3.令嬢ルージュ
「姿がお見えにならないと思ったら……その小汚い猫に構っていらしたの?」
呆れた目を向けて、ルージュは言った。
小汚いって酷い言い方だ。まぁ、庭に転がってたのだから汚いかもしれないけど……。
「ああ、庭で見かけて。周りに親猫もいないようだし、とりあえず連れ帰って保護をしようと思ったのだが……」
「全く……どうせいきなり持ち上げたりしたのでしょう?」
「そ、そうだが、ダメだったか?」
「ダメに決まっているでしょう!」
ロールをキッと睨みつけ、ドレスの裾が地面についてしまうのもお構いなしにルージュと呼ばれた女性は、しゃがみこんだ。
「いきなり不躾なことをされて怖かったでしょう? もう大丈夫ですよ」
優しい微笑みと声色だった。ルビーのような赤い瞳が細く、唇は小さく弧を描いていた。
なんか、小汚いって罵られたけど、いい人そう?
「最近は魔物が現れて危ないから、保護をしたいのだけれど……貴女を連れて行ってもよろしいかしら?」
え、魔物いるのこの世界。
それなら、絶対に連れて行って貰った方がいいだろう。元々そのつもりだったし……。
「は、はい! お願いします!」
「ふふ。では、ついてきてくれるかしら?」
「わっ分かりました」
……これ、言葉通じてるのかな?
「私達についてきてくれるそうよ」
「おお、そうか。良かった!」
「貴方に任せるのは不安だから、ひとまず私のところで預かりますわ」
「そうだな……動物の言語が分かるお前やアズの方がこの子も助かるだろう」
動物の言語が分かる!?
じゃあこのお嬢様は私の言葉が分かるんだ! あと、アズ? っていう人も。
あれ、逆にロールは私の言葉が分からないってこと……だよね。本当に今まで会話成り立ってなかったのか……。
「ではゼレナー様、またあとで」
「ああ、ルージュ」
ロールは歩いて去っていった。この場には私とルージュさんが残った。
「それでは、行きましょうか。こっちよ」
「あっ、はい!」
ゆっくり歩くルージュさんの後に続いた。時折振り返って、私のペースに合わせて歩いてくれているようだ。
「あ、あのー……」
「なにかしら?」
「言葉が分かるって、本当……なんですか?」
「ええ。本当よ」
ほ、本当なんだ……。さっき言葉が分かるって聞いて喜んだけど、ちょっと半信半疑だった。
「試しに……そうね。貴女の名前を教えてくれるかしら」
「えっ、えっと、マオです。アオヤギマオ」
「アオヤギマオ……? 珍しい名前ね。マオがファストネーム?」
「は、はい」
な、名前が伝わってる……!
本当にこの人言葉が分かるんだ。だって、もし私の言ってることが分からなかったら、名前なんて当てられるわけがない。