寿命、譲渡します
俺は今、自分の部屋で首を吊って死のうとしている。
三十三歳、サラリーマン、独身男性。よくある理由で人生に絶望し、今まで何度も自殺しようとした。
しかし、今生きているということは全て失敗したということだ。勇気が出なかったり、死にきれなかったり……。
俺は今度こそ成功させようと首に縄を……。
パアァァァ……。
かけようとしたらいきなり天井が光だした。は? しかもそこから、いかにも『天使です』という見た目の女性が現れた。は?
俺が呆気に取られていると、天使が言う。
「そこの貴方! 自殺未遂を繰り返す前に私の話を聞いてください!」
天使が俺を指さす。なんか天使のイメージじゃない……。
だが……。
「なんで自殺未遂を繰り返しているって知って……」
俺がそう言うと天使は腰に手を当てて、えっへん! と得意気に答えた。
「天使にはなんでもお見通しなのです!」
あ、やっぱ天使なんだ。
「貴方、なんで今まで自分が死ねなかったか知っていますか?」
天使は問うがそんなこと俺が聞きたい。
俺の様子を見て天使は答えを話しだした。
「ずばり、『寿命』が残っているからですよ」
「寿命?」
と言われても何がなんだかわからない。そんな俺に天使は懇切丁寧に教えてくれる。
「寿命は神が生物に授けた運命。つまりそれが残っている限り死ねません」
俺は天使の言葉に絶望した。まだ絶望することがあるのかとさらに絶望した。
しかし、そんな俺に天使は笑って告げる。
「貴方におすすめのサービスがあります」
「サービス?」
「『寿命譲渡サービス』です」
……って何?
天使は続ける。
「昨今の情勢をかんがみて、寿命が残っている死にたい方の寿命を、寿命が無いけど生きたい方に譲渡するサービスが天界で始まりました」
はぁ、なるほど……?
「このサービス、利用しますか?」
まあ……死ねるならなんでもいいや。
「利用する」
天使は、ぱんっ! と手を合わせて笑った。
「契約成立ですね!」
「ところで俺の寿命ってどんな奴に渡んの?」
天使は顎に手を当てて、うーんと唸る。
「個人情報の観点からあんまり言えないんですけど、病気の子供ですね」
「ふーん」
天界にも個人情報とかあるんだ。
天使は気を取り直して俺に向かい合った。
「では、寿命を貰いますね」
天使が手をかざすと、俺の体が輝きだした。それから、俺の意識は暗転した。
気づいたら俺は、柔らかな光に包まれた空間に漂っていた。心地がよくて、何も苦しくない。自分という境目や時間の感覚があやふやで、これが死ぬってことなのかと思った。
ああ……死んでよかった……。
そんなことを考えていると、いきなり俺という意識が覚醒した。
「お久しぶりです~!」
目の前にはあの時の天使がいた。
「えーと……」
どういうことだろう。
戸惑っていると天使が言う。
「貴方が寿命を譲渡した方の顛末をお伝えしようと」
「個人情報の観点は?」
「それとこれとは別です」
ゆるゆるだな……。まあとりあえず聞くか。
「寿命を全うしたのか、そいつは」
「あー……それがですねー……」
天使は居心地悪そうに言う。
「社会の荒波に揉まれて死にたくなったんですって。残りの寿命を違う方に譲渡して亡くなりました」
ああ……そうか……。
「あの時死んでればよかったなんて言われたらサービス提供者も立つ瀬無くなりますよ~」
俺は呟いた。
「この世界で本当に生きたいと思っている奴はどれくらいいるんだろうな……」
天使は、そんな俺をただ見ていた。
「貴方の寿命の顛末はまたお伝えしますね」
天使がそう言ったのを最後に、俺はまたまどろみの空間へと戻った。




