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突撃作戦

「「「クーローエーちゃん! あーそーぼー!!!!」」」


 リリアが攫われて一日が経過した。村に戻った俺とシキはまず、村人どもにゴブリンの耳を投げつけて、ネアを解放させた。彼女は満身創痍の俺達を見て、最初こそ心配そうにしていたものの、リリアがいないことに気付くと、そんな些細なことはどうでも良いと言わんばかりに、泣き叫び、地面を転げ回った。そんな彼女をあやす事一時間、ようやくまともな話がで切るようになったネアと共に三人で話し合った結果。


「「「あーそーぼー!!!」」」


 こうして、正面から突撃作戦を決行することとなった。

 目の前には石造の大きな砦。村からさほど遠くない平原の中に佇むそれは、王国軍にとってこの地域における重要な拠点のようだ。村人共からその情報を聞き出した俺達は、リリアがいるとすればここで間違いない、そう判断したわけだ。


「「「あーそー」」」


「うるせえ!!!!!!」


まあそうなるわな。

砦の門番に怒鳴られる。近づく旅人は珍しくないのか、当初は警戒したような目をやるだけで、特に何も言ってこなかったのだが、流石に騎士団長の名前を呼びながら騒いでいれば無視は出来ないようだ。


「何だお前達は! 騎士団長の名前をちゃん付けで呼ぶなどと、無礼な真似をしおって!」


 俺達の前に出て、怒鳴る門番。屈強な体に小皺の刻まれた顔、手に持つ槍。まさに老戦士といったような出で立ちだ。


「なんですか? なんか文句あるんですか? 私達はただ友達を誘いに来ただけなんですけどなんか文句あるんですか?」


「そうですよ! 私達は友達のクロエちゃんと遊ぼうと思って来ただけです! 誰かに文句を言われる筋合いなんてありません!」


「ぐ……ふざけるな! 何が友達と遊びに来ただ! クロエ様に友達がいるはずがない!」


 見た目だけは相当に良い二人に詰め寄られ、一瞬たじろぐ老紳士だったが、流石に数々の修羅場を潜ってきた彼はすぐさま言い返す。


「「…………ぐ」」


 納得するな。言い返してやれよ、クロエが可哀想だろ。


「まあ落ち着けよ爺さん。こいつらは早くクロエと遊びたくて、気が立っていてな。こっちの無礼は謝るからさっさとあの女呼んでこいやクソジジイ」


「謝罪した瞬間に速攻で無礼を働くなこのクソガキ。さっきから何なんだお前達は。あの方はこの国の公爵だぞ? 心の広いワシだから見逃してやっているが、心の狭いクロエ様の耳に入ればどうなることか……」


「ラビ、さっきからこのジジイの方が無礼だと思うんですが……」


「お爺さん。最近正教会では、老人ホームという画期的なサービスを提供していまして、よろしかったら紹介しましょうか?」


 どうしよう。想像以上に門番が変な奴だ。


「老人ホーム? なんだそれは。もしかして貴様! 抵抗できないのをいいことに、老人を家の材料にしているのではあるまいな!」


「残酷すぎんだろ。一体どんな思考回路してんだ」


 だが、好都合だ。そもそも俺達に砦に忍び込むなどできるはずもない。だったら正面で騒いで、クロエが出て来ざるを得ない状態を作り出してしまおう。そんな作戦だった。

このままいけば、意外と早くクロエが騒ぎを聞きつけて出てくるかも……。


「おや? 君達は……」


 しかし、そう簡単に問屋が下すわけもなく、俺達の後ろから男の声がする。よく通るその声は、ネア達が騒ぎ立てているにも関わらず、容易に聞き取ることが出来た。

 振り返ると、そこには一人の男。金の鎧に金の槍。とんでもなく頭の悪そうな装備をしているが、そんな短所を補ってあまりあるほどに精悍な顔立ちをしている。背が高く、透明感のある青い髪を持つそいつは、いかにも女にモテそうで、俺が嫌いなタイプだった。

 そいつは俺とネアに気付くと、


「ネアさんと君は……よく僕の前に顔をぶはああああああ!!!!!」


「貴様が元凶かこのクソ野郎!」


 話しかけた瞬間ネアにぶっ飛ばされた。


「な、何をするんだいきなり! 僕はただ声をかけただけじゃないか!」


 おお、凄いな立ち上がった。俺なら二、三日は寝たきりだ。


「うるさいんですよ! ようやく合点がいきました! あなたが裏で手引きしていたんですね! 諦めずに何度も求婚する姿勢はシンパシーを感じていましたが、誘拐は流石にやり過ぎでしょう!」


「ゆ、誘拐? 一体何を言って……」


「うるさい!」


 激昂したネアは再度男を殴りつけ、お前の話など聞きたくないと、馬乗りになり何度も何度も殴り続けていた。


「ラビ。誰だあのイケメン」


 小声でシキが聞いてくる。ネアがそのイケメンをボコるのに夢中なせいで聞いていないと判断したのか、素の口調だ。

 誰だ、か……誰だっけ?


「あいつはネアの元彼だ」


 何やら俺に突っかかって来ていたが、全く覚えがない。しかし、思い出せないが、あのネアの怒り狂いよう、間違いないだろう。流石のネアも過去になんの因縁もない奴をボコボコにしたりはしないはずだ……たぶん、きっと…………やっぱり違うかも。


「え? マジで!?」


 目をキラキラさせるシキ。一般的な女子の品性など持ち合わせてはいないものの、恋愛話には興味があるらしい。


「ああ、こっぴどく振られたみたいでな。たまに顔を合わせればああやって……」


「そ、そうか……」


「あまり触れてやるなよ? ああ見えて辛いんだ」


 適当なことを言ったことがバレたら俺がぶっ殺される。


「あ、ああ……分かった」


 と、俺達がどうでもいい会話を繰り広げている間に、ようやくネアの手が止まる。


「はあ、はあ……」


 数十秒にも渡る全力攻撃に疲れたのか、男の上から降りて肩で息をするネア。戦闘能力だけは凄まじいものがあるネアにそれだけ殴られれば流石にその男も。


「ぐぅ……い、一体さっきからなんなんだ君は」


 立ち上がった。これはこいつに対する評価を改める必要があるかもしれない。鼻が折れ、瞼が切れている。ネアに対峙するその男の顔面は血に塗れ、精悍な顔立ちが台無しだ。女にモテそうもない。俺の好きなタイプだ。


「君は何か誤解をしている。誘拐なんて僕は」


「二人ともそこまでじゃ。このワシが見ている前でこれ以上の暴力行為は許さんぞ」


 止めに入るジジイ。先ほどから姿が見えないと思っていたが、どうやらネア達をいつでも止められる場所に控えていたようだ。


「ちょっと待ってくれ。どうして止めるんだ。ここからは僕のターンだろう。止めるんだったら、彼女が僕を殴ってる時に止めてくれよ!」


「何を言っておりますか。そこの女はワシよりも遥かに強い。そんな者に挑んではいけない。それがワシの長い騎士生活で得た教訓ですじゃ」


 どうしよう、意外と好きかもしれんこのジジイ。


「そんなことよりも王子。こんなところでなにをしているのですかな?」


 王子? 

 ……なるほど確かに。どこかで見た顔だと思っていたが、王子か。そんなやつもいたな。というかこいつ今、王子がボコボコにされたことをそんなこと扱いしたな。

 ジジイからいきなり明かされた事実に、少しだけ頭が混乱する。シキなんて「わあ、王子様と……ネアすごい」なんて感心したように呟いていた。


「そんなことって……ま、まあいい、散歩だよ散歩。ちょっと中に居辛くてね」


「居辛い? ああ、リリア様のことですか。はっはっは、王子、意外と初心なところがあるんですなあ。好きな女子がいると気まずいとは」


「好き!? まさかの三角関係!?」


 隣でシキの声がする。三角関係? 王子とリリアとジジイのか? なんか面白そうだな。王子とジジイが結ばれてリリアには泣き喚いてほしい。


「やはりここにリリアがいるんですね? やっぱり誘拐してたんじゃないですか! 出してください! 早くリリアを出してください! 泣き喚きますよ! いいんですか!?」


「いやだから違うって! 誘拐なんてしていないんだよ! そもそも僕の本命はラビだ! 僕はリリアは可能であれば、しかしラビだけは見かけたら連れてくるように言ったんだよ!」


「四角関係!? えっと、こ、これは私も混ざった方が!? 混ざった方が良いのでしょか! ああ、分かりません! 唯一神様! 私はどうすれば……?」


「ほっほっほ。王子よ、この恋愛百戦錬磨のワシが女性の落とし方を教えて差し上げますぞ! なのでまずは女性のいるお店に行きましょう! もちろん王子のポケットマネーで!」


 ……なるほど。個性的な奴らが集まるとこうなるのか。

 ネアは本当に地面に寝転んで泣き叫び、王子はネアとジジイに喚きながらツッコミ、シキは一人で妄想が止まらないようだ。

 ははっ。もう収集つかねえや。…………。


「めんどいからほっとこ」


 と、砦の石壁に背をもたれながら溢した独り言に。


「たわけ。何を言っている」


 足音もなく、近づいてきていたクロエが俺と同じようにもたれかかれながら、話しかけて来ていた。いつの間に、そう口に出そうとしたが、そもそもこいつはこんな奴だった。神出鬼没でいつの間にかいる。魔王軍からは、もっぱら影が薄いことでバカにされているらしい。


「まったく……どうして来た? 私がお前を連れていかなかった理由が分からないわけではないだろうに。お前もしかして頭も悪くなったのか?」


「頭もってなんだ頭もって。他も何一つ悪くねえよ」


「ふむ、昔と変わらんな。では……」


 そこで言葉を区切り、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みながらクロエは言った。


「そんなにリリアが大事なのか?」


「は?」


 あまりに唐突な質問に、気の抜けた声が出てしまう。リリアが大事? 俺が? 


「お前、この程度のことで助けに来る人間じゃないだろう。私の知る限り、普段のお前なら小説一本掛けそうなくらい行きたくないと駄々を捏ねる。昔、邪竜退治の時に三日連続で母の命日だったことは忘れてないぞ?」


 腹立たしげに言うクロエ。それは、三日目までおかしいことに気付かないお前も悪いだろ。どう頑張っても最大二日だ。


「……騎士団に戻る気はないのか?」


 と、クロエは俺に聞いてくる。俺は昔騎士団にいた。クロエはその時の直属の上司だ。当時は一介の部隊長だったというに、良くもまあ騎士団長までこんなに早く上り詰めたものだ。それにはもちろん彼女の強さもあるだろうが、人柄の良さも要因の一つだろう。たった二ヶ月で辞めてしまった俺にも、こうして優しい言葉をかけてくれる。


「ねえな。そもそも戻ったところで出来ることがない」


 だが、俺には戻る気はない。今の俺にはそんな力もやる気もない。


「そうか、まだ使えないのか。いや、それともよほどリリアの側にいたいのか……」


 だからどうしてリリアが出てくる。


「まあ今はいい。それよりも……」


 チラリとクロエが目をやる方には。


「ごぼっ! ぐはっ!」


「えい! ほお! とりゃ! シキ、この男が気を失いそうです! 回復魔法を!」


「はい! “ヒール“」


「お嬢さん、筋力を上げる魔法などはないのですかな?」


 三人でよってたかって王子を殴る奴らの姿があった。どうしてそうなった。


「お前の仲間は頭がおかしいんじゃないのか?」


「いや、一人はお前の部下だろ。というか、止めに来たんじゃないのか? いいのか? 王子がとんでもないことになってんぞ? そもそも騎士団の他の奴らは何してんだ?」


 当初の予定通り、いや、予定以上に騒いでいる。クロエを呼び出すことに成功したが、ジジイ以外の騎士団の連中が誰一人としてこの場にいないのはおかしいだろう。王子がボコボコにされてんだぞ。


「お前の姿が見えたからな。他の奴らも臨場しようとしていたが止めた。お前の仲間なら変な事にはならんだろう……そう思っていたんだがな」


 いじめにしか見えない光景を前に、遠い目をして言うクロエ。うんこを投げつけられたくせに、よく俺の仲間を信用しようと思ったもんだ。


「とりあえずさっさと止めてくれ。話が進まん」


 そんな俺の言葉に、嫌そうな顔をしながらもクロエはバカ共へと向かうのであった。

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