第12話 戦いの理由とは?②
薄ら笑いを浮かべていたオレにパンチを当てる現実という存在は、真面目な顔でそれを見せてくる。
「……!?」
その喪失感は強いものであった。
この一週間で、オレはこの町の人と少しばかり仲良くなった。モーモースのミルクを売っていた女性はミル・クビューという名であり、優しい夫と二人で暮らしているのだそう。好きなものは甘いもので、王都で食べたマキマキスイート、ソフトクリームのようなものが忘れられないのだそうだ。新婚旅行で行った他国の思い出を少し語ってくれたっけ。常夏の国、幸せの象徴のような都市があるらしい。そんな話をしていた彼女の笑顔を思い出す。
そして目の前にあるのはミルさんの上半身。
綺麗な切断面ではない。無理やり引きちぎられたような雑な切り口。下半身は探しても見つからない。
ミルさんの顔は、苦虫を噛み潰したようなものであった。
これはダメなことだ。
確かに、この炎を見てワクワクはした。だけど、人が死ぬのはダメだ。
この表情よりも、記憶の方が魅力的である。
「もっと……お話聞きたかったな」
オレは彼女の目をそっと閉じさせる。
一体、なぜこんな事をするのだろうか。
確かにオレも人を殺したいと思ったことはある。どんな感触なのか、どんな顔で人は死ぬのか。気になったこともある。
だけど、それよりも生きている人のほうが価値があるから。
「……!」
理由を知りたかった。人を殺す理由を。
オレの瞳は黄色く光る。夜、寝る前に軽く練習していたためすぐにでも発動できた。
そう、これは異能。オレに渡された、情報を知るための力である。
オレの視界に映る足跡の数々。どれが同じ人の足跡なのか、自動で教えてくれる。この村の人の足跡はすでにスキャン済みだ。だが、知らない足跡が一つあった。
オレはその足跡を追う。
■□■□■
バルルルルルル・ルルルルル、通称ルルちゃん。彼は焦っていた。
親は死に、今は妹と二人で暮らしている。そんな命よりも大切な妹は今、業火の中にいるのだ。
「……熱い」
炎の熱が皮膚を溶かすように伝わってくる。汗はダラダラ流れ、目は痛くなる。息は吸いづらくなり、焦りからか思考も溶けていく。
彼に物を探す能力はなかった。まずは家に向かい妹を探す。だがいない、ここで彼は壊れた。いるはずがない酒場に行き探す、いるはずがない男湯に行き探す。もしかしたらいるかもしれないという淡い願望を持って、よりいる可能性が高い場所には行けずにいた。
それはひとえに現実を受け入れたくなかったため。ここに至るまで数人の死体を見た。
彼は、妹が生きていると信じたかったのだ。
「……」
彼は見た。炎で焼かれそうになる妹を。
今まで熱かった周囲は、絶望により冬かと思うほど寒くなる。不安に駆られ、焦るルル。
妹の死体はそこにあった。
「……見つけた」
それは彼の妄想である。いや、予測と言ってもいいかもしれない。
コンマ一秒であった。妹は謎の炎使いに焼かれそうになる、その一瞬のうちに、謎のシールドが現れた。
それは空中に浮かぶ守りの力。半透明に黄色く光る丸い盾。青い線が散らばるように動き、まるで鍵でも開けているかのように、白い四角がガチャガチャと動く。そんな模様がついているシールド。
ルルは驚きや好奇心よりもまず感謝を現した。その力の主に、仕事を共にする仲間に。
「ありがとう、マナブ!」
「ルルちゃん、妹を連れて避難を!」
ルルは妹を抱きしめる。妹に向けてこう言った。
「もう大丈夫ッスル!」
「お、お兄ちゃん……。怖かったよー!」
わんわん泣きながら兄に抱きつく妹の存在は、星乃学歩の好奇心を刺激する。
彼の目の前に現れたのは、炎を操る男。そう、つまり、地球人である。
同様に、同じく不思議な力を使う星乃学歩を見て、炎使いの地球人は目を丸めた。
一触即発の空気。先に動いた方が、戦いの火蓋を切る大役となるだろう。