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遠くで自分の名前を溌剌と呼ぶ声が蒼の耳に届いた。
呼ばれた方へ身体を向けると、一つのよく見慣れた人影が【三角形】から離脱し、徐々に蒼の方へ近づいてきていた。
「みもりん」
その人影の正体が三森であると即座に気づいた蒼は、暑さで蹌踉めく身体と必死に闘いながらなんとか立ち上がった。
その様子に気づいたらしく、三森はこちらに向かってくる速度をやや速めた。
二人が合流すると、三森は息を切らせて肩を弾ませながら 蒼の両肩を泥混じりの汗ばんだ手で力強く掴んだ。
「はぁ…はぁ…あおちん、大丈夫かよ…お前死にそうな顔してたぜ。遠くから見ても分かるぐらいには」
三森はいつも蒼の保護者だと揶揄われるほど、人一倍蒼の変化に敏感である。
そしてその変化に気づくと、忽ち他のことは放ったらかしにして蒼に構いに行く。
「ああ、ごめんね。〝俺〟、暑いのはどうしても苦手で…」
「それぐらい分かってるよ。どんだけ一緒に過ごしてきたと思ってんだバーカ」
三森はクシャッと笑うと、蒼の癖毛でうねった髪をわしゃわしゃとかき回すようにして撫でた。
三森が自分の所へすっ飛んできてくれたことを嬉しく思いながらも 自分が輪を乱してしまったことに申し訳なさを感じ、ふと目線を【三角形】だった所へ向けると、既にボールの軌道は消え、二つの人影が呆れたと言わんばかりに気怠げに揺れていた。
…ように、見えた。
「ごめんなさい」
その言葉は、まるで息をするように
自分の意思とは関係なく するり、と口から発されていた。
「え?」
三森は きょとん、と目を丸めて蒼の顔を覗き込んだ。
「あおちん、本当に大丈夫なん?…お前なんか顔色悪いぞ。熱でもあるんじゃない…」
「みもりん、近い」
額に自らの額を合わせてこようとする三森を振り解き、大丈夫だと伝えると 蒼はほうっと大きく溜息をついた。
「よし。今日はもう帰ろうか」
三森の自分を気遣う言葉に何も応えることができないまま、蒼は残された二人に向かって解散の合図を送る三森をただ見つめることしかできないでいた。
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