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第54話 スナック ホザミ

無線配車で美容室エルの店の前に着けた。



しばらくするとドアが開いて



キチっと髪をアップにセットした



五十がらみの女性客が



店の経営者とおぼしき女性美容師とともに現れた。



美容師は卑屈に見えるほど腰を低くして



客の熟女をタクシーまで誘導すると



ドアを開けて待っているタクシーに



乗り込む客に丁重に頭を下げた。



すると乗り込んで来る客の顔に



ドッと横殴りの突風が吹いて、



はたき付けた白粉おしろい



桜吹雪のように吹き飛んだ。



化粧の乗りが悪いんだな。



私は一瞬思った。



客はむすっとした顔で笑いもしない。



車の外では美容師が丁重に頭を下げている。



「ホザミまで」熟女がボソッと言った。



「はい、かしこまりました。」



何だかおっかない人だな。



うかつに話しかけでもしたら怒られそうだ。



と思いながら車を発進させた。



飲み屋街の信号を左折して大通りに出た。



信号の多い通りだから



JRの跨線橋こせんきょうまで行くのに幾度か止められた。



熟女は無言だ。



跨線橋を越えた先に



国道の信号があることで、渋滞する。



国道が優先で信号がなかなか変わらないからだ。



橋の上までノロノロ上がった。



上から見渡すと



そこから先も国道の信号まで車がつながっている。



これじゃあ橋を下がったところの右折車線に入って



駅前通りから国道に出たほうが早いなと私は判断した。



道路の右側のポールと



車の間に抜けられそうな隙間があるのを利用して、



そこを抜けるといている右折車線に入った。



「おい、何やってんだ。



どこ行くんだよ。バカヤロー。



道が違うじゃねえか。」



突然罵声が飛んで来た。



「えっ、あ、いや、渋滞してますので、



脇道へ抜けようと思ったんですよ。



こっちからのほうが早いと思いますが。」



咄嗟とっさに私はどぎまぎして言い訳をした。



「余計なことするんじゃねえよ。



勝手なことするな。




でもまあ、こっちに来ちゃったんだから、しょうがねえな。」



熟女は不機嫌そうに言った。



「勝手なことして、すいません。



だけど、こちらからのほうが早いですよ。」



私は相手の感情を逆なでしないように



気を使いながら言った。



何なんだこの人は。



言葉がひどいな。



私は脂汗が噴き出し、体がかっと熱くなった。



右折車線に入って空いているのはいいのだが、



右折しようとウインカーを点滅させて、



タイミングをはかっているが、



対向車の流れが途切れず、



いつまでっても曲がれない。



私は焦りで体がまた熱くなってきた。



車間が少し空いている車が走って来た。



しかし、この間隔ではあまりにもギリギリで危ないと思って、



突っ込むことをためらった。



「おら、ここで曲がるんだよ。



何やってんだ。バカヤロウ。



モタモタするな。お前プロだろう。



ここで行かなくてどうするんだよ。」



うわ、おっかねえ。



「あ、すいません。



あくまでもお客さまの安全第一ですから。



やっぱり安全運転でないと、責任がありますから。」



私はまた体が熱くなって



脂汗を噴き出させながら弁解した。



「お前プロなんだろう。



プロは運転がうまいんだからな。そうだろう。」



「いやー、私は運転が下手なんです。



だから速く走れないんですよ。」



「何言ってんだよ。それじゃあプロとは言えないんだよ。」



私は早くこの客を降ろしたいと焦りながら



対応に苦慮くりょしていた。



やっと右折出来たときは安堵の息をついた。



細い道を抜けて



駅前通りを左折して国道の信号へ出た。



私の予想通り車はなく、すぐに右折出来た。



よかったー。



ここが混んでたら、どんな目に会わされるかわかったものではないな。



私は胸をで下ろしながら思った。



スナックホザミはここからすぐのところだった。



こういう客を乗せるとドッと疲れるものだ。



後日、この熟女は服役中に獄死した



武闘派の武山組組長、



武山虎雄のめかけだったと、



ヤクザ通の梨原が教えてくれた。



どおりでヤクザの姉御あねご



ヤクザ見習いの新人を教育するような態度だったのだ。



なるべく乗ってもらいたくないのだが、



嫌だと思うと余計に出会う機会が増えてしまう



というのが人生の皮肉というものなのだろう。

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