泉の女神の悩みは晴れない
「日本人ってよくわからないわ」
泉の女神はため息を何度も漏らす。日本支部の泉の担当になって数日という所だが女神の悩みは全く晴れない。
「どうしましたか。女神様何か悩みがあるのですか」
部下が質問をすると待ってましたと言わんばかりの勢いで女神様は話し始める。
「日本人は正直すぎるのです。他の国の担当だった時は泉に鉄製の斧なんか落としても自分が落としたのは金製の斧だと言い張る嘘つきばかりでした。
でも日本人は正直に答える者ばかり。正直なのは良い事ですがこれでは私たちの金や銀がそこをついてしまうわ」
再度ため息を漏らす女神を見て部下は不憫に思う。部下はこんな状況を打開する案はないかと考え、意見を口にする。
「ではそもそも人が来ないようにするのはどうでしょううか?」
「どういう事ですか?」
「この泉にあまり近づかないような噂を流すのです。何か悪い力がはたらいてるなどです。そもそも人があまり来なければ金、銀もなくなりません」
「んー。そうですね。あまり良い事ではない気はしますがしょうがないですかね。どうせならちょっと怖い感じに泉の周りをデコレーションしてみましょうか」
女神様は初めは乗り気ではなさそうだったが悩みから解決されると感じるとウキウキで取り掛かった。
数日が過ぎて部下が女神様に報告をしている。
「女神様できましたね。近くに住んでいる者やインターネットを通じて悪い噂を広める事ができました」
「泉の周りの方はどんな感じですか?」
「はい、そちらも抜かりありません。女神様の不思議なパワーで周りを囲みました。それに看板を立てこの先はやばい泉がある事をアピールしています。」
「素晴らしいです。完璧ですよ。これで問題は解決ですね」
女神様は部下の素晴らしい活躍ぶりに大変満足しました。
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「日本人がよくわかりません」
数日たったある日またしても女神様は悩んでいる。
「どうしましたか、女神様。また何か問題があるのですか?」
「どうもこうもないのです。あれから来る人は増える一方なのですよ。パワースポット?として有名になってしまったらしく、観光地となってしまいました。しかも泉にお金を投げ入れる文化までできてしまいました」
「それでは金と銀が足りなくなってしまいますね。どうしましょう」
「いや、それが金や銀を受け取らないのです。彼らにとっては落としてしまったわけではなく、落としているらしいのです。何か私に会うのが目的の人もいるみたいです」
「よくわかりませんね。こんな山奥まで来てお金を落として何が楽しいのでしょうか。でもそれなら金、銀はなくならずお金が手に入り問題はないのでは?」
「それがですね、人が来すぎるせいで私が過労で倒れてしまいます」
女神の顔にはメイクで隠してはいるがクマができている。疲れ果てた様子を見て部下は新しい案を考える。
「ではこのようなのはどうでしょう。何かを入れられても毎回出るのではなく、たまに出るのです。そうしたら会いにくる人も減るでしょう。噂や人が落ち着いたらまた前の状態に戻しましょう」
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数週間後
椅子に座る女神様は疲れ切って今にも倒れそうだった。
「大丈夫ですか?女神様。前より出る回数を減らしたのですよね?」
「増えたのです」
「え?どういう事ですか」
意味を理解できず部下は咄嗟に聞き返す。
「毎回出ないようにしたらあの人達は女神ガチャとか課金とかスパチャとかよくわからない言葉を言いながら大量のお金を入れるようになったのです。今までは硬貨だったのにお札まで入れる人までいるのですよ。昨日なんてスマホが投げられて『ぺいぺい』とか変な音がしたんですよ」
溜息を漏らし女神様は呟いた。
「本当に日本人ってよくわからないです」