演目〜浜辺〜
上加世田緑ノ介。
表舞台では落語家として名を馳せているが、裏世界ではヤクザと繋がっている。落語家になる予定など元々なく、幼少期は所謂不良であった。自らで作り出した武術、落拳を駆使して、ある町を占めていた。誰かと戯れる事を非常に嫌っている。落語の腕は上加世田の中でも群を抜いてうまい。常に持ち歩いている扇子は凄く高価なものだそう。
時に勝利を求め、時に名誉を求め、時に争いを求め、時に死を求め。
不定期で行われる世界闘技場。権力者の気紛れで開催される。5年空く回もあれば、1週間しか空かない回のもある。大体3日前に出場者に通告が行く。否が応でも出場してもらう。しない場合は自分以外、生物がいない星に強制的に送られたり、四肢を剥がされながらも半永久的に生かされたり、四六時中水滴の音が鳴る部屋に閉じ込めたりと蘞い事を平気でやってくる。
基本志願して出れるものではないが、おそらく今回は例外、所謂権力者が二人も出場している。態々出るメリットは一切ないのに、ただただ俯瞰していた方が楽しかろうに、我々を競馬の馬の如く賭け事の一つに使えばよかろうに、何故出るのか。
そんな事を考えても意味がない。そんなことよりも連勝中の男がいるのが非常に厄介。ダグラグナ。出場者は13人。ぶっちゃけ12対1の構図でも負ける見込みがあるレベルだ。オッズは1.0倍だろう。安全を取る人が賭ける人だな。つまらねえが。
今回は第20回記念すべき回数だ。こんな不毛な物が20回もあったとなると少し呆れるし哀れみもある。
15回では協力をしてた所もあったらしいが、最後は仲間割れで終わる。こういう物には裏切が付き物と言うか、裏切らなければならないから。
そもそも俺はそう言うものが大嫌いだから関係のない話だが。
落語界からの参戦は初だろうか、全大会を知らないからよくわからないが。確か茶道界はいたかな。あとは小説家もいたな。権力者は裏の裏まで知り尽くしている。俺が不良だったことも、落拳を使うことも。落語は未だに好きじゃない。奥深さみたいな物もよくわからねえ。ただ人間らしさみたいなのが垣間見える話は好きだし、よくやる。
この扇子、醒睡笑はボロボロだな。汚れも傷もある。この戦いに勝てたら新しい物を作ってもらおうかな。
勝算はないが、勝てる確率は0.1%もないだろう。
オッズも何倍だろうな、まあ良いや。
弱さを知れば強くなれると言った人が居たようないないような。弱さを知っても強くなれない時があって嫌になるな。
ダグラグナみたいな人間は“弱さを知らない”のだろうな。勿論凡人の言う“弱さを知らない”とはものが違う。強すぎるが故に、初めっから弱さなど存在していないのだから。
一遍そんな“最強”な人生を歩みたいものだ。弱さを知りたくとも知れない人生を。
弱さを知ってしまったら最後なのだろう。その時点で其奴は弱い。幾ら強くなりたくともずっと弱いままだ、悲しいことに。
知った地点からは強くなっているのだろうが、強くなれば新たな弱さを知る。それの繰り返しなのだから。
この戦いに勝ったら何があるんだろうな。名誉かな、そんな軽いもんじゃねえだろう。狙われる命を守るので精一杯だな。世界闘技場の勝者が暗殺されるのは良くあることだ。一度最強になったら維持しなければいけない。その負担ってのはでけえもんだな。そう言う点でもダグラグナは最強だな。前回、前々回、前々々回、前々々々回の優勝者なのに生きているんだもんな。彼にとって勝利とは呼吸する程度のことなのだろう。俺は逆立ちしながら富士山に登ることよりも難しいことだと思っているが。案外そのくらい気楽にいけば良いものなのか。そもそもある種の憧れがある時点でその人には勝てないのだろうな。自分の持っているものは持っている。それに加えて持っていないものも多く持っているそんな人間に勝てる方法はねえな。むしろそう言う人に殺されるなら本望だな。無論落拳は使えねえだろう。言葉の綾だ。
俺が何年もかけて築き上げてきた物を刹那にして破壊できる強さを持っている人間。会いてえな。
戦いは始まってばかりで終わりに近いな。今何人死んでいるのだろうか。もしかしたら2人だけかもな。
教えてくれよ神様よぉ。勝てる方法を。
ふふ、神に頼むなど末も末だな。
1人くらいは殺したいな。
未知数な人間はダグラグナ以外全員だ。
彼は“来るなら来い殺してやる精神”だからなインタビューにもよく応えているし、練習風景も配信している。真似できる奴はこの世に1人といないだろうが。
ケインジュール首相って奴の名はよく聞くがまさか世界闘技場に出る程の実力者とは。驚いた。
同じ国から出ているのは2人か、同国か否かなど至極どうでも良い話だが。下手に動けねえな。砂浜ってのは戦いにくいから彼ら彼女らは選ばねえのだろう。落拳は場所を問わず使えるから、できれば皆が戦いにくい場所が好ましいが、じっとしているのも俺の道理に合わねえ。一様悪名を轟かせていたからな、面子が立たねえ。これで帰っても自尽するわ。
この闘技場の広さは如何なものか、周囲は海で囲まれているのが辛うじて分かるが、内陸部にどう言った建造物があるのか、将又更地なのか、行きたくとも行けねえな。昨日手紙が来て起きたらこの地に居て...理解しようとする方が馬鹿だな。武器の持ち込みは良いらしいがいつどのタイミングで持ってくれば良いのかわからなかった。結局常に持ち歩いている扇子しか手元にない。極論戦車でも戦闘機でも良いってことなんだろうな。だとしたら太刀打ち出来ないからいいか。あとは...
そうか船もあるのか。
しかし筏とは面白い。モーターボートなどなら戦いやすかろうに何故筏にしたのか、しざるを得なかったのか。いま作り上げたものか。戦う時にゃちゃんとやるぜ。相手は気づいているよな、俺を見ていると言うより遠くの何かを見ている様だが、逃げも隠れもする気がねえな。見るからにダグラグナでは無さそうだな、勝算は全然あるな。背丈は俺より小せえな、身長差は結局何処でも重要だが、なんでもありのこの戦いだと、“小さいが故”みたいなのを繰り出してくるかも知れない。安堵は最悪な感情となるな。
もし俺が銃を扱う人間ならば彼奴はもう死んでいるのだろうか、筏を漕いでいるとは大馬鹿者としか思えねえが、それも策略だとも考えられる。銃弾が来ようが、ミサイルが来ようが対応できる策があるんだろうな。それか根っからの呑気者か。仮に銃弾が来ようが、ミサイルが来ようが対応できる策があるとすると、なんだろうか。絶対的な盾か、あるいは予知できる何かを保持しているのか、将又それをも凌駕する武器を携えているか。最悪のケースは最後だがあの筏に“それ”はないだろう。
あと何分待てば岸に辿り着くか、前座は終わりだ。彌本編。一体どの様な爆弾を抱えているのか。
一見すると武器は携えていない様に思えるがそんだ軽率な判断、この闘技場でしてはならぬことだ。覚えているのだと18回大会では二の腕の中にナイフを隠していた輩もいた筈だ。とすると例えばあの毛量が多い髪の中、或いは筏の木は実は空洞でそこに隠しているか。こんなことをしては埒があかないが。
落拳の最大の特徴は攻撃の波が下に落ちると言う点だ。普通は殴ればその手と同じ向きに波が行く、しかしながら落拳は正面に殴れど、斜めに攻撃の波が行く。
拳➡️➡️(普通) 拳➡️↘️(落拳)
それ即ち避ける術がないと言うことになる。拳にぶつかった衝撃に加え、落拳で落ちた波が足付近に攻撃をする2段階攻撃。何故そのようになるかは、未だ不明だが使い勝手がいいから使ってしまう。
この距離なら届くだろう。どんな攻撃をしてくる?攻撃は最大の防御、総て止めてやる。
落拳。
「例え火で無くとも発動する」
何言っていやがる。
「負けだ」
海に逃げたか、やはりとんでもない“爆弾”は無さそうだな。
「起爆」
爆発しただと...思考が追いつかねえな。刹那もなく巻き込まれるか。爆弾か、筏自体が。
面白えただで爆弾を食うタマじゃねえよ、俺は。
「爆弾魔、と呼ぶこの術は」