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初めまして、婚約者様

作者: 雨空レオン
掲載日:2025/10/11

「お前との婚約を破棄する!」


 卒業パーティー。突如私は舞台前に出てくるように名を呼ばれ、何事かと思いながら進みでたら見知らぬ方から婚約破棄を宣言された。侍女のナミに私は目を配らせ、『誰、あれ』と問い掛ければその視線を正しく理解し「お嬢様のご婚約者、ラスベ伯爵がご子息のダレン様でございます」と答えてくれた。ラスベ・ダレン…記憶にないが彼女が言うならそうなのだろう。


 私はそっと礼をとり


「お初お目にかかります、ラスベ伯爵子息様。婚約破棄とのこと承知致しました」


 用は済んだと私は元のテーブルに戻ろうと踵を返そうとしたがそれを呼び止められた。


「まだ何か?」

「婚約破棄の理由をまだ述べていないだろうが!貴様は俺の愛する女性、ミランダ令嬢を悪意持って陰湿な嫌がらせを繰り返していただろう!」


 誰ですの、ミランダって。


「ラスベ伯爵子息の腕にこれでもかと慎みのない胸を寄せてわざとらしい憂い顔をしている方にございます」


ナミ、あなた丁寧に言えば暴言を許されると思ってる?まあ、私に言われているわけではないからいいかしら。

 

「ええと、それは事実無根ですので否定させていただきますね。婚約破棄に関しては了承致しますが、覚えの無い罪を着る気はありませんので」

「しらばっくれる気か!」

「事実にございます。そもそも嫌がらせの内容も知りませんし、何よりそのようなことをする動機もございませんので」

「動機ならある!」


 あらなんでしょう。全く心当たりがないのですが。


「俺の寵愛を受けられなかったことによる嫉妬だ!」


 …ほんと心当たりありませんわね。


「…ねえ、ナミ。全く覚えはないのだけれどあの方は私の婚約者だったということでいいのよね」

「はい、麗しい顔の中身に色とりどりのお花を植えていらっしゃる方がご婚約者でございましたね」


 見た目はいいが中身は色にボケた阿呆と。


「…婚約者がいて他の方を寵愛するというのは私の中では不貞や浮気というのだけれど世間では違うのかしら?」

「いえ、お嬢様の仰る通りそれは世間でも下半身ゆるゆるパッパラーパのいかれぽんちと申します」


 私そこまで言ったかしら?…つまり、これはそういうことよね。


「なぜ私があなたの寵愛を受けなかったからと言って嫉妬するのでしょう?お顔を見たのも初めてですのに。ねえナミ、私あの方といつから婚約していたのかしら?」

「お嬢様が六つの時にございます。本来婚約を交わすときに顔を合わせ挨拶する場が設けられるはずだったのですが、ラスべ伯爵子息は伯爵夫人を大変敬愛しており、伯爵夫人と結婚するから婚約なんかしないと駄々をこね書類のみで婚約をかわされております」


 所謂マザコンなのね。子がどう言おうと結婚とは家と家の繋がり。子がなくても契約はなされるもの。


「季節のご挨拶や贈り物、パーティーのエスコートはあったかしら?」

「一度もございませんし、お嬢様も同じくでは?」

「…それもそうね」


 流石に記憶にあったら最低限の交流はするわよね…いや、しないわ。だって私、そういう方となら婚約するってお父様に幼い頃にお願いしたもの。それがお父様との契約。


「お聞きのとおり、お互い何も婚約者としての交流はおろか一度も顔を合わせておりません。そんな方に寵愛を求める理由もありませんわね。欲していませんし」

「つ、強がりを!!私が声をかけなかったからだろう!」

「私からも声をかけておりません。あら、私の寵愛をお望みでしたの?声をかけないということは」


 構われたがりさんなのね?面倒なこと。


「とりあえず婚約者の不貞による有責で婚約破棄…そういうことでよろしいですわね、お父様?」


 卒業パーティーとなれば保護者である親がいるのは当然。勿論あちらのマザコンで脳内お花畑の方や慎みのないお胸をした方も。


 お父様は顎髭をさすり頷いた。

 

「そうだな。とりあえず貴族同士の婚姻を勝手な浮気で破棄したのだ。そこな男爵のご令嬢の家にも責任を追求させてもらおう。それと契約通り、お前は婚姻せず好きに今後も魔導具の開発をするがよい」

「ありがとう存じます」


 お父様にお辞儀を返す。伏せた顔はついぞ淑女の笑みを忘れこれからの事に興奮が抑えきれない。


 ああ、次は何を開発しようかしら。防壁魔術を組み込んだイヤリング、盗聴防止のカフスボタン、それとも指輪に変身魔術を組み込んだものがいいかしら。


「待て、なぜ子爵家の令嬢が魔導具の開発をする…?」

「好きだからですわ?あら、よく見たらラスべ伯爵子息様も私の開発した毒無効のイヤリングをされておりますのね」

「開発しただと?毒無効のイヤリングは私が幼い頃に母上から贈られたものだ!嘘を吐くな!」

「ええ、私が幼い頃に開発したものですもの。ねえお父様?」

「うむ、我が娘が開発した。そして婚約を結んだ際に友好の証としてラスべ伯爵夫妻に贈らせていただいたがなにか?」

「は?いやなぜ子供がこんなもの作ることができる!?」


 …何故と言われれば私が前世の記憶持ちだからでは?こことは異なる世界で魔法はなく科学が発達した世界でしたけれど。その科学知識とこの世界にある魔法を組み合わせ、前世で物語で見たもの、実際にあったものなどを論理を組み上げ作ることが楽しくて楽しくて…。魔法に特化した世界故に意外と科学の発達が弱いのよね。魔法を常時展開しなくても使える道具を現実にしたときの達成感たるや。


 両親には最初は驚かれましたがすぐに受け入れてくださいました。前世の記憶があるだけで二人の娘であることにはかわりありませんし。


 しかしこの国は貴族社会で男社会。私の開発するものは軍事利用も可能になってしまうという危険性から家格が上の家と婚約を結び地盤を固めようと考えて下さったお父様ですが、私は結婚や貴族夫人として活動することを願えませんでした。


 なのでお父様には【婚約・結婚していても放置をしてくれる】【私の開発に横槍を入れない】【私の開発したものを悪用、流用、横流しをしない】【子を求めない】家ならば婚約を結んでもいいとしました。


 つまるところ名ばかりの夫婦、実態独身という体制を貫かせてくれる家ならば嫁ぎましょうと。…籍を入れても開発ラボのある家から離れる気はありませんでしたけど。


「ねえお父様。娘の我儘を一つ聞いてくださいます?」

「なんだ?」

「婚約解消して愛する方と婚約を結ぶまっとうなやり方をするなら何も思わなかったのですけれど、流石にこんな衆人環視の中で不名誉な言いがかりをつけてくる方に私の開発した物を持たれているのは気分がよくないわ」

「ふむ、なら今後一切…今おろしているものを含め両家には魔導具の販売も譲渡も認めないというのはどうだ?」

「あら素敵。それなら陛下からもお許しを願わなくてわ」


 パン、とついはしたなく手を叩き喜びの声を上げてしまう。


「待て待て!なんで陛下の名が出る!?」

「なんでって…お得意様ですから?」


 毒無効の指輪を開発したときすぐに父は陛下に謁見を願い、私は父に連れられ登城しました。


 そして私は己の指輪の効力を証明するため陛下の前であらゆる毒を飲みましたわ。どのような毒を飲んでも指輪に込めた毒無効の魔法が素早くなんの毒かを分析判断し、解毒魔法を発動させることで無効化させるのです。


 陛下はいたく気に入ってくださいました。高貴なお方であれば常に御身を守る為に警戒が必要ですものね。その他にも私が開発したいと考えているものの話を聞いて関心して下さいました。

 年の合う王子がいればすぐに婚約させて手元に置きたかったと戯れのお言葉をいただきましたが、王子妃になんてなったら開発する暇なんてございませんでしょうと子供の戲れとしてお返しさせていただきましたね。


 だから陛下は我が家の後ろ盾になって下さいました。それでも貴族の未婚女性は立場が弱いために婚約を…となって私達の婚約話が結ばれたでしょうにね。


 国王陛下の後ろ盾ある女をこうして公衆の面前で罵倒し恥をかかせたこと…それがどういう意味を持つかおわかりかしら?


「ナミ、国王陛下はこの余興を楽しんでくださるかしら?」

「ええ『相変わらず愉快な娘だ』と笑っておられますね。あまりの大声に私の鼓膜が敗れそうです」

「は?何を…?」

「ああ、ナミは私の侍女ですが雇い主は国王陛下ですの。私の知識や技術がよそへ漏れることを防ぐため、もしく私が拐かしなどに合わないように守る為の護衛侍女です。私の開発したイヤリング型通話機器と眼鏡型映像転送機器でわたしの様子は常に王家に把握されておりますの」

「…」


 あら、お顔が随分真っ白になってしまわれましたわ?道化のメイクが映えそうですこと。さて、今度こそお話はおしまいでいいわよね?


「では改めまして、初めて相まみえることになった婚約者様。謹んで婚約破棄を承りたいと存じ上げます」




 私はそっとお辞儀をし、意気揚々とこれからの楽しい開発ライフに胸を躍らせるのだった────

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