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第59話 銃撃事件

昼を過ぎて時計が三時を回った頃だった。


駅北口の先頭で客待ちしていた。


暇な時間帯で待ち時間がどうしても長くなる。


もうだいぶ前から先頭にいる。


やっと後方から人が歩いて来る気配がしてドアを開けた。


男が体をかがめて入って来た。


見ると中小会狭瀬組の幹部、山道だった。


うわ、参ったなと思った。


「風呂屋に行ってくれないか。」


乗って来るなり山道は言った。


「風呂屋ってユーランドでいいですか。」


ここからはそこが一番近いし短時間で仕事も終わる。


ヤクザと長い時間一緒にいなくて済むと思って、


そこに決めようと思った。


「あそこはダメだ。シャツを脱いだ途端、


マネージャーがすっとんで来るんだ。


背中に墨入れてるからな。」


山道はあわてて言った。


「他にないか。入れ墨でも入れてくれるところ。」


他にないかと言われても


私は入れ墨したことがないから


どこが断わられないかなんてわかるわけがない。


「ちょっとわかりませんね。」


そう言えば山道があきらめて降りてくれるかと期待して言った。


「そうか。」


山道があきらめたように言った。


うまくいった。


私は内心ホッとした。


こういうたぐいの人を乗せると


ちょくちょく面倒なことになる。


出来れば関わりたくないのだ。


私は山道が降りるだろうと思って


ドアレバーに手をかけた。


「じゃあ、あそこへ行ってくれ。


あそこのほら、


馬山駅の南口にあるだろう。あれだよ。」


山道は名前がなかなか出て来ないようだった。


「あれですか。」


あれじゃわからないよなと思った。


「そうだ、あれだ。五朝だ。五朝。わかるだろう。


そこへ行ってくれ。」


やっと行き先が決まったはいいが、道中が長いのだ。


気分はうんざりだった。


私はその頃、


タクシー乗務を始めてまだ日が浅かったために


馬山駅周辺はあまりくわしくなかったが、


五朝は仲間から教えてもらって場所はわかっていた。


ヤクザじゃ面倒で嫌だなと思ったが、


断れば乗車拒否を盾に何を言って来るかわからない。


仕方なく走り出した。


駅前の信号を右折して国道へ出た。


山道は意外に気さくでよくしゃべる。


「以前、箱山駅で銃撃事件があったろう。知ってるか。」


山道が話しかけてきた。


ヤクザの話題はたいがい抗争事件やシャブの話になってしまう。


そういう世界にいると、


どうしてもそれ以外の話題がないのだろう。


「ああ、そういう事件があったらしいですね。


白タクの人が撃たれたっていう。」


その事件は私がこの会社に入る少し前の話しになるが、


ヤクザ関係にくわしい梨原から聞いたことがあった。


「そうだ。白タクの谷岡が撃たれたんだが。


あいつを撃ったのが俺なんだよ。」


山道は得意げに言った。


「えっ、山道さんが撃ったんですか。」


何を言い出すんだと私は思わずびびった。


精神が変になっていれば


うしろから拳銃をぶっぱなすかも知れないからだ。


「それじゃ、私も撃たれちゃいますかね。」


私はうろたえて訳のわからないことを言っていた。

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