未完成
劉沐阳。
生まれて2時間後より懸垂をし、1日後岩山を3寸動かした伝説が語られている。真実は不明。中国で武道を学び、そして創り出した。その名こそ秦全冠兵刺。槍を駆使して相手を攻撃する、至ってシンプルに思えるが実はそこに裏がある。1人に思えるその術だが喰らえばわかる、1万はくだらないそれ以上の人の気を感じる。実際一万以上の攻撃がある。どうしても避けられないこんな最強の武術何故流行らないかと言うと、それは単純で練習段階で身体が耐えられず、最悪死に至る。だから大多数の人間は好まない。最初で恐らく最後の秦全冠兵刺を扱う人間だと思われる。槍の名は嬴趙
生まれにして最強と謳われし我だが、この場においてその肩書きは、霞のように薄い物に思える。そんな奴幾らでも居るのだな。我は外部から一切の情報を得ず、自らの情報を発信せず、道理にしてきたがそれが凶と出た。何故上の者どもは我の秦全冠兵刺を知っているのか、情報の漏れが有ったのか、まあ良かろう外部に漏れど真似できる人間は1人もいなかろう。出場者を見て旋律をした者も居るのだろうか、世間知らず過ぎて誰の名を見ても何も感じない。別に弱みでも無い、強みでも無いが。知っていても知らずともただ只管に勝つのみ。
秦の始皇帝は確か不死に成る為に水銀を飲んだ話があったが、それで不死に成るのなら全人類やっているだろうな。多くの人間が求める不死、然しながら現状では不可能なのだろう。もしかしたら発明されているかも知れぬが、我は死して初めて人間の完成だと思う。まだ生きている我は人間としては未熟であり、未完成だ。そうふと思った森林の中。鳥の囀りも、虫の足音一つも聞こえぬ。誰か動けば絶対に気付ける筈だ。秦全冠兵刺の本領が発揮できる最大の場所は、狭き所。広ければ広い程逃げ場が存在してしまう、秦全冠兵刺の射程距離から出てしまう恐れがあるから。今までそんなこと一度たりとも無いが。“一度攻撃すれば万の傷がつく”そんなこと言われていたが、万程度なら避けられると常々思ってしまう。万が限界では無いのだが、大多数は万でも避けられぬから、万に頼ってしまう。限界値は遥か彼方、限界を知らず日々強くなっていく。完成している武術じゃ攻略される、それに対して秦全冠兵刺は永遠に未完成であるが故に強い。
今ではどれほどまでいけるのか、数えるのがかなり面倒になったのでわからぬが。
練習に没頭していた時期は何日も何日も続けて行い、一度餓死しそうになったこともあった。無論“最強”とは云わぬがそれに匹敵する力は兼ね備えてあると考えている。例え地獄の閻魔だろうと、天界のゼウスだろうと倒す心構えで来ている。
やはり外部を知らないとそれだけ損だな。今ではどの様な技術、武術が発達しているのかが分からぬ。秦全冠兵刺を優に越す物が幾らでもあるかも知れぬ。しかし扱うは人間、それも生きている人間となると敗北が見えぬ。何処まで行っても人間なのだから巨大な鉄塊だろうと、扱うのが人間である以上秦全冠兵刺が越せぬと言うことは無い。越されたら越し返せば良い。
一刻ずつ我も強くなっていく。未完成であるから。
昨日、通知が来た為準備という準備が一切できていない。嬴趙は持ってくることができたが、できるなら鎧兜も欲しかった、過度の準備した方が良かったな。そもそも昨初めて、この世界闘技場という存在を知った為、適切な判断が出来なかった。もしもっと早く世界闘技場を知っていたならば何処までも尽くせたな。急に来るからこそ見えてくる物もあるだろうし、ある種面白くなるだろう。優勝は傲慢かも知れないが準優勝くらいはしたいな、冥土の土産程度にはなるな。
我は動く、今。
この草花、木々に囲まれてる場で音を一切立てぬ人間も強者だが。ある程度の強者相手に一切音を消さずに向かう者も、強者だ。
音を隠そうと言う意思が一切見えない。
馬鹿が天才か。それすら分からぬ。
「秦全冠兵刺」
畳み掛けるぞ、名も知らぬ者相手だが。
「筋がいいな小僧。ちと舐めていた。これまでの大会に出ていたら勝ってたかもな。あの当時の俺なら負けていた気がする」
言葉が少し変じゃないか?そもそもこの大会は負ければ死ぬらしい。連続で出場するのは不可能じゃなかろうが、「あの当時」と言った。前回大会がいつかは知らないが、言えど1、2年だろう。当時という言葉を使うには、近すぎないか。
「お前、いつ出てた?」
「前回、前々回、前々々回、前々々々回だ」
初戦がそんな怪物とは、運がねえな。
「いつも弱い奴しか居ねえと思っていたが。お初のお前がそれ程なら少し今回は期待できそうだな」
秦全冠兵刺は無論最大で攻撃していないが。あんなにも簡単に避けられると少しやる気がなくなる。
「流石にあれが全力とはいかねえよな。並の戦士なら簡単に死ぬが。この大会に出てる物は一応並じゃねえよ」
「久方振りに地上に出て、上手い立ち回りができずにいる。こう言った場合は全力を出した方が良かろうか?」
「押し測るには全力は要らぬが。推し測るのは必要か?」
「否。済まねえな。全力じゃなくて。本当の全力が味わいたきゃ。100年待ってろ」