異世界でアイドルやれって冗談ですよね!?
初投稿です、生温かい目で読んで頂ければ幸いです。
「またお祈りメール…」
ガクッと頭を垂れた私のオデコがテーブルにぶつかってゴツンと音を立てる。
近くの席にいた学生がびっくりした顔でこちらをみるが、何かを察したのか気まずげに目を逸らす。
幸か不幸か、私には見えていないのだけど。
涙目なのは痛みを訴えてくるオデコのせいだけではない。
ユイは現在大学四年生で、来年の3月には卒業予定だ。
三年の後期から始めた就職活動はもうすぐ一年になるというのに、結果は全戦全敗。
「今回は採用を見送らせていただきます」
「ユイ様の今後のご活躍をお祈り致します」
そんな定型文の不採用メールが20件を超えたあたりからは、数えるのをやめている。
友人が言うには、平均より低い身長やスレンダーといえば聞こえのいい幼児体型に童顔。
それに1番気にしているアニメ声。それらが社会人として相応しくないと思われてしまうのでは?ということだった。
ほぼ全員が地味なリクルートスーツに黒髪、控えめなメイクで挑む就職面接では、私の子供っぽさは更に際立ってしまうらしい。
最近では大学の研究室の先輩たちに、研究室に残ることを提案され始めた。
あと数年したらもう少し大人っぽくなってるかもしれないでしょ?って言う先輩の気遣いが心に刺さる。
中学の頃の私の画像見せたら、絶句してたけどね。うん、全然変わってないんですよね、悲しいくらい。
ってこんな回想してても仕方がない。
少し赤くなったオデコをさすりつつ、食べ終わった学食の食器を片付けるために立ち上がろうと腰を浮かせた。
午前に一社面接に行ったから、今日もリクルートスーツに黒パンプス姿の私は、リクルート鞄に手を伸ばす。
鞄を置いていたはずの床へ視線を向けたら、ぐらりと視界が揺れた。
最近は卒論と求人探しで寝不足気味だったから、立ちくらみかなヤバっと思ったところで、浮遊感と共に視界が真っ白になった。
体感としては、ほんの数秒だったと思う。
目を開けたら、そこはさっきまでの学食ではなく、白いテーブルと白い椅子のある、白い空間だった。
私はその白い椅子に座っていた。
最初に思ったのはこれ。
「え?私もしかして死んだ?」
なんか時々こんなシチュエーションの死後の世界あるじゃんね?
「死んでないわよ?ユイたん」
「はい?」
状況把握に努めて周りを見渡していた私が声がした方へ顔を向けると、対面の椅子にめっちゃ顔面が整った金髪美女が座っていた。
え、いつの間に?さっきの発言は貴方ですか?ユイたんて言った?いやいやそれより
「死んでない、って言いました?」
「言った〜!てか戸惑ってるユイたんもカワユス〜!」
「は?え?」
なんか目の前の金髪美女からめっちゃ流暢な日本語でオタクっぽい発言が聞こえたんですけど?何コレ夢かな?うん、夢だな。
「いつのまに寝ちゃったんだろ」
「えっと、夢じゃないっていうか〜あーでもある意味夢なのかも?身体はここにないわけだし〜?」
「なにそれこわい」
「大丈夫〜怖くない怖くない〜」
「いやそれ絶対信じちゃいけないやつ!」
胡散臭い笑顔(とはいえ大変麗しいですありがとうございます)で目の前の美女が何やら宥めてくるのに思わずツッコむ。
美女曰くどうやら私の身体は、学食のテーブルでうたた寝中らしい。少しほっとする。
「ていうか〜私のこと覚えてないのー?さっき会ったばっかりじゃーん」
美女がそう言って彼女の髪を指ですくと、黒髪黒目陶器肌の美女が現れた。
造形は変わってないけど、色が変わると日本人でも通りそうな。
「あっ!!!」
「気づいてくれた〜?」
今日の午前中、面接を受けた会社の人!!
めっちゃ美人だったから忘れようもない。てか彼女以外の人フツメンすぎて記憶にないくらいだもん。
「あ、え?一体どういうことですか?」
「だよね〜それ知りたいよね〜」
うふふ、と微笑む美女は確かに妖艶で目の保養なのだが、なんかちょっとムカついてきた。
「半目膨れっ面のユイたんもキュート♡でも嫌われたくないからちゃんと説明するね〜?
なんと、ユイたんの採用が決定しました!」
「はい?え?」
「おめでとう〜!」
「え、はい、ありがとうございます??」
満面の笑みで拍手を送る美女の言葉に半ば反射でお礼の言葉を返す。
拍手していた手を組んでからそこに顎を乗せた体勢で、じつは女神らしいその美女は、やっとこの状況の説明を始めてくれた。
ーーーーー
「つまり、今の状態を簡潔にまとめますね」
「キリっとしたできる女風ユイたんも萌える〜」
「ちょっと黙ってて貰ってもいいですか」
「辛辣で塩対応なユイたんも素敵〜」
はぁ、とため息をつきつつ、駄女神(もうコレでいい気がしてきた)の説明を確認する。
「今、女神様の管理する世界に危機が迫っている」
「そうなの〜なんか悪い気が溜まっちゃって〜」
「女神様は自分の世界の人間には大きな力を与えることができない」
「というか、力の器を持ってないのよね〜生まれつき」
「で、他の世界の、力を与えられる人間を探していたと。求人広告を出して」
「ある意味就職みたいなものじゃない?いい考えでしょ〜?」
はぁ〜と深いため息をつきつつ、私は駄女神に呆れた眼差しを向ける。
「色々と言いたいことはありますが、話が進まなくなるので1番聞きたいことを」
「なになに?なんでも聞いて〜」
「何で私なんですか?」
「そりゃ決まってるじゃない!」
ふんす、と鼻息を荒くした残念女神が瞳をキラキラさせて言った。
「ユイたんが可愛いからよ!タイプど真ん中なの!」
ゴツン!
私はもう、テーブルにぶつけたおでこの痛みすら気にする余裕が無いほど落ち込んだ。
採用の言葉にうっかり喜んでしまった自分を殴りたい。
いやでもさ、不が付かない、採用だよ?このまま100不採用いくんじゃね?なんて自虐してた私が採用されたなんてさ、そりゃ喜んじゃっても仕方なく無い?
「楽しみだわ〜ぜったい似合うと思うのよね、コレもー、あれもー、あ、これも捨て難いわ!」
テーブルに突っ伏したまま、チラっと残念女神を見上げれば、空中にヒラヒラしたアイドルっぽい衣装をズラっと並べてウキウキと選んでいる。
「わ、た、し、は!絶対そんな衣装着ないし!アイドルなんてやりません!」
「えええええええ!!!」
この世の終わりを見た、というような顔をした女神が、鬼気迫る勢いで仕事内容を再度力説してくる。
曰く、
悪い気(瘴気?)を払うためには聖女の歌と踊りの奉納が必要だということ
曰く、
聖女の歌と踊りは、日本のアイドルの歌とダンスが最も望ましいこと
元々可愛いものに目がない女神は、異世界を覗き見ることのできる奇跡(なにやら神という存在はすべからくこの奇跡を扱えるらしい。世界を健やかに運営するための情報共有だとか)で地球の、特に日本のアイドルを見て衝撃を受けたらしい。
お仕事の傍ら、日本のアイドルの音楽動画を公式非公式問わず鑑賞しまくった女神は
その結果、立派なアイドルオタクへと成長してしまったワケである。
その頃、他の世界から比べるとまだまだ若い、出来たての女神の世界には悪い気が発生し始めていた。
生き物がいる世界では、憎悪や嫉妬、飢えや病といった陰の気がどうしても溜まってしまうものらしい。
少しであれば人々の女神への祈りを受け、女神の奇跡で浄化することが可能なのだが
女神がアイドル推し活にうつつを抜かしている間に、いつの間にか悪い気が溜まって
少しの奇跡では浄化しきれない状況まで来てしまったのだとか。
いや女神なにやってんの?仕事しろ!
で、女神の奇跡の力を増幅するために、異世界から力の器を持った聖女という名のアイドルをを召喚して
女神のオタクパワーで各地の浄化をしようと考えたと。ばかなの?
出来れば可愛い未成年の、磨けば光る原石を見つけて拉致。。もとい召喚したいと考えた犯罪者予備軍女神だが、流石に地球の神にゲンコツされた。当たり前だ。
で、地球の神はうっかり駄女神が未成年を拉致したりしないように制限をかけた。
就職活動してる成人が了承した場合のみ、召喚を許可したってわけ。地球の神グッジョブ。
お祈りメールが届く度に神も仏もいない!とか言ってて申し訳ない。ちゃんといたのね神様。
で、その駄女神がなにやら怪しげな奇跡とかってパワーで用意した面接会場にのこのこ現れたマヌケがこの私って訳。誰が合法ロリじゃ!!
ギリ犯罪者になりたくない、ロリコン野郎達に告られること星の数。キモすぎる!
そんな犯罪者予備軍たちに見初められないように、もともとそんな好きでもなかった可愛い服は断捨離し
サイズの合うボーイズ服ばかりで身を固め、スカートといえば今着てるリクルートスーツのみ。
そんな私にアイドルやれって冗談キツい!断固拒否!
「というワケで帰りますね」
「ユイたん〜お願いよ〜ホントに世界がヤバいのよ〜助けて〜」
立ち上がった私の足に駄女神がすがりついてくる。土下座でもしそうな勢いだが、駄女神の土下座にどれ程の価値があるというのか。
「それって貴方の世界の話ですよね、私に関係あります?」
「そんな路肩の石を見るような無表情で!えっ怖かわ…いや待って!ただとは言わないわ!」
「…給料制なんですか?」
「モチのロンよ!採用だって言ったでしょ?地球の神めっちゃ怖いからぁ、すごくホワイトな就業契約だから!」
モチのロンて。過去の動画まで視聴しまくってたなこの駄女神。
「でも地球に帰れないパターンなんじゃ」
「ライブの時だけ転移で大丈夫だから!」
うっかりライブとか言ってんじゃねえぞオタク駄女神が。
でも、地球での生活は今までのまま、仕事の時だけ転移できる特別待遇だとか。
なるほどそのパターン可能なんだ?てっきり拉致&帰還方法なしの王道パターンかと思ってたよ。
「ちゃんと地球の日本円で払うし、こっちの貨幣も必要経費として前払いするわ!」
「ほうほう、ちなみにどのくらい?」
「全て契約書に書いてあるわ!地球とこちらの世界両方で厳守するよう、私の加護契約もつけてあるわ!」
駄女神が早口でまくし立てながら、契約書らしき薄い冊子を差し出してくる。
さっきまでの間延びした話し方どこいった。
一応、一応ね。就活全戦全敗崖っぷちの私。アイドルなんて絶対嫌だけど、聖女なんて言われたら悪い気はしないし?一応どんな契約なのか見るだけだから。うん。見るだけ。
「…コレマジ?」
「マジもマジ!私女神だから!女神ウソつかない!」
ものすごい高待遇。思わず片言になるほど。
実際に給料を払うのは神殿らしいけど、あちらの世界の貨幣は地球に戻ってくる時に女神が日本円に換金してくれるらしい。
「マネージャーとボディガードは凄腕を用意するし」
「おそらく神官と神殿騎士のことね、そりゃ優秀な方が助かるけどさ」
「ステージも音響も演出も最高のものを準備するから!」
「多分、地方の神殿のことよね?あと、女神の奇跡を無駄使いしようとするの辞めてくれない?」
だんだん私の受け答えがぞんざいになってくるのも仕方ないと思う。
この女神自分の欲求に正直すぎる。
延々と続く駄女神の懇願と、最終的にはこれ以上ないくらいの高待遇に絆されて(目が眩んだとも言う)契約書に署名。
異世界で未曾有のアイドル聖女ブームが巻き起こることになるのは、もう少し後のこと。
ユイたん(笑)は成長が止まる頃までは普通の、アイドルも好きな、女の子でした。
高校からはスカートを嫌がってジャージ着用、ショートカットでボーイッシュなキャラで通していたので
アイドルのヒラヒラ衣装を恥ずかしがる様子がさらに萌えを加速させたとか何とか。
就職活動で少しでも大人っぽく見せたいと伸ばしていた髪は今、肩より少し下くらいです。
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