表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/63

第57話 ユーランド

夜もふけたころ、



無線で温泉「ユーランド」の無線が出た。



数ヶ月前から



突然ユーランドへ迎えに行くようになった



山橋という客だ。



週に二、三回のペースで電話が来る。



遊び人風で何の仕事をしているのかわからない



得体の知れない雰囲気を感じさせる人物だ。



そこから浅山駅近くのアパートまで行く。



ユーランドの正面玄関に車を着けた。



強化ガラスのドアから



フロントの従業員と山橋が話しをしているのが見える。



しばらく待っていると



山橋がこちらに歩いて来た。



心なしか、いつものふてぶてしい雰囲気はなく、



しおれて元気がないようにも感じられた。



「まったく困ったことになっちゃったよ。」



山橋は乗って来るなり言った。



「何かあったんですか。」



何に困っているのだろう。



私は興味をかれて聞いた。



「ここには泥棒がいるんだ。」



「えー、泥棒ですか。」



「そうなんだ。金取られちゃったんだよ。だからいま金ないんだ。」



「えー、金ないんですか。」



「いや、タクシー代はユーランドの支配人に借りて来たから大丈夫だよ。」



山橋は無賃乗車ではないことを強調するように言った。



「警察には連絡したんですか。」



「うん、連絡したらすぐ来たよ。」



「でも誰が取ったんだかわかるんですかね。



一人づつ持ち物を調べなければならないんですから。」



犯人がしらばっくれていれば



見つけるのは難しいのではないか、



それとも逃げちゃったのかなと思いながら言った。



「いや、ロッカー室に防犯カメラがついていたんだ。



それを警察が調べたら盗んでるところがハッキリ写っていた。



それで捜索したら犯人はまだ中にいたんだ。」



「えっ、いたんですか。間抜けですね。



ふつう金取ったらすぐ逃げるでしょうけどね。」



「そうなんだ。だからすぐ捕まった。」



「よかったですね。



犯人が逃げて金使っちゃったら戻って来なかったとこですよ。」



私も他人事ながらホッとした気持ちになった。



「ところがよくないんだ。



金は証拠品として警察が持って行っちゃって、



返してくれないんだ。



俺の金なのにさ。どうなってるんだ。



何ヶ月も経たないと返してくれないらしい。



今月の生活費全額だよ。



ユーランドの金も払えないしタクシー代もないから、



ユーランドの代金は後払いにしてもらって、



家に帰れないからタクシー代を貸してもらったんだ。」



山橋は困り果てた様子で言った。



「それは大変だったですね。



証拠品だと、その場で返してくれないんですか。



知らなかったですね。



全額持ち歩いていると、そういうとき困っちゃいますね。」



なぐさめるつもりで言ってはみたが、



たぶん慰めにはなっていないだろう。



生活費はどうするのだろう。



貯金はあるのだろうか。



遊び人では貯金していないかも知れないなと



少し心配になったが、



ふと、カギは身につけていたはずだから、



どうして盗まれたのだろうと疑問がいた。



「でもカギはどうやって開けたんでしょうね。



針金か何か使ったんですか。」



「いや、カギで開けたんだ。」



「カギは身につけていなかったんですか。」



「そうなんだ。



俺はサウナが好きだから。サウナに何回も入って、



そのあと仮眠室でロッカーのカギを枕元に置いて寝てたんだ。



のどが乾いてビールでも飲もうと



ロッカー室へ行って財布を出してみたら金がない。



確実入れたはずなのに入っていない。



やられたと思ったよ。



俺が寝ているあいだに



枕元のカギでロッカーを開けて



財布の中身を抜き取って、



カギをまた枕元に置いといたんだ。」



「うわぁ、うかうか出来ないですね。



防犯カメラがなかったら犯人は見つからなかったですね。」



やはりカギは腕につけておかなければ



ちょっとした隙に盗まれるものだなとあらためて思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ