしもし、天野さん?宗蔵院です〜。先日は有難うございます〜。実は一つお願いしたい事が有りまして…』
烙はぶっきらぼうに、
「今は虫の居所が悪い。悪いがまた…」
『綾ちゃんの事でも…ですか?』
「………話だけは聴いてやる。場所は?」『駅の近くにルーンってカフェが在るんでそこでお待ちしてます』
「解った」
『では』と電話が切られ天井を見て、ため息を吐き重い腰を上げることにした。
カフェ『ルーン』。リーズナブルな値段だが、味はとても良く帰りの学生や会社員にとても人気のお店だ。
時刻は夕方、そろそろ忙しくなる中道沿いのオープンテラスにて4杯目の珈琲を口にすり烙。
最初は旨いと思っていたが4杯目ともなれば胸焼けして味なんか解ったものじゃない。
(すっぽかされたか?)
既に三時間も待っているんだ、悪いのは向こうだと決め付けこれを飲んだら帰ろうと決めた。
「天野さん〜」
珈琲を飲み終え、伝票を持ち出ようとした時、特徴的な間延びした声が聞こえた。
小さい背とメガネにポニーテイルそして、人を引き付ける笑顔。しかし、中身は自分が楽しむ為には何でもする腹黒娘である。
「待ちました〜?」
「三時間程な」
「そうですか〜」
嫌みを言ってもこの反応…ある意味大物かも。
「で、俺にお願いってのは?」
「天野さん、綾ちゃんがお化けがキライって知ってますよね?」
「まぁ、あれだけ騒いで違うとは言えないだろ?」
初めて会った時の事を思い出し少し笑ってしまった。
「祓い士の家系としてはとてもまずい事だと思うんですよ〜。天野さん、高所恐怖症の人がいきなり高い所に置き去りにされる。逃げ道は無い。この人はどうすると思いますか?」
「飛び降りるんだろ。これ以上居たくないって恐怖から」
本当の話である。高層ビルの火事で助けが来る前に飛び降りて死んでしまう人達は火事によって逃げ場を失い、助けが来る前にストレスによって『これ以上ここに居たくない!』と思い飛んでしまうのである。突飛な話をする深凪に訳の解らない烙は
「で、その話と何の関係が有るんだよ?」
「昨日まで、テストで全く遊んで無いんですよね〜。しかも、綾ちゃん最近付き合い悪いし〜。これはもう、親友としてお仕置きが必要だと思うんですよ〜」
深凪の浮かべる邪悪な笑みに
「ほぉ…それで俺に何を頼みたいんだ?」
こちらも負けず劣らずの笑みを帰す烙。
この後、柚姫を呼びここに『神巴 綾の(偽)心霊スポット探検隊(綾ちゃんをからかってテストのストレスを吹っ飛ばそう)同盟』が誕生した。
その後は深凪が持つコネで校長を説得(?)し、決行となった。
以上回想シーン終了!
未だに、化け物(鬼だと後の調べで判る)をボコボコにしている綾を余所に同盟の三人は今回の成果について報告しあった。
「どうだった?」
烙の問いに二人は笑顔で
「バッチリですよ〜」
「いいストレス解消に成った。貴方には感謝している」
深凪はこっそり隠し撮りしたハンディカムのチップを渡し、
「あっ、それ校長先生にも渡さないといけないから早く返して下さいね〜」
烙はチップを懐に直しながら、
「久々に俺も気晴らしができた。あんた達とはなかなかいい関係になれそうだ。俺の世界でもあんた達ほど楽しい奴は居なかったよ」
手を差し出し、笑いながら
「今後もアレ(綾)をネタに面白い事をしようじゃないか」
学生二人は見合わせこちらも笑みを浮かべ
「勿論!」
「宜しくお願いです〜」
二人も笑みを浮かべながら返してきた。
そして、今ここに
『神巴 綾をからかって面白おかしく行こう』同盟が結成された。
「それにしても天野さん、流石ですね〜。最初のお化け、すっごいリアルでしたよ」
「ああ、私も仕掛けでわ無かったら悲鳴を上げていたよ」
深凪と柚姫が揃って褒め称えているが烙が返したのは意外な答えだった。
「何だ、それ?」
『えっ?』
二人は驚き、徐々に青ざめて行きながら、
「いえ、三階に出た着物を着た女の人、あれ天野さんでしょ?」
「いや…違うが」
『って、事は…』
二人は見合わせ同時に呟く
『………本物?』
『っきゃああああああ!』
追記
件の幽霊は昔からいる『お菊さん』と呼ばれる幽霊らしく、事情を聞いた綾ちゃんのお父さんがきちんと除霊してくれたそうです。
『神巴 綾の心霊スポット(学校)探検隊』
改め
『結成!A(綾ちゃんを)KA(遊ぼう)団』
完