第4話 異能とは?②
「グラトルプス」
「そう、それがこの子達の名前」
シェリーダさんはそう言いながら狼を撫でた。どうやらこの二つの口を持つ狼はグラトルプスと呼ばれているらしい。
オレは笑顔でこう言った。
「グラトルプスって、肉食なんですか?」
「そうだよ、この子達は肉を食うんだ」
そう言うはシェリーダさん。シェリーダさんは虎のようなモンスター……そう、虎よりも牙は鋭く目は三つあり髭がナイフのように尖っている虎の頭の剥製を脱いだ。彼女の顔を見た時の安心感は異常であった。
この鬱蒼としている森が、爽やかだと認識するまでさほど時間がかからないほどに。
それほどまでに、同じ人の見た目をしている生き物と出会うのはガソリンが切れるギリギリでガソリンスタンドを見つけるくらいホッとするのだ。
そんな彼女の顔には爪で引っ掻かれたような赤い線が入っている。自分で書いているそうだ。目はぱっちりしており、全体的にシュッとまとまっている顔をしている。髪は纏めず、だらんと流すストレートであり、長さは背中辺りまである。髪色はやや暗めの金髪であった。
そんなシェリーダさん、シェリーダ・マートンさんは狩りを行っていたらしく、それを生業としているらしい。
オレは今、そんな彼女と焚き火を間に入れて話していた。
少し前、オレは彼女の基地に連れてこられた。そこには簡易的なテントがあった。安心だ、これで寝れると思ったが、腹は減るもので、夜ご飯確保のためにそこにあった料理道具を使って一緒にご飯を作ることになったのだ。そして、狩りで獲得した肉を焼いている。
現在時刻は夜であり、下校中に襲われた事もあってもう充分お腹は減っていた。ゆえに完成した料理に勢いよくかぶりついた。
この肉は美味い。どのくらい上手いかというとたまに行く回転寿司くらい美味いのだ。あのドキドキのワクワクは庶民の学生が味わえるかなり良いイベントである。今回はそれに加え、登山した後のおにぎりのように、疲れた体に肉汁という旨みの詰まった味がガツンと沁みているのだ。不味いわけがない。
そしてオレは、そんな肉をグラトルプスたちと一緒に頬張っていたのだった。
オレはモグモグとそれを噛んだ後、飲み込んでシェリーダさんとお話した。このお話という行為も、誰かと食べている時の醍醐味なのだ。
「これ、なんの肉なんですか?」
「オウドュム。肉といえばこれだな」
「へえ、有名なんですね!」
「そうさ」
「そんなモンスターを狩っているなんて、流石です!」
「うんうん、もっと褒めてくれ」
「どうやって狩ってるんですか?」
「こう、弓でばしゅんとな」
「すごい! 弓があるんですね! それに使えるなんて!」
「すごいだろ、見てみるか?」
「はい!」
オレはシェリーダさんの弓を手に取って見た。特筆すべきこともない弓であった。
だが、確かな使い込みと大切にされているのであろう丁寧な仕込みが見える。
「安物だが、私の大切な弓なんだ」
「なんで安物を?」
「貰ったんだよ」
「大切な人にですか?」
「ああ」
「素敵です」
オレはそっとそれを返した。シェリーダさんはこう言う。
「そんなことよりも、あたしゃ君の力の方が気になるよ。まるで魔法だった」
「……魔法?」
「……魔法も知らないのか?」
「教えて欲しいです」
「魔法は魔女の力さ。人を捨てし、魔に身も心も売った女のね」
「……忌避されてるんですか?」
「当たり前さ。魔法は誰でも使えるわけじゃない。恐ろしいものなのさ」
「……なんで誰でも使えないんだろう?」
「わからない。私はろくに勉強してないからわからない」
「なんで勉強しなかったんですか?」
「弓を撃つほうが楽しかったのさ」
「それで狩りができるくらい上手くなったんですね! すごい!」
「はっはっはっ! もっと褒めな! さあ、次の話に移るよ!」
「いえーい!」
オレはこの後もお話を聞いた。たくさん、たくさん、いい話を聞けた。
例えば、甘党に目覚めたシェリーダさんは最近お菓子作りにハマっているだとか、眠れない夜はグラトルプスに抱きついて寝るだとか、ボディペイントにハマっているだとか、オレのことが気に入っただとか、色々と話を聞いた。
そして、オレは満足して寝る。グラトルプスのバクくんに抱きついて寝てみたのだ。もふもふと柔らかい毛皮、しかしそのせいで痒くなってしまう。起きてからは暇さえあれば体を掻いていた。
「あ、シェリーダさん、おはようございます」
オレはオレを噛もうとしていたグラトルプス、ギロリちゃんの頭を撫でながらそう言った。
シェリーダさんはこう言う。
「早起きだね、感心感心」
そしてこう続けた。
「マナブは町に行きたいんだったよね?」
「はい」
「じゃあついて来な。お姉さんも町に行くところだから」
「やった、ありがとうございます!」
オレはシェリーダさんと共にこの森を歩いて出る事にした。本当に彼女がいてよかった。遭難は回避できそうだ。
いろいろ準備していざ旅立ちの時。
道中オウドュムがいたのでシェリーダさんは矢を当てていた。
丸まった羊のような見た目であった。本当に球体だ、毛がもふもふしていて柔らかそうである。
シェリーダさんは死んじゃったオウドュムを触って「こいつ肉質がいいな」と言う。気になりオレも触ってみた。プニプニしていた。
ふとポイントを思い出し見てみる。ポイントは入っていなかった。どうやら近くにいる、オレが仲間だと思っている人が殺してもポイントはオレには入らないらしい。
そしてメディカルサーチも見てみる。
オレの寿命は残り十二時間を切っていた。
あと半日くらいかと思いつつ、シェリーダさんに訊いてみる。
「すみません、ローモンスターってこの辺にいますか?」
「ローモンスター?」
「たぶん、弱い魔物みたいなやつだと思います」
「ああ、それなら草原にいるね。なんだい? 見たいのかい?」
「いえ、狩りたいんです」
「なんだい? 素材が欲しいのかい?」
オレは考えるまでもなく即答した。
「どんな感じか知りたくて」
シェリーダさんはきょとんとオレを見つめる。
理解できないと思いながらも、彼女は納得したようだった。シェリーダさんは微笑んでこう言う。
「わかった、行こうか」
「はい!」
オレは、ワクワクしながら彼女と共に草原へ向かった。