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アナザーハンター・アウトサイド  作者: 加鳥このえ
第一章 ハンターの定義
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第10話 異世界人の生活とは?⑤

 月光に照らされながらしばらく待っていると、カミィさんが銭湯から出てきて、やっとのことでマートン家に向かうことができた。


 しかし夜も遅く、今から晩御飯を作るのは(こく)なため、外食を選択する。


 この町は狭い、ゆえに食事処は一つしかないのだが、住民は少なくゆえに客も少ないし、なんならすぐに行ける距離にあるのでとても助かった。


 申し訳ないが、ここもシェリーダさんにお金を借りる。いつか絶対に返す約束だ。


「いただきます!」


 三人でそのコールをして、食事にありつく。


 モーモースの肉を焼いたもの、すなわちステーキを頬張(ほおば)った。肉は柔らかく、口の中で旨みが広がる。驚いたのはその肉が噛み切りやすいということだ。口の中でスラスラとキレていく。


 お米が欲しいところだが、ここにはないようだ。


 シェリーダさんはジャガポテと呼ばれる、つまりジャガイモをコツコツと煮込んだ、ジャガポテのスープと三つのパンを食べる。カミィさんは酒とコッケココの肉、つまり焼き鳥を食べていた。


 ワイワイガヤガヤと食事をし、カミィさんと打ち解けることに成功した。


 そんな食事会はあっという間に終わり、満腹のまま帰路に着く。


 この町は本当に狭く、彼女達の家にもすぐに着いた。その家は上品なものであり、財力を感じる。


 ただいまコールを済まし、その家にお邪魔した。


 カミィさんは早々にベッドに行き、ダランと寝る。


 見た目からはわからなかったが、少し酔っていたのだろう。


 オレはシェリーダさんに言われるがままに椅子に座った。机に飲み物が置かれる。


「ブドープジュースだ」


「いただきます」


 オレはそれを飲む。


「美味しい」


 ぶどうに近い味がした。つまりこれはグレープジュースか。この世界ではどんな栽培方法をなのだろうと、ふと疑問に思った。


 しかし()いてみてもシェリーダさんは教えてくれなかった。知らないようだ。


 彼女も何かを飲みながら、おっとりしたような表情でこう言う。


「少し、話聞いてもらってもいいか?」


「いいですよ。オレ大好きなんです、人の話聞くの。色々知れるし」


 近所のお爺ちゃんお婆ちゃんに片っ端から声をかけまくって、戦争について教えてもらったのをふと思い出す。


 あれは楽しかったな。


 そんなオレの思考など置いておいて、シェリーダさんはこう語る。


「お姉ちゃんが笑ってた。久しぶりに笑ってた」


「何かあったんですか?」


「パパが死んだんだよ、ちょっと前に。それからお姉ちゃんは笑わなくなってな。まあ、無理に元気出して笑うことはあったんだけど」


 シェリーダさんはゴクリと手元の飲み物を飲んだ後、こう続けた。


「酒を飲めばやけ酒ばかりだし、一人になれば死んだような顔をする……。でも今日はしなかった」


 オレは相槌(あいづち)を打つ。彼女は優しい声で話を続けた。


「私の誕生日にパパが死んで、次の誕生日を迎えてもお姉ちゃんは心の底から笑ってなかった。私はそんなお姉ちゃんに嫌気がさして王都に行った。それからお姉ちゃんとの仲が悪くなってな。だから、今日ご飯を一緒に食べれて嬉しかったんだ」


「楽しかったですもんね」


「ああ。だから、知りたい。マナブがなんか言ったのか? 私じゃかけれなかった、お姉ちゃんを治す言葉を」


 オレはかぶりを振る。そしてこう言った。


「オレがきっかけだったってだけですよ」


 カミィさんの寂しかったという言葉が脳裏を過ぎる。オレはシェリーダさんを見てこう続けた。


「カミィさんも、きっと寂しかったんですよ。妹と上手く話せなくて」


「……」


 オレの言葉を聞き、黙ってしまうシェリーダさん。オレは一人っ子だが、妹がいればこんな気分なのだろうと思う。


 彼女はしししと笑った後、こう言った。


「そっか、そうだったんだな!」


 オレは微笑む。


 人は話さねばわからぬ存在だ。確かに観察だけでわかることもあるが、それでも話せば早い場合の方が多い。


 だから今日の晩御飯時に、シェリーダさんとカミィさんが話せてよかったと思う。


 それが人にとって大切なことなのだから。


 笑うシェリーダさんに、今なら行けると思いオレは質問した。


「そういえば……誕生日! 誕生日って言いましたよね!?」


「え、お、おう、言ったぜ!」


 オレはニコニコで()いた。


「この世界の(こよみ)って、どんな感じなんですか!?」


 話を聞いてみると、八日の暦を五十回繰り返したら次の誕生日がやってくるらしい。神様が五十回先の週に現れるという神話がもとになっているんだってさ。


 週の流れが違うだけでここまで面倒臭いのかと思いつつ、頭の中で勝手に、つまりこの世界の一年は四百日なのかと記憶した。


 そして、シェリーダさんの誕生日は一つ先の水の日だということを知れた。もうすぐらしい。


「そういえば、お母さんはいないんですか?」


「ママも死んでるんだ」


「どんなふうに死んだんですか?」


「……あー、魔物に襲われたんだ。グラトルプスっていうんだけど」


「え!?」


「あ、いや、あの子達じゃねえぞ!? 野生のだな」


「なるほど」


 そんな会話をしながら、グビグビとブドープジュースを飲んだ。


 グチグチダラダラと会話をしてると眠気が襲ってくるもので、オレはベッドを借りることにした。


 そして、眠りにつく。


 今日はとても長い一日であった。


 最初はこんなものだろう、赤子の頃の方が一日を長く感じるものであるのだから。


 オレが借りてるベッドは父親が使っていたものらしい。空っぽのベッドが横にあり、歴史を感じた。


 そしてオレは目を閉じる。


 この世界に来て二日だ。昨日は森で寝て、今日は家で寝る。二日でここまで来れたのは素晴らしいだろう。


 日本にいる父さんも母さんも喜んでくれるさ。


「……」


 異世界。それは未知の世界。


 新たな知見を得れる、新天地。


 そんな世界で、オレはほんのり日常を体験した。

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