我が名に従い顕れよ
前回のあらすじ。
五十嵐 楓の依頼を受けた後、突如襲撃を受ける陀典。襲撃者の中にはモンスターの姿も。
彼らは無事この危機を脱し黒幕を叩く事が出来るか?
烙はインプ、キマイラと対峙していた。
「よう。あのクソ野郎は元気にしているか?」
『………』
『グルルルルル!』インプは無言。キマイラに至っては殺気を剥き出しにしている。
『イイノカ?例エ剣姫ト言エドモ、アノ数ノ人間二ナラ………』
烙の後ろからは、
ベキッ!バキッ!ガスッ!ゴスッ!と言う音と共に、
「ぎゃああ!」
「おぐぅ!」
「う、腕がぁぁぁ!」
などと悲鳴が聞こえて来たり。
そして、
「呼んだかしら?」
顔をボコボコに腫らした兄貴分の襟首を掴み引きずりながら近付く綾。
その姿は屍の野を行く戦女神である。が
(コ、恐ぇぇぇ!)
その場に生き残った(烙、インプ、キマイラ)面々は同時に思った。「答えて貰うわよ!五十嵐さんが何を掴んでいるのか!」
木刀を突き付けながら宣言したが、
「烙?!」
木刀を下げ前に出る。
「聞こえてんだろ!サタン!今から行ってやるんだ覚悟しろよ」
『ギギ、主ヲ侮辱スルヤツヲ生カス訳ニハイカナイ!死ネ!』
インプ、キマイラが襲いかかるが、
「遅い!」
パチンッ!
指を鳴らすとインプ、キマイラの周りに魔法陣が浮き上がり地面に縫い止めた。
『バ、バカナ!貴様、魔力ハ封ジラレテイルハズ!』
驚愕するインプに、『チッ、チッ、チッ』と鳴らし、
「たとえ、魔力を封じても俺には『神力』がある。それに、四霊との契約もある。それを、奴に伝えてから、死ね」
インプが最後に見たのは、澄み切った蒼い両目と邪悪満載な烙の笑顔だった。
それから一時間後。
『神宮 京介 後援事務所』
「神宮 京介はどこだ?あぁ!」
そこにいたヤクザ(ザコ)をボコボコにして、今回の事件の大元の居場所を聞き出そうとしていた。
『アゥ、ァ、ゥ……』
「あぁ!?聞こえんなぁ!」
ガスッ!ゴスッ!
一般人が恐れるヤクザをリンチに掛けている姿は、
「シュールだわ‥」
「判ったぜ。奴は県議会会場だ」
烙の尋問自体は数分程度で終わったのだが
『まだ、やる事がある』と言って事務所に入って行った。綾は仕方が無いので楓を連れ近くの喫茶店に入る事にした。
一時間後。地図と封筒を持って入って来た烙は開口一番に言った。
「何をする気なの?それに、証拠は?」
「証拠は有るし、万が一の切り札も有る。言うだろ…『細工は上々。仕上げはご覧じろ』ってな」
愛車のクーペに乗り会場に乗り付けると、烙は綾と楓を引き連れ議会に入った。
議場に入るなり楓が壁に寄りかかって苦しそうにしている。
烙は楓の背中と反田※(鳩尾のあたり)に手を当て
「発っ!」
「ありがとう、天野さん」
「依頼人は必ず守る主義だからな。ここの障気に当てられたんだろう…楓、これ以上一緒に居るのはまずい。外に親父さんを呼んでるから出てろ」
「んっ。解りました。天野さん、神巴さんも気をつけて」
二人は手を振りながら
「任せろ」
とだけ応え障気の奥に入って行った。
楓と別れた後は悲惨な状況だった。
障気に侵され倒れは無数の人々。
烙と綾は一番障気が濃い場所―屋上に出た。
そこには、自分のした事に気付いていない愚かな男とその秘書がいた。
「困るなぁ。依頼はきちんと果たして貰わないと……」
「喧しい!人の家を潰す野郎の依頼なんざ受けてられるか!」
「言いがかりは…」
神宮は反論しようとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。『貴様等を雇ったのは誰じゃ!』
一人は目の前の男。
『ひぃぃ〜!じ、神宮って政治家ですぅ!いつもあいつから依頼を受けてるんです〜!』
一人は先日、裏切り者の万屋を潰す依頼をしたヤクザの男。
『その証拠、全部だせ!』
『へ、へい!只今!』
そこでテープの音は切れ足元に書類の束が滑り込んできた。
そこには、今まで自分が依頼して来た裏の仕事の詳細などか記されていた。
内心の動揺を抑え神宮は笑みを浮かべ買収することにした。
「何が望みかな?金か?」
烙はニヤリと笑みを浮かべ神宮は買収の成功を確信したが次に吐かれた言葉は全く逆の言葉だった。
「慰謝料は頂く。貴様に望むのは…そうだな。今すぐ今までの悪行を世間様に公表して政治家生命に幕を閉じてもらうぐらいかな…」
「面白く無いなぁ…やれ!」
命じると後ろの秘書が人間離れの脚力と腕力で二人に襲いかかった。
「綾!頼む!」
烙は神宮に向け走り、即座に抜刀した綾が秘書を迎え撃つ。
「甘いわ!」
神宮は懐から灰色の石を取り出し
『我は、冥界と契約を交わす者。深淵の王よ。堕ちた王よ。我が望みを叶えよ!我に仇なす異端者に汝の暗き裁きを我は……』
『我を贄とし、汝に望まん!』
(うわ、最悪!)
悪魔に限らず異世界の住人はこの世界に顕れる為には『生贄』が必要である。無機物、有機物は問わない。必要なのは生贄の中に有る『負の感情』大きければ大きい程、現世召還された者の力が増す事になる。まして、
(自分が生贄になるなら殆ど同化だよな。変還効率だってバカになんねぇぞ!)
神宮の体が赤銅色に変化し、次いで体が徐々に盛り上がってくる。
烙は問答無用で切り札をだした。
プルルルル!プルルルル!
『はい、閻魔』
厳つい低音の声。整った顔立ちと着崩した着物が似合い右手に判子を持ち書類に印を押しまくっているこの男こそ、地獄をまとめている閻魔大王その人である。
『俺だ』
電話の声は無理な要求をした青年。
『おお、どうした?』
『〔レイの物〕を使う。承認しろ』
閻魔は渋い顔をしながら
『構わんが、あんなもん使ってどうする気だ?世界をぶっ壊すのか?』
『バカを叩き起こすだけだ。んな事言ってないでさっさと承認しろ!』
一枚の書類が机の上に滑り込んでくる。
『以下の者は第一級戦闘法具の使用を地上時間で三分間許可するものとする』
書類にはそう書かれ、最後に烙の名前が刻まれていた。
『承認する』
ドンッ!
印が押され、書類が虚空に消える。
「まだか?まだか?!」
その時烙を突如、炎が襲った。
煙の向こうで呼びかける声。
『天ノクん。よそ見はイけ無いヨ』
声の主は、悪魔と同化した神宮のものだった。『最モ、シンデは聞ク事もデキナイガね』
笑う神宮の声を遮る声が聞こえた。
唄う様に、祈る様に、諭す様に。
『我は、天と地。両極の覇者。真正の光。真正の闇。両極の使者。汝、我が分身の器にて無為の力。我が名はルシフェル。汝、我が名に従い顕れよ!』
煙が晴れ、見えたその姿は、背中に白と黒の羽を生やした烙。右手を広げ呼んだ。
「来やがれ!〔ドミニオン〕!!」
地面が割れ、黒い炎が烙を包む。
炎が割れ、現れたのは黒い甲冑に身を包んだ烙の姿だった。
「よう、待たせたな。我は、ルシフェル。堕ちた天使。天と地の断罪者。欲望にまみれた汝等を断罪する!」
『我が名に従い顕れよ』 完
次回予告
『サタンと同化した神宮。迎え撃つのは真の姿を見せた烙。両者の決着は?』
次回『汝に光の祝福と闇の断罪を』