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ごめんなさい

「ラビさん。自首しましょう? やり方はわかりますか? 騎士の詰め所に行って、ごめんなさい、ですよ? ちゃんとできますか?」


 できるか! ごめんなさいで済む問題じゃないだろう。勇者の誘拐だぞ。というかお前、俺が誘拐した訳じゃないって知ってんだろ。


「シキ、そんなに近づいては行けません。ラビに連れ攫われてしまいます」


 完全にこいつら面白がってるな。


 確かにクロエの言う通り、俺達は誤解をしていた。まさかリリアではなく俺が追われていたとはな。本来聞きたい事は別にあったはずなのだが、もはやそんなことはどうでもいい。なんとかしてこの状況を打破しないと……。

 だが、俺が極悪人と言われようが、死刑になろうがネアとシキは全く意に介していないようで、勝手に話を進めていく。


「それで結局あなた達がリリアを攫った目的は何なんですか? 別にこの男が死刑だろうとどうでも良い、いえ、むしろして欲しいくらいなので、それは勝手にやっててください」


「仲間の一大事になんてことを言うんだクソ女」


「お前も同じこと言ってただろうが」


 小声でシキからツッコミが入る。


「目的か、それはクロエに説明して貰おうかな? そもそも僕は、もし出会った場合はラビは必ず連れてくるように指示したはずだしね。彼もその場にいたのであれば、リリアだけを連れて来たのはクロエの判断だ。ことと次第によっては君にも罰を与えることになるよ?」


 言いながらキングはクロエを睨む。公爵で騎士団長とはいえ、王族の方が立場は上だ。もちろん彼の言う通り、クロエを罰する権利をキングは持っている。出来ればクロエとしては俺があの場にいたとは知られない方が良かったのだろう。悪いことをしてしまった。


「やかましい。お前は昔からリリアのこととなれば途端に頭が悪くなるな。ちゃんと考えろ。お前もラビとは多少の面識があるだろう。リリアを誘拐するような悪人に見えるのか?」


 ……そういえばこいつもイカれた奴だった。王族など関係なしにクロエは言った。


「見えるよ」


 見えるよじゃねえ。


「「同じく」」


 同じくじゃねえ! お前ら仲間じゃねえのかよ。


「……そうだな。私も悪人に見える。すまん」


 お前ぶっ殺すぞ。


「だが考えてみろ。勇者を誘拐してこいつに何のメリットがある? こいつは自分の利益のためであれば何でもする最低最悪な男だが、メリットがなければ善行すらしないぞ」


「「「確かに」」」


 納得するな!!!!!!!


「それで私はこの件には裏があると踏んで、リリアから話を聞こうとここに連れて来たわけだ」


「クロエ、君の言う通りだ。彼がリリアを攫うはずがない。ラビ、僕は君を信じるよ」


 端正な顔立ちに優しげな笑みを浮かべるキング。信じると言われているのに何だろうか、この釈然としない気持ちは。


「それで? 何かリリアから情報は得られたのかよ?」


 ここまで心を傷つけられたのだ。これで何も得られていないのであれば、流石に温厚で有名な俺もキレてしまうかもしれない。


「それが、まだあいつから話を聞けていなくてな。昨日本気で殴り過ぎたのか、私を見ると泣きじゃくるだけで、一向に話にならん。傷は回復魔法で完全に治っているはずなのだがな」


 何も成果はないだと? ふざけるな。そんな言葉が俺の口をついて出る前に、キレるやつがいた。

「は? 今なんと?」


 ネアだ。彼女は静かに殺気を放ち始める。昨日のクロエに勝るとも劣らないほどの迫力だ。黒い瞳は大きく開かれ、クロエを威嚇するように見つめている。答えによっては切り捨てる、そう言わんばかりに、右手は腰に差した剣の柄に添えられていた。


 ……これはまずい。


「あ?」


 殺気を受けてクロエの纏う空気も一変する。彼女からも膨大な殺気が放たれ、背中に嫌な汗が流れる。クロエは言わずもがな、ネアだって相当な強者だ。そんな二人がぶつかり合えばお互いただではすまないし、何より近くにいる俺の身も危ない。だが、そんなとんでもない奴らを止められる者などこの場にはおらず、キングは冷や汗を流し、シキは苦々しい顔を浮かべることしかできない。


「今、リリアを殴ったと言いましたか?」


 カツカツと軽やかな足音を鳴らしながら、ネアはクロエの元へと歩み寄る。


「言ったが、それが何か?」


 ガシャガシャと重い鎧の音を立てながら、クロエはネアの元へと向かう。

 お互い目を逸らさず、一歩一歩着実に相手へと近づいていく。ネアが動く度、黒いメイド服が揺れ、クロエが動く度、白い鎧に反射する光が角度を変えた。あまりにも重苦しい空気に一秒が異様に長く感じる中、両者はやがて部屋の中央で対峙する。


「うちの子をいじめておいてなんですかその態度は? 私だってリリアが泣きじゃくるところが見たい……こほん、姿を見ただけで泣きじゃくるレベルのトラウマを植え付けておいて何か? ですって?」


「はっ、従者にうちの子、などと呼ばれているような奴にとっては必要な躾だろ」


 ネアの言葉はふざけている、というか欲望が一瞬混じったがどうやら本当に怒っているようで、彼女達は超至近距離で睨み合っていた。これがメンチを切るというやつなのだろうか。二人とも身長が高いこともあってか、相当な迫力がある。


「おいキング、どうにかしてくれ。あいつらのことは割とよく知ってるが、このままだとマジでおっ始めるぞ。王族だろお前。偉いんだろ。あいつらが戦い始めれば最悪この砦が消えてなくなるぞ」


「だったら君が止めてくれ。彼女達は身分なんて何とも思ってないだろう。僕が制止したところで聞かないさ。というか、ネアさんは一体何者なんだ。クロエが本気で殺気をぶつけているのに平然としているなんて。ただのメイドさんじゃなかったのかい?」


「知らん。なんかめっちゃ強い」


「何がよく知ってる、だよ」


 ため息をつきながら、やれやれと首を振るキング。ちっ! 使えない奴だ。だったら……。


「なあシキ。これは決していやらしい気持ちで言っている訳ではないんだが、服を脱いでくれないか?」


「性欲以外の何がお前にそう言わせているのか、聞かせて貰おうか?」


 おっとどうやらこちらでも一戦はじまりそうだ。シキは顔を真っ赤にしながら、すごい目で見てきていた。俺はただ、ここでシキが脱げばネアは夢中になって怒りなど忘れるだろうと思ったのだが。ああ、決していやらしい気持ちなんて微塵もないさ。本当に。マジで。だから、無言で首を絞めるのはやめて欲しい。し、死ぬ!


「あ?」


「あ?」


 ネアとクロエはすでにそれぞれ武器を構えて威嚇し合っているし、俺はシキに殺されかけている。もはやこの混沌とした部屋にはそれらを止める者はなく、数秒後には俺と、ネアかクロエのどちらかの死体が生まれるだろう。

 そんな時だった。

バタン、とこの部屋の重い扉が勢いよく開かれる音が響く。この惨状の救世主となりうる奴の登場に心が躍る。誰でもいいから助けてくれ! そんな期待を込めて、扉へと目を向けるとそこには。


「キングー、もうお菓子なくなったんだけど。クロエに殴られて私今すっごく心が傷ついてるんだよ? 演技じゃないよ、ほんとだよ。だからもっとお菓子ちょうだ……え? 何でみんないるの? 何でラビはそんな残念そうな顔で私を見るの?」


 ちくしょうこのバカか! 使えねえ! と、俺は思ったが、ネアはそうではないらしく。


「リリア!」


 クロエに向けていた剣をほっぽり出して、すぐさまリリアの元へと駆け寄り、抱き締める。


「リリアリリアリリア! 大丈夫ですか? 痛いところは? あの白女にいじめられたんでしょう? 泣きたいなら私の胸で泣いてもいいんですよ? 辛かったですね。よしよし」


 今日一日ふざけた態度を見せていたネアだったが、その実不安だったようだ。五体満足のリリアを見て、安堵からか目に涙を浮かべていた。


「え? え? どうしたの? 今日は優しいね……ねえ、ネア。どさくさに紛れてお尻を揉むのはやめて欲しいな」


 どうやらそうでもないみたいだ。


「おい黒女。何をしている。かかってこないのか?」


「うるさいですね。今私はリリアのお尻の感触を堪能してるんですからちょっと黙っててください」


「お前……はあ、興が削がれた。久々に楽しめると思ったが……もういい。ちょうど会議の時間だしな。おい、リリア。お前にはすぐにでもどうしてラビが誘拐犯になっているのかを聞きたいのだが、生憎と今は時間がない。後日ゆっくり聞かせてもらうぞ?」


「君達、後で兵に部屋へ案内するよう言っておくよ。一応君達はリリア誘拐事件の重要参考人であることを忘れずに節度を持って行動してくれ」


 そう言い残し、彼らは部屋を後にした。

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