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第7話 馬山駅

店の中に入ると



大学生らしいアルバイト店員がいた。



私はそばに寄って行って、



「包丁ありますか。」



耳元で声のトーンを落として



聞いた。



出し抜けの言葉に



店員は



「ぎょっ」



とした顔で私を見た。



客を乗せたタクシーの運転手が



包丁を買う。



店員は戸惑とまどった様子で



「包丁は置いてないんですけど。」



と言った。



この様子を禿原は見ているから



これで納得なっとくするだろうと



私は車に戻った。



「やはり包丁はなかったですよ。」



禿原の表情を見ながら私は言った。



「じゃあいいや。」



やっとあきらめたように



禿原が言った。



まったく困ったやつだ



と思いながら、



こんなことしていて



これから先どうするつもりなんだと、



ひとごとながら心配になった。



もうすでに



ホームレスなのだ。



これからどこかの組に拾ってもらおうとしても、



こんな情けない奴では



どこも拾ってはくれないだろう。



天涯孤独てんがいこどく



誰にも看取みとられず



野垂のたにするしかないのではないか。



これから先、



どうあがいてもどうにもならず、



どんどん下って行く



この人の人生の末路まつろ



確定してしまっているような気がした。



馬山駅に着いた。



駅前のタクシー乗務員に



凶田組の事務所をたずねたが



よくわからない。



しかたなく



私が以前聞いた、



うろおぼえの事務所の周辺を



探してみたが



結局わからなかった。



「お客さん、



組事務所はこのあたりにありますから、



あとはお客さんが近所で尋ねて



探してもらえますか。」



私が出来ることは



ここまでだろうと思って言った。



「俺はそこの寿司屋でんでるから、



組事務所を探して、



組の若いのを連れて来てくれ。



いいな。



必ず連れて来いよ。」



禿原はそう言いながら



降りて行こうとする。



「お客さん、



だめです。



料金払ってから行って下さいよ。



これだけ金額が出ちゃってるんですから。」



私はあわてて言った。



「組事務所見つけて



組事務所で金もらってくれ。」



禿原が平然と言った。



「ふざけてもらっちゃ困りますよ。



お客さんが組に仁義もしていないのに



組で料金払ってくれる訳ないじゃないですか。



じょうだんじゃないですよ。



お客さんに払ってもらえないなら



警察に行くしかないですが、



いいですか。」



私の態度もぞんざいになって来た。



「金がないんだ。」



禿原がしぶしぶ言った。



まったく、



これだよ。



結局最後はこうなるんだ。



これだから嫌なんだよな。



「全然ないんですか。



いくらあるんですか。」



こうなったらしかたがない。



持っているだけもらうしかないな



と思いながら聞いた。



禿原はズボンのポケットに



手を突っ込んで



探っていたが、



一握りの小銭と



千円札一枚を出して



「これしかないんだ。」



と言った。



料金は待ち時間も入って



四千円を越えていた。



私はその千円札一枚と小銭を受け取って数えた。



三千円にも満たない額だった。



まるっきりタダでは、



この金額を私が自腹じばら



会社に払わなくてはならないことを考えたら



千円ちょっとの損失で済むなら



いいかと思った。



「それじゃあ、



これだけでいいですよ。



あとはサービスしておきます。」



と言ってタクシーのドアを開けた。



禿原は降りようとしたが



振り向いて、



あそこの寿司屋にいるから



組の若いのを連れて来てくれ。



わかったな。



必ず連れてこいよ。」



念を押して降りて行った。



私は迷ったが、



少々禿原が気の毒に思って



組事務所を探して



若いのを連れて行ってやろうかと思った。



そして、



そのすぐ近くにある



大草タクシーの事務所に入って行って、



中にいた無線番に



今までのいきさつを話した。



「それはこれ以上、



かかわらないほうがいいです。



ろくなことはありません。



ほうっておきなさいよ。



このまま帰っちゃったほうがいいですよ。」



無線番が心配して言った。



私はそれもそうだなと思って、



禿原には済まない気がしたが、



そのまま帰ることにした。


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