第5話 異能とは?③
異世界というものは、当たり前だが地球とは違うもので、見たことない動物がいたり、植物があったりする。違う文化があったり、違う生き物が住んでいたり、とどのつまり常識が違うのだ。身近な例で言うと、地球と火星では時間の流れが違う。火星の一日は地球よりも少し長い、一年に至っては地球の約二倍の日数を要する。これは太陽との位置関係によるもので……。まあつまり、太陽系の中でさえ色々と違うのに、異世界が地球と同じわけないのだ。
顕著なのは住んでいる生き物であるが、それよりも気になるのは、時間の流れだ。
どうやらこの世界に細かい時間の概念はないらしい。漠然とした時間は理解できるらしいが、一時や二時などの言葉はなく、朝、昼、夕方、夜とかだけだそうだ。星時計と言うものを使ってそれを把握するようだが、最近できたばかりで田舎にまでは届いてないらしい。
彼女達はそれで一日の時間を把握する。まだ来たばかりで分からないが、地球と変わらない重力、太陽の温かさだったりするのを見るに、オレをこの世界に送った人たちはできるだけ同じ環境の異世界に送ろうとしたのだと推測できる。ゆえに一日の長さも同じくらいだろう。
それが一日であり、もちろん一日があれば一週間が、そして一年がある。この世界では五月五日などの明確な日にちをこの世界独自の日付表現を使って表している。そしてここで大事になってくるのは、一ヶ月の概念がないという事だ。あるのは一週間と一年のみである。
この世界では一週間は八日であり、こう表される。水の日、金の日、地の日、火の日、木の日、土の日、天の日、海の日だ。つまり、この世界は八日を一週間とし、それを繰り返しているというわけだ。そしてその繰り返しを五十回繰り返すことで一年が経つらしい。○回目の地の日みたいな言い方をするのだそう。
まとめると、一週間は八日であり、一年は四百日である。
「よし!」
さて、日付の話も面白いが、今は狩りだ。オレは今、斧を持っている。
「そうだ、マナブ。ゆっくり近づいて斧を落とすように振るんだ」
ジワリジワリとプニイムに近づくオレ。そう、現在オレ達は草原にいる。無事に森を抜けることに成功したのだ。
プニイムと呼ばれる生き物。ゲームとかで当時する弱い生き物と見た目は似ている。まるまるしていて、プニプニしていて、異世界ものでよく出てくるスライムという生き物だ。目はまるまるしていて可愛い。草を吸収するように食べており、オレはそんなプニイムに斧を持って近づいているのだ。
どんな感触がするのだろうか、ワクワクしながら斧を振った。
斧はプニイムを一刀両断し、その柔らかさに驚愕する。
ぷぎっィ! と叫びながら二つに分かれたプニイムは溶けるように萎んでいった。
まるで豆腐を切るように呆気なく。先程まで食べられていたであろう草の残骸が残る。プニイムの死体である萎んだ何かを見つめながら、オレは斧を握り続けた。
プニプニと動きながら草を捕食していたプニイムはもういない。
オレが斧を下ろしたから。
「……」
好奇心は満たされた。豆腐のような感覚なんだと知れて笑顔になれた。プニイムが死んだらどうなるのかも知れた、シワシワになるのだと知れて嬉しかった。
でも、それでも……オレの両手は斧から離れない。
硬直したオレの体、十数秒ほどそのままの体勢でいると、シェリーダさんはこう語りかけてくれた。
「……命を奪うってのはこういうことだ」
「……はい」
「後悔してるか?」
「いいえ」
「そうか、じゃあ向いてるかもな、私のような仕事」
オレは斧を持ち上げた。
獲得したポイントは十ポイント。あと四体狩らなければならない。
後悔はしていなかった。これは必要なことだから、それに色々と知れたし。
でも、罪悪感がオレを襲う。
シェリーダさんはこう語る。
「私もさ、こういう仕事してるから、毎日心の中で感謝と謝罪を繰り返してるんだ。どんな小さな命でも簡単に奪っちゃいけない」
萎んだプニイムを袋に入れながら、シェリーダさんはこう続ける。
「だから、無駄に殺傷はしない。殺しには、覚悟と責任が必要なんだ」
オレだって、殺しをしてこなかったわけじゃない。子どもの頃は蟻の巣に水を流したし、虫がいたら捕まえて実験したこともある。ただ、大きくなっただけなのに、可愛くなっただけなのに、それだけでここまで罪悪感を覚えるのだと、驚愕する。
その罪悪感に興味はある、なぜそれが生まれるのか気になる。
でも、今はもっと気になることがあるから。
オレはあそこにいるプニイムに近づいて斧を振った。
ぷぎぃっと叫んで死んでいった。
オレは笑顔でこう答える。
「ありがとうございます、シェリーダさん」
「……そうか、ああ、おう!」
オレは覚悟と責任を覚えた。
これからも、オレは生き残るために生き物を殺さなければならない。泣きたくなる時もあるかもしれない。でも、それでもシェリーダさんの言葉を思い出して生きてみせる。
感謝と謝罪、そして覚悟と責任を。
オレは、この言葉を忘れずに殺しを遂行する。
「おりゃ」
この後、プニイムを三体倒して、無事に五十ポイント達成した。すぐに寿命を購入し、オレは明日の朝まで生きれるようになる。
「ぷににー!」
仲間のプニイムが死んだというのに、先ほどまで生きていたプニイムがいた場所をコロコロと転がるプニイムさん。
オレはそれを見て、ふと疑問に思った。
こうも危機感のない生物しかも弱いとなるとどうやって種を存続させているのだろうか。
気になったので訊いてみた。
シェリーダさんはこう言う。
「量が多いんだ」
「なるほど」
「プニイムの素材は薬になる、この乾燥したシワシワの素材を潰して粉にするんだ。……上手い人は殺しても枯らさずにプニプニのままで残すこともできる、その素材は緩衝材などにも使われるんだぜ」
「すごい! 色々な用途に使われているんですね!」
オレはワクワクした。そしてこう決める。
決めた、まずはポイントを貯めて図鑑を買おう。知りたいんだ、魔物について。
夢を胸に抱きながら、オレは笑顔でこう言った。
「物知りなんですね!」
「ああ、小さい頃、親からいっぱい教わったからな……」
オレはたくさん質問しながらその話しを聴く。
「で、あるからして、うんたらかんたら……」
そんな話を聞きながら、オレは歩く。ふと遠くを見ると、村のようなものが見えた。
目を輝かせたオレは、こう思う。
もうすぐだ。もうすぐ町に着く。知れるんだ、この世界の文明を!
「ようこそ!」
そして到着した。ここはフィアード町。
城門などはなく、あるのは木の柵のみ。石、木で作られた家が並び、特に大きな家もない、平凡な町。だが農業をしているようで、田畑はあった。
ど田舎である。
オレはワクワクしながらその町に足を踏み入れる。『ようこそ』と言ったシェリーダさんはこう続けた。
「ここは我が故郷、フィアード町。なんもないところだけど、楽しんでってくれよな!」
刹那、怒号が聞こえた。
「シェリーダ!!! また勝手に私のグラトルプスを連れ出したな! あれは私の所有物だと何度言えばわかる!!」
現れたのは、少し太っている女性だった。彼女はオレ達の後ろにいたグラトルプスに近づき、吠えもしないグラトルプスを優しく撫でる。そんな彼女にシェリーダさんは言った。
「相変わらずお姉ちゃんは頭が硬いな。いいか、父さんは私たちに残してくれたんだ!」
「いいえ私にです! あなたには弓があるでしょ!?」
「いや、これは子どもの時に!」
ガヤガヤガヤと喧嘩が始まる。面白いなと思いながら、オレはこう言った。
「グラトルプスってどっちに懐いてるんだろう?」
「ああもう! これ以上火種を作るな!」
「てか誰この子!?」
彼女たち二人に怒られてしまいました。
どうやらオレは賑やかな町に来ることができたようだ。知りたいこともいっぱいあるし、さあ、探検するぞー!
そんなことを考えながら、喧嘩するシェリーダさんを置いてオレは町を散歩し始める。
さて……異世界生活を楽しみますか。