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【短編】ホラー短編シリーズ

雨上がりの白いタクシー

作者: 烏川 ハル

   

「おっ、また雨が降ってきたようだぞ。タクシー乗ったのは正解だったな」

 後ろからの声を耳にして、私も『雨』に意識を向ければ……。

 フロントガラスを叩く雨音が聞こえてくるし、運転手もワイパーを動かしていた。それなりに激しい降り方のようだ。

 とはいえ、ちょうど降り始めたばかりなのだろうか。助手席の窓越しに外を見ても、まだ通行人は傘を差さずに歩いている。その中には、同じサークルの女の子たちの姿もあった。

 

 私たちはその時、男四人で、サークルの新歓コンパへ向かう途中だった。

 まだまだ梅雨の時期は先だったが、朝から雨が降り続く一日だ。大学からコンパ会場の居酒屋まで向かうのも、いつもだったら自転車だが、今日は歩いていくつもりだった。

 ところが、サークル仲間の岡田や阿部と一緒に教室を出たところで、岡田が言い出したのだ。

「四人で割れば、タクシー代だってそんなに高くないよな?」と。

 私も阿部も「タクシーなんて贅沢だ」と反対する。そもそも私たちは『四人』ではなく、三人しかいないではないか。

「だからさ。途中で誰かもう一人捕まえて、四人になったら……の話さ」

 そんな話をしながら建物から出ると、既に雨は上がっていた。

「ほら、タクシーなんて必要ないだろ。普通に、歩いて行こう」

「いやいや『歩いて行く』は普通じゃないだろ? 普通だったら、俺たちなら自転車で行く距離だ。でも今日はこんな天気だから、自転車はアパートに置きっぱなし。取りに行くのは寄り道だし……」

 どうやら岡田は、居酒屋まで歩いて行くのが面倒臭いらしい。

 しかも、そんな岡田に運が味方するかのように、ちょうど正門から大通りへ出たところで、同じサークルの学生を見かける。

 ただし学年は私たちとは違う。一年生の、確か山下くんという名前の男子だった。

 まだサークル内に親しい友人がおらず、一人で新歓コンパへ向かうところだという。

「ちょうど良かった! 俺たちと一緒に行こうぜ、タクシーで。まだ新歓シーズンだから、もちろんタクシー代は俺たちのオゴリだ」

 と、岡田が気さくに声をかけて……。

 タイミングよく通りかかったタクシーに、私たちは飛び乗ったのだった。

   

――――――――――――

   

「そういえば、知ってるかい? 『雨が()む』と『雨が上がる』の違い」

「えっ、同じじゃないんですか」

「うん。違いなんて気にせず使うやつも多いけど……」


 後部座席では、岡田が山下くんに話しかけている。

 ちょっと座席の配置をミスったかもしれない。

 降りる際の支払いのことを考えて、そこに一年生を座らせるべきではないだろうという理由で、私が助手席。残り三人が後部座席だった。

 てっきり岡田と阿部がくっ付いて座るかと思いきや、彼らは山下くんを真ん中にしている。先輩二人に挟まれる格好では、山下くんも少し息が詰まるのではないだろうか。

 実際、特に興味もなさそうな岡田の話に対して、いかにも「仕方なく」といった感じで合いの手を入れている。


「……『雨が()む』の方は、文字通り止まること。だから一時的な場合もあって、また降り始める場合もあるけど『雨が上がる』は違う。『上がる』っていうのは完了だから、雨降りは完全に終わって、その日はもう降らないのさ」

「へえ、なるほど。じゃあ、こうしてまた降ってきたのだから、さっきの状態は『雨が上がった』じゃなく『雨が()んだ』の方だったんですね」

「そう、そういうこと。覚えておくと、何かの足しになるかもしれないぜ! だから……」


 いやいや、そんな蘊蓄(うんちく)を披露する機会なんて滅多にないだろう。

 私は心の中でツッコミを入れるだけで、あえて二人の会話には口を挟まなかった。

 とはいえ、そのままにしておくのは、少し山下くんが可哀想な気もする。一応は助け舟のつもりで、岡田の話を遮るように、わざと大きな声を上げた。

「ああ、運転手さん。次の交差点です。あの信号を越えたあたりで、停まってください」

 もちろんタクシーの運転手はプロだ。最初に居酒屋の名前は告げてあるし、改めて停車位置の指示なんて必要ないだろうけれど。

   

――――――――――――

   

 タクシーから降りた私たちは、大きな看板の下に小さな提灯が掲げられた、灰色のビルへと入っていく。何度も利用している、お馴染みの居酒屋だ。

 団体客用の大部屋は二階以降にあり、予約してあるサークル名を告げると、私たちは三階へ案内された。

 階段を上がってすぐの、畳敷きの部屋だ。壁や天井はブラウン系で統一されており、照明の色合いの関係だろうか、畳も緑というより茶色っぽく見えていた。

 長方形のテーブルをいくつか繋げて、横に長いテーブルが二列用意されている。私たちはタクシーで来た分、かなり早く着いたらしく、まだ座っている者は少なかった。

 それでも、手前のテーブルの真ん中あたりに、既に数人のグループが形成されている。一年生同士のようで、ちょうど男女が半々くらいだ。


「ほら、お仲間がいっぱいいるぞ」

「あっ、はい」

 岡田にポンと背中を押されて、山下くんは軽く私たちに頭を下げた後、一年生グループの方へと向かっていった。

 もちろん私たちはそちらに混ざるつもりはなく、山下くんが座るのを視界の片隅で見届けてから、別の場所へ。

 奥のテーブルの右端、まだ誰も座っていないところを、男三人で陣取った。


 それから少し経つと、ようやく他の者たちも来始めた。

 やはり雨の影響があったのか、いつもと比べて集まりが悪い。今回の新歓コンパの幹事も、本来ならば幹事役は早く来ているべきなのに、全体の半分よりも遅かったほどだ。

 予定の開始時刻から五分か十分くらい遅れて、コース料理だったり、コースに含まれているビールだったりが運ばれてくる。

 こうして、その日のコンパが始まったのだが……。

   

――――――――――――

   

「ちょっとトイレ行ってくる」

 と言って岡田が席を立ったのは、始まってまだ十数分の頃だった。

 私のビールのグラスなんて、まだ半分も()いていない。岡田や阿部も同様だ。

 とはいえ、部屋全体を見回してみると、飲むのが早い連中は既に追加注文をしていた。二杯目のビールでなく、日本酒とかサワーとかを頼む者も出てきている。


 一際(ひときわ)賑やかな声が聞こえてくるのは、一年生たちが集まっているあたりのようだ。山下くんの姿も見えるが、タクシーで私たちと一緒だった時の(かしこ)まった態度とは異なり、まるで別人みたいな笑顔を浮かべて、とても楽しそうな様子だった。

 私たちと同じテーブルの反対端にも、かなり騒がしい一団があった。女の子同士で固まっている集団だ。男子が近寄ろうとしないのは、何か女性特有の話題で盛り上がっているのだろうか。

 もしもこれが、いわゆる合コンの(たぐ)いであるならば、女の子同士で集まることは避けて、男女均等に座っていくのだろうが……。私たちのサークルには、その手のイベントに慣れた者なんてほとんどいないし、今日の飲み会だって、あくまでも新歓コンパ。出会い目的のコンパとは違うのだ。こうしてコンパの様子を眺めるだけでも、うちが真面目なサークルだというのがよくわかる……。


 少しアルコールの入った頭で、そんなことを考えていると、岡田が戻ってきた。

「ちょうどトイレの出口で、小島さんと会ってさ。ちょっと話してきたんだけど……」

 小島さんは同学年の女子の一人で、誰にでも親しげに話しかけるタイプだ。おそらく彼女みたいな人こそが「コミュニケーション能力が高い」と称される典型なのだろう。

 そんな小島さんなので、廊下ですれ違えば立ち話くらいするのは当然のはず。それなのに今の岡田は、何やら怪訝そうな表情を浮かべている。

 一体(いったい)何があったのだろう? しかし私が反応するより早く、阿部が岡田の言葉に食いついていた。

「小島さん……? 小島さんが、どうかしたのか?」

   

――――――――――――

   

 口数の少ない阿部にしては、少し珍しい態度かもしれない。ふと見れば、彼は頬を赤らめていた。

 しかし、まだ酔いが回るには早すぎる。ならば、これは……。

 今まで私が気づかなかっただけで、もしかすると阿部は、前々から小島さんに気があるのだろうか。

 そう考えると妙な好奇心が生まれて、私も会話に加わってみる。

「小島さんといえば……。ちょうど乗ってきたタクシーで追い抜いたよな? ほら、岡田が『また雨が降ってきた』とか言い出した時だ」

 阿部も「うん、うん」と頷いている。歩いていた小島さんたちの姿をタクシーの中から見かけたのは、私だけではなかったらしい。


「そう、その話だ。小島さんの方でも、自分たちを抜いてったタクシーに、俺たちが乗ってるのが見えたらしくてさ。『タクシーで来るなんて、ずいぶん豪勢じゃないの』って冗談っぽく言うから、俺は真面目に『おかげで濡れずに済んだ』とか『ちょうど雨もまた降ってきたし、タクシーで良かった』みたいに返したんだが……」

 岡田の顔に浮かぶ困惑の色が、さらに深まる。

「……なんだか話が食い違うんだぜ。小島さんが言うには、雨はあの時、降ってなかった、って」


「降っていなかった? だけど……」

 聞き返す私の言葉を、岡田は首を振ることで遮った。

「彼女たちは大学からここまで、雨には全く降られなかった。だから徒歩でも問題なかった。……っていうのが、小島さんの認識らしい。でも、それって変だろ? 車の外で雨が降ってるの、俺たち、タクシーの中から見たよな?」

「ああ。見ただけじゃなく、フロントガラスを叩く雨音も聞こえたし、運転手もワイパーを動かして……」

 岡田に同意する意味で、私はそう言いかけたのだが……。

 ここで一つの事実を思い出し、ハッとする。

 そういえば、タクシーの中から見かけた小島さんたちは、傘を差さずに歩いていたではないか。

 あの時の私は「まだ雨が降り始めたばかり」と解釈して、勝手に納得していた。しかし実際は違っていて、小島さんたちは「雨なんて降っていない」という認識だったからこそ、傘を差していなかったのか……!

   

――――――――――――

   

「しかも、それだけじゃなくてさ。小島さんと話が合わない点は、他にも合って……」

 岡田の不可解な報告は、私が内心で驚いている間も、さらに続いていた。

「……俺たちが乗ってたタクシー、小島さんは『白いタクシーだった』って言うんだが」

 白いタクシーという言葉で、私は一瞬、白タクを思い浮かべてしまった。

 日本では、人を乗せて営業するタクシーは、ナンバープレートが緑と法律で決められている。白ナンバーは自家用車なのに、それで違法にタクシー業務をやっている場合「白タク」と呼ばれるわけだ。

 しかし小島さんがわざわざ、通り過ぎた車のナンバープレートに注目するはずもない。実際、ここで話題に上がっているのは車体の色であり……。


 白タクについて考えて、頭の中で寄り道していた私より先に、阿部が岡田の発言に応じていた。

「それはおかしいよね。僕たちが乗ってきたのは、真っ赤なタクシーだったよね」

「はあ? それも違うだろ。赤じゃなくて青だ。全体的には青色で、白いラインや白い文字がワンポイントで入ってた」

 小島さんの目撃談どころか、岡田と阿部の間にも食い違いが生じている。

 しかも、どちらも間違っているではないか! 私たちが乗ってきたタクシーの色は……。


「おいおい、二人とも……」

 私は割って入ろうとしたのだが、私の言葉は、今度も遮られてしまう。

 阿部が素っ頓狂な声を上げたのだ。

「あっ! これって『雨上がりの白いタクシー』だ……!」

   

――――――――――――

   

 改めて、阿部の方に注意を向けると……。

 彼は体をぶるぶると震わせて、大きく目を見開いていた。

 頬の紅潮も先ほどより激しくなっている。もう「頬の紅潮」どころの話ではなく、顔全体が真っ赤になっていた。


「雨上がりの白いタクシー……? 何じゃそりゃ……?」

「うん、子供の頃に聞いた怖い話で……。都市伝説とか怪談の一種かな。いや『都市伝説』って言ったら大袈裟かもしれないけど……」

 不思議そうに聞き返す岡田に対して、阿部が説明する。

「……雨が上がったタイミングで発生する怪異でね。外は雨が上がったのに、そのタクシーの中では、また降り出すんだ」

「密閉された車内で雨に降られたら、びしょびしょに濡れるどころか、溜まった水に()かって大変だろ。首まで浸水したら、溺れちまうぞ」

 岡田がツッコミを入れるが、阿部が言っているのは、そういう意味ではないだろう。

 ちょうど小島さんや私たちの状況に類似しているからこそ、阿部はこの話を持ち出したに違いない。ならば「外では上がっているのに、タクシーの中では雨」というのは「本当は晴れているのに、タクシーの中から見たり聞いたりすると、外では降っているように感じられる」という意味のはず。


 ツッコミを入れた岡田自身、その点、頭では理解していたようだ。私だけでなく阿部もそう思ったらしく、岡田のツッコミは無視して、話を続けていた。

「あと、その怪談によればタクシーは白色で、でも乗車した客たちは赤とか青とか違う色だと思ってしまう、って……」

「なるほど。それも俺たちの件と合致するな。でも、そんな怪談、俺は聞いたことないぞ。たった今ここで、でっち上げたんじゃないだろうなあ?」

「そんなわけないだろ! だけど……」

 岡田の横槍を強く否定してから、阿部は首を縦に振る。

「……うん、ごくごくローカルな怪談だったみたい。中学の友達も知らなかったから、僕の小学校限定だったかも」


「ああ、子供向けの怪談の一種か。『トイレの花子さん』みたいな……。でもその手の有名な怪談と違って、阿部の『雨上がりの白いタクシー』、ちっとも怖くないな」

 岡田は笑い飛ばすような口調だが、阿部の態度は変わらなかった。

「いや、怖いのはここからだよ。さっき『乗車した客たちは赤とか青とか違う色だと思ってしまう』って言ったけど……」

   

――――――――――――

   

「……その乗客たちは、みんな死んじゃうんだ。それぞれが思っていた色に対応する死に方で」


 自分たちの状況に合致する都市伝説を語る中で「みんな死んじゃう」という言葉が出てくれば、聞いている私たちは、さすがにゾッとする。

 岡田も黙ったほどであり、この場が静まり返った分、離れた場所の喧騒もよく聞こえてくるくらいだった。

 しかし、そんな静寂は一瞬しか続かない。あえて陽気な声で、岡田が再び口を開いたのだ。


「おいおい、色に対応する死に方って……。『赤い紙、青い紙』のパクリか? あれも『トイレの花子さん』みたいに、トイレを舞台にした学校怪談の一種だったよな?」

「お化けか何かに質問されて、その答え次第で殺されてしまう話だろう? 確か『赤い紙』と答えれば体中(からだじゅう)から血を噴き出して真っ赤になって、『青い紙』だと体中(からだじゅう)の血を抜き取られて真っ青になって……」

 岡田の発言に私も続いたが、阿部は再び首を振ってみせる。

「うん、だいたいそんな感じ。だけど具体的には少し違っていて、血を噴き出すとか抜き取られるとかじゃなくてね。『雨上がりの白いタクシー』の場合は……」

 肝心の話は、その先だったのかもしれない。

 しかしそれ以上、阿部は続けられなかった。

 体の震えが急に激しくなったかと思いきや、真っ赤な顔のまま白目を剥いて、テーブルに倒れ込んでしまったのだ。


「おい、阿部……」

「どうした? しっかりしろ!」

 私と岡田だけでなく、他の者たちも慌てて集まってくるが……。

 阿部は完全に意識を失っており、もはやピクリとも動かなかった。

   

――――――――――――

   

 阿部は結局、そのまま帰らぬ人となった。

 居酒屋という公共の場における突然死であり、警察が関わる案件になってしまう。

 検死によれば、死因は急性アルコール中毒。血中アルコール濃度も驚くほど高くなっており、ビールならばグラスで何十杯も飲んだ計算になるという。

 しかし……。


「えっ、嘘でしょう?」

「いやいや、そんなに飲んでないですよ!」

 阿部が死んだのは、飲み始めてからまだ半時間も経っていない頃だ。彼のビールは一杯目で、それもグラス半分程度しか()いていなかった。

 一緒に飲んでいた私も岡田も正直に証言したし、オーダー票でも、それほど大量のアルコールの追加注文は記録されていなかった。

 だが、それでは検死の結果と矛盾する。あくまでも警察は検死結果の方を信用するため、私たちは「隠蔽したい事実があるからこそ、偽証や記録改竄をしたのではないか」と怪しまれてしまった。


 大変だったのは、警察の追求だけではない。

 たとえイッキ飲みのような強要はなかったとしても、新歓コンパというサークル行事の中で死者が出たのは事実であり、その点を大学側から責められたのだ。

 私たちのサークルはしばらくの間、活動停止を言い渡された。しかもちょうど新歓の時期だったので、新入生に対する心象も悪くなり、一年生が大量に辞めてしまった。

 もはやサークル存亡の危機にすら発展したわけだが……。


 個人的には、それどころではなかった。

 阿部が亡くなってから二ヶ月が過ぎた頃、今度は岡田が事故に遭ったのだ。

   

――――――――――――

   

 まるで台風みたいな、風の強い日曜日の出来事だった。

 そんな強風ならば家でおとなしくしていれば良いのに、付き合い始めたばかりの女性とデートの約束をしてしまい、待ち合わせ場所まで急いで向かっていたらしい。

 すると交差点の近くで、ちょうど道路の案内標識が外れて落ちたのが、飛ばされてきて……。

 岡田の後頭部に直撃。即死だったという。


 最初「道路の案内標識」と聞かされてもピンと来なかったが、実際に道路を歩いている途中で同じタイプの案内板を目にすれば、具体的に理解できてハッとする。

 信号機と同じくらいの高さに掲げられている、青くて四角い標識だった。青色の一面に白色で、道路を示すラインや目印となる地名が書き込まれている。

 それを見た瞬間、私は思い出してしまったのだ。タクシーの色について岡田が言っていた「全体的には青色で、白いラインや白い文字がワンポイントで」という言葉を……。

「ああ、なるほど。タクシーと同じ赤色になりながら阿部は死んで、岡田はタクシーと同じ青色によって殺されたのか……」


 もう一人の同乗者である山下くんは、他の一年生たちと一緒にサークルを辞めてしまったので、あの(あと)話す機会は全くなかったし、今では連絡も取れない。

 だからあのタクシーが山下くんには何色に見えたのか、私にはわからなかった。まだ彼が生きているのか、あるいは既に死んでしまったのか、それすら私は知らない。

 それよりも、私が心配なのは私自身の今後だ。


 あの雨上がりの夕方、自分たちが乗ったタクシーを黄色だと思った私は……。

 一体(いったい)いつ、どのような死に方をするのだろうか?

 あらかじめ予想して、注意しながら暮らしていけば、その死を回避することも可能なのだろうか?




(「雨上がりの白いタクシー」完)

   

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