第13話 戦いの理由とは?③
一触即発の空気の中、オレは微笑んだ。そして逃げ始めたルルちゃんたちと炎を操る男を交互に見て、間に合って良かったと思いながら盾を消す。
この一週間で軽く異能について知ることができた。
オレの力は解析の力。情報処理能力、観察力などが上がる。簡単に言えば頭をスーパーコンピュータにする力だ。その力で解析を行い、それに対応して盾の強度は上がる。
炎を解析してそれに対する盾を作る。すると防火の力が強くついた盾になるのだ。しかし殴れば壊れてしまう。逆に、パンチを解析してそれに対する盾を作る。すると衝撃に強い盾になる。しかし燃えて溶けやすくなる。解析に時間をかければ防火で衝撃にもある程度耐えれる盾を作ることができるのだが、そこまで戦闘が長引くことはないだろう。
そしてこれは今知ったのだが、どうやら能力者が使う炎は普通の炎とは違うらしい。燃えている原理が違う。酸素が燃えてとかそんなんじゃない。そこに炎を出す力なのだ。つまり、一から解析をする必要がある。
だからその辺で燃えている炎を解析しながらここにきたのだ。ゆえに上手く炎を受けることができた。
おかげで女の子を守ることができた。
だけどすぐに綻びが生じる。溶けてきたのだ。
オレの服が燃えない熱さなのに溶けるのだ。
まだまだ弱い、弱すぎる。
オレがこの炎に当たれば火傷じゃ済まないんだろうが、それでも盾としては心許ない。
基本が衝撃耐性なため、他の耐性に切り替えるには時間がかかる。
でも大丈夫だ。オレの好奇心はまだまだ上がる。
オレは目を輝かせてこう言った。
「あなたが人を殺したんですか?」
「……マジカルびっくりだぜ! 地球人か、お前」
「はい」
「いいねいいね、オレ、地球人大好き! お話ししよう! お前は何人殺した?」
「……誰も」
「んだよ! お前マジカル腰抜けかよ! どうせ魔物だけ狩ってきたんだろ!? ひよっこめ」
その言葉が少し引っかかり、オレは眉をひそめる。
「貴方は殺してきたんですか? なんで?」
「んー? 普通に魔物より人殺した方が楽だろ。ポイントも多いし。ああ、マジカル面白い話があるんだぜぇ! この世界に来た日にさ、子どもたくさん焼いたんだよ! 怒ってた女も焼いた! 男も焼いた。焼き芋焼くみたいにな! 焼き芋より臭え匂いしたけどな!」
「……焼いた。なんで焼いたんですか?」
「なんで?……だから、楽だから」
「……それが性癖とかそういうのじゃなくて?」
「うん。ただ楽だから焼いた」
何かがぷつんと切れる音がした。何か理由があるのだと思っていた。その理由を知りたかった。
理由があれば考慮はできただろう。でも、なかった。想いも、やる気も。
酷いものだ。オレは、敵意を示してこう叫ぶ。
「生き物を……」
それはシェリーダさんの言葉。
この世界に来て、最も大きな学びを得れたその言葉を、オレはこの先、一生忘れない。
「人を殺すのなら、覚悟と責任を負え! それができないんなら、同族殺しなんてやめろ!」
きっと、人が死ねばその親族達が悲しむ。悲しむ顔は見たいけど、心が痛むから。
オレは全力で、意味のない殺傷を止める。
「マジカルぶちギレ。お前みたいな説教マシーンはもうゴリゴリなんだよ」
オレはそんな言葉を放つ彼を見て、少しワクワクした。悪いことだ、でも我慢できない。
だって気になったんだから。
「もしかして、今まで説教され続けたの?」
炎がオレを襲う。彼は言った。
「お前嫌い。もうお話しない」
「……しようよ、マジカルお話」
オレは緊張ゆえの笑みと、生ぬるい汗を浮かべてそう言った。
炎は町へも向かう。だがそれも全部、盾を壁のようにしてせき止める。もう誰も殺させない。
オレの力は守りにおいてはかなり強い。盾を出せる距離はだいたい十メートルくらい。やろうと思えば見える範囲ならどこでも出せるけど、狙った場所に出せるのは十メートルくらいが限界だ。そして数の制限はない。だけど増えると増えるほど出す場所はおかしくなっていくし、強度が低すぎる低品質なものが出来上がっていく。
そこのバランスを見極めて守り続けろ。
「……」
ふと脳裏を過るルールブックの一文。
人に眠る内なる欲求を視覚化したものが異能。
オレの力は守るためのものじゃない。
「……」
いや、オレのことなんてどうでもいい。それよりも、どんな欲求をしてたら炎の能力なんてものが得られるのかを考えるんだ。
知りたい、聞いてみたい。
オレは奴に怒りを覚えている。だが、それとは別に、好奇の視線も向けていた。
「もしかして、家が焼けた経験とかある? いや、焼き芋、焼き芋が美味しかったから食欲とかかな?」
「マジカルうるさい」
「知りたいんだ、君のこと!」
オレは盾で炎を防ぎながら会話する。何度も何度も呼びかけながら。
「教えてよ、君の名は!? どこ出身なの? 好きなものは? どんな欲求を持ってるの?」
「マジカルうるせえ」
「……!」
彼は笑っていた。分かりずらいが、あれは笑みを堪えている笑い方だ。
なぜ笑う。この盤面でなぜ笑う。
炎は防いでいる。人が死んでるわけじゃない。引火して焼けている場合もあるが、殺人を楽しむタイプはそんなんじゃ喜ばないはずだ。
じゃあなぜ。
馬鹿にされているのか。いや違う、今までの会話を鑑みるに彼は物事を直接伝えてくるタイプだ。
であれば何故。
オレがしていたのは会話と守ることだけ。そのどちらかがトリガーになった。
まて、彼はなぜ会話に乗ってくれたのか。
それは会話が好きだから。
ならばなぜ会話が好きなのか。
「……教えてよ」
「……」
「教えてよ」
「……」
「気になるんだ、君のことが!」
「ぶっは!」
笑いを堪えられなくなったように彼は勢いよく笑った。そしてこう言う。
「ぶっはは! マジカル気分がいいぜ!」
「……」
気分がいい。なぜか。
オレは彼の欲求にあたりをつけることに成功した。
そう、彼の欲求は……。
「気分がいいぜ! 会話しながら焼いてやるよ、マジカルワクワクだぜ!」
オレは小さく笑ってこう言った。
「まだシェリーダさんに誕プレ渡せてないんだ。死ぬわけにはいかない!」
ワクワクする観察対象を見つけて、オレの心は踊り始める。さあ、求めよ…….彼の心の欲求を!